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従兄弟とやっとの遭遇

 

 冬の長期休みに入ってからというもの、オーランドは何度も我が家に手紙を送ってきた。

 内容は「エミリアに内緒で会おう」だの「二人きりで会いたい」だのふざけた内容のものが多数だった。我が家は私の検閲無しにモクバへ手紙など届かないというのに。

 一応モクバにも手紙の内容は伝える「二人で合わないかとオーランドから手紙が来ている」と。

 モクバは「なぜ?」と疑問符を頭に浮かべたまま「どちらでもいいです」と曖昧に微笑むだけだった。

 そのため、この長期休みはモクバはキツめの風邪に罹ったことにして全ての誘いを断った。


「…いいのかなあ」


 領地内の凍った湖の上をスケート靴で器用に滑りながらモクバは言った。

「何が?」

 と、エミリアが聞くと「王族の方からの誘いを断るなんて」とモクバは不安げに言った。

「いいのよ、もう手紙も燃やしちゃったし」

 断りの手紙を入れたのは最初の一回だけ。それ以降は返信すらしていない。

 正直不敬極まりないが、礼儀がなっていないのは向こうの方だ。

 誘いを断られて1週間と経たずに誘いの手紙を何度も送ってくるなんて「貴方仮病を使っていますね!」と暗に言ってきているのと一緒だ。

 風邪を引いていることになっているんだから返信などいらん、とエミリアはオーランドからの手紙をことごとく暖炉にくべていた。


 この前オーランドにひどいことをされたのを忘れたわけでもあるまいに、モクバはうーんうーん唸って良かったのか否か頭を悩ませているようだった。

 真面目に育ってくれてうれしいが、危機管理はなっていないなとエミリアは軽くため息を吐いた。


「おーい」


 しばらく適当に滑っていた二人だったが、岸の方から声が響いた。

 エミリアがそちらをみるとトゥリアンダ家の従兄弟である【サフロン・ティス・トゥリア】がそこには立っていた。

「げ!」と思ったときにはもう遅く、サフロンはこちらに向かって滑ってきている。

 今日うちに来るなんて聞いていない。


 家族間交流では親同士のやり取りや、エミリアがサフロンの屋敷に赴き遊び相手をしてやったりしていた。

 大抵招待されないと屋敷にはやってこないので、エミリアが両親にサフロンを招待するなと釘を刺していたのだ。

 理由としてはやっぱりモクバを狙う男人の一人だから…というのもあるのだが、純粋にサフロンの性格にも起因していた。


「エミリア~!あれ…こいつは…」


 急いで滑ってきたのか汗をにじませて傍に来たサフロンは青い瞳を瞬かせてモクバを見つめた。

 あっけに取られていたモクバだったが慌てて「個人的な挨拶は初めてですね」と頭を下げた。

 貴族へのモクバお披露目会の時にサフロンは参加していたし、親を伝って互いの自己紹介も完了していた。

 …とはいっても最後に接近したのはモクバが5歳、サフロンは7歳のころだ。互いに記憶が薄くても仕方がない

「ああ、モクバか。でっかくなったなあ」

 そう爽やかに笑うサフロンは、暑かったのかニット帽をとる。

 アルトゥヌと同じ色合いのミルク色の髪がなびく。柔らかそうにほんのりウェーブがかった髪が輝く。


「俺も…美しく育っちゃっただろ…」


 そう言ってサフロンは自身の前髪をかきあげ、きらりとキメ顔を作る。

 顔の造りがアルトゥヌにそっくりではあるものの、骨格などがやはり男なので見ていて不快だとエミリアは思った。

 なんなら母に顔が似ていなかったら手が出ていてもおかしくないくらいうざいのだ。


 …従兄弟のサフロンはとんでもないナルシスト野郎だ。


 トゥリア公爵家の長男で、彼の父はアルトゥヌの兄でもある。

 彼の父はアルトゥヌの完全なる男バージョン、と言った見た目でアルトゥヌよりもきつい天然パーマなミルク色の髪を幼い頃よく触らせてくれていた。

 どうしてあの優しい聖人叔父さんからこんなナルシシズムの強い子どもが爆誕するのか謎だ。

 サフロンの母はサフロンを出産しすぐ亡くなってしまった。今は後妻を迎え、それなりに仲良くやっていると聞いているものの、特にその後妻夫人の性格が曲がっているわけではないようだ。

 実の母親が亡くなってどこか歪んでしまったのかもしれないが、どう歪めばこうなってしまうのか。


 ポケットにしまっていたのか小さな手鏡を取り出したサフロンは「まるで…!雪の…!妖精…!みたいッ…!だッ!」と言葉の節々で様々なポーズをとっていた。

 そんなサフロンを呆然と眺めていたモクバは、我慢できなくなったのか吹き出し「サフロンお兄様、こんなユニークな方だったんですね」と笑った。

 笑われた理由が分からなかったのかサフロンも一瞬ぽかんとしたまま固まっていたが「ああ、俺は何でも秀でているタイプだからな」と胸を張った。

 そんな二人の微笑ましいやりとりを見ながら、エミリアは「笑えるのは最初だけよ」と思ったのであった。


 *


 エミリアたちは屋敷に戻ってきた。

 暖炉で暖を取りながら、サフロンは話した。


「生徒会の誘いがあったのに乗らなかったのか?」


 エミリアは頷くと「時間を多くとられるでしょ」と答えた。

 生徒会というのは基本的は成績優秀な5~3年生から推薦され本人が許諾すれば入会することのできる学園の伝統部だ。


「それに、私は2年生だから完全に雑用要因で声をかけられたんだわ」

 エミリアが呟くと「2ねんで声かけられるなんて名誉だと思うけどなあ」とサフロンは漏らした。


 周りの目を気にせず男女で集まれる唯一の学内活動会であり、生徒会に所属したものは互いの校舎に申請無く訪れることが可能だ。

 今は互いの図書室に行くとき、どうしても必要な器具がありとりにいかなくてはならないときなど都度申請を出さなくてはならず面倒だ。

 反対にその制度のせいで雑用を多くやらされるのも問題だ。あれをとってこいだれだれを呼んでこいだの。エミリアは何度も使い走りさせられる生徒会の部員を目撃している。

 それに、婚約者探しにやってきた令息や令嬢は生徒会に入ると箔が付くため、生徒会入部を目指して勉学に励む者もいるほどだ。

 エミリアも推薦されていたのがモクバのフラグ破壊及びディフェンス作業のために入会を拒否していた。


「もったいないなあ、俺だったら即入部だよ」


 そう言ってサフロンは生徒会に属している自分を想像しているのか目を瞑って「ふへへ…」と笑い始める。

「無理よ、成績が悪いもの」

 と、エミリアがいうと「わはは、それもそうだ」とサフロンは笑った。

 サフロンはナルシストだがプライドはそこまで高くない。怒ったりしてこないのは絡みやすくていいなとエミリアは思っていた。


「お姉様、」


 悲し気に眉を曲げたモクバが毛布にくるまってエミリアを上目遣いで見つめた。

 いつもはふわふわと軽そうな前髪が雪でしっとりと濡れて艶々と重たく垂れている。

 まつ毛も長く、濡れたことにより一本一本視認できる。これが…主人公…パワー…。

 エミリアは仏のような顔のまま「モクバ、なに」とロボットのように返事すると「僕も生徒会に勧誘されるくらい、勉強頑張ります」と言った。


 なんと健気でかわいいんだろう。エミリアは傍にいるサフロンが「濡れた俺はどの角度だと一番いいか意見をくれ」とぐにゃぐにゃ動いているのを無視しモクバを抱きしめた。


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