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another②

おまけです!

ちいちゃいモクバとエミリアのはなし

 

 小さな手が、ハエルのスカートのすそを引っ張る。

 カゴいっぱいのタオルを抱えていたハエルは慌てて引っ張られた対象を見た。

 そこには小さな主人、モクバが居た。


「モクバ様、おはようございます」


 ハエルは微笑み言ったが、モクバは恥ずかしそうにうつむいたままだ。

 呼び止められた、ということはなにか用事があるのだろうとハエルはカゴを抱えたまましゃがみ、モクバの目線に合わせる。

 このトゥリアンダ家にやってきて2年が経ち、モクバは5歳になった。

 屋敷にやってきた日はそれはそれは小さく、赤ん坊のようにふくふくとした腕は健康的ではあるものの乳児的な肉付きは薄れていた。


「…おねえさまは、なにがすき」


 口を尖らせて、恥ずかしい気持ちを隠しきれないのかそわそわとした様子のモクバをハエルは可愛らしいと思った。

 自分は一人っ子で、あまり小さな子の面倒は見たことがない。

 エミリアは生まれた頃から傍で仕えているものの、幼い頃からそれはそれは泣かないしいうことはすぐに理解するし…小さな貴族を相手している感覚なのだ。

 今目の前におられるモクバは数年前まで平民の家で育ち、すくすくと子どもらしく大きくなっている。

 ハエルはそれがうれしくて、口角が上がるのを抑えられなかった。


「エミリア様…の好きなものですか?」


 ハエルがうーんと考えるしぐさをすると、目に見えて僕はドキドキしていますというようにモクバは自身の胸の前で拳を作った。

「…お絵描きはお好きだと思います」

「おえかき」

「あとご本をお読みになるのも」

「ごほん…」

 復唱するたびにうんうんと頷いて見せるモクバがかわいくてかわいくてハエルは今にも抱きしめてしまいそうな衝動を抑えながら、エミリアの好きなものを頭の中でどうにか思い出そうと記憶を掻きまわした。

「あとはー…そうですねぇー…お食事はシンプルな味のものがお好きです」

「しんぷる…?」

「お紅茶にお砂糖を入れないとか、」

「おねえさまって、おとなだね」

 モクバの返事にうんうんと深く頷いたハエルは「そう、大人…なんです」と呟くように言った。


「あとはお花ですかね」

「おはな…?」


 首を傾げるモクバにハエルは微笑みかけ「エミリア様の好きなお花、一緒に見に行きますか?」と尋ねた。

 モクバは飛び上がるようにまっすぐと伸び「いく!」と元気よく答えた。


 *


 ハエルとモクバは庭にやってきた。

 ここはエミリアの部屋から見える、エミリアのために整えられた庭だ。

 モクバの部屋からは反対方向に位置するのでモクバはあまり訪れたことがないようで、興奮したようにあたりを見回している。

「ぴんくでいっぱい」

 そういってモクバは嬉しそうにしている。

「そう、エミリア様はピンクも好きなんです」

「おめめも、ぴんくだから?」

 モクバが首を傾げると、ハエルはうんうんと頷き「そうですね、苺のように可愛らしいピンクの瞳ですよね」と言った。


「こちらの花が…って、モクバ様?」


 庭に入ってからハエルはモクバに花々の説明を行っていた。

 いつもエミリアとはエミリアから手を握ってくるので手を繋いで歩いていたものの、使用人から貴族の令息の手を握るのはためらわれ、後ろをついてくるようお願いをしていた。

 だが、後ろを振り向くとそこにモクバの姿はなかった。

 慌てたハエルは「モクバ様ー!」と声を上げ、あたりを見回した。


「ハエル!」


 木々の隙間からモクバが飛び出てくる。

 そんなモクバの傍にハエルは駆け寄り、傍に膝をつきどこにもけがはないか触診する。少し汚れた程度でケガはなさそうだ。

「ああ、びっくりした。ハエルの心臓が爆発するところでした」

「ごめんね」

 そんなモクバの手元を見ると小さな花が握られている。

「…これは?」

 ハエルが聞くとモクバは嬉しそうに微笑み「いい香りの花があったから」とハエルに見せた。


 その花はエミリアが大切に育てているピンク色のジャスミンの花だった。


「あ…、と、」


 エミリアが大切に大切に、と生垣の下部に紛れさせてこっそり育てているのを使用人一同知っていたもののみな知らぬ顔をしていたのだ。

 視線の低いモクバには丸見えだったようで、野花と勘違いし折ってしまったのだ。

 ハエルは脳をフル回転させるもよい打破方法を思い浮かばない、もう自分が折ったことにして罰を受けるしかない…そう思った時だった。


「そこでなにしてるの」


 エミリアの凛とした声が庭に響いた。後ろにはラタンも控えている。


「あ、おねえさま!」


 ジャスミンの花を握ったままモクバはエミリアの傍に走り出す。

 ハエルはモクバを止めようと手を伸ばしたが届かない、血の気が引くのを全身で感じる。


「これ、おはな!」


 もうだめだ。ハエルはそう思って目を瞑る。

 モクバの差し出したジャスミンの花をみて、ラタンも顔を蒼くしている。


「あら…、これはジャスミンね」

「じゃすみん?」

「見つけたの?」

「うん!」

「…綺麗だわ。ありがとう」


 そういってエミリアは微笑むと「このジャスミンを浮かべてお茶でも入れてもらいましょうか」とモクバの土で汚れた手を握った。


 よたよたとラタンの傍まで歩いてきたハエルだったが、ポカンとエミリアを見つめる。

 二人の視線に気が付いたのか、エミリアは二人の顔を見て人差し指を口元に寄せ微笑んだ。


 *


「お嬢様って天使みたい…」

 ハエルが呟くと「もっと笑ったらいいのにな~」とラタンが言う。

「時々笑うのもお可愛らしいわ…」

 うっとりとハエルが言うと「げえ~お嬢様オタク」とラタンが顔をくしゃくしゃにして舌を出した。

ジャスミンのピンク色がかわいくて…

花言葉は『誘惑』『官能的な愛』『優しさを集めて』『あなたは私のもの』らしいです。

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