トゥリアンダ家の食事会
部屋につくとすでに食事の準備が始められていた。
モクバは部屋に入ったと同時にきょろきょろとあたりを見回し、天井に携えられた大きなシャンデリアを眺めていた。
「立派でしょう、お母様の実家からいただいたそうなの」
…つまり王室からのいただきもの、ということだ。
なかなか豪勢なこの邸宅だが、それに輪をかけて豪勢なシャンデリアなのだ。…少し異物感があるほど。
「あら、エミリアとモクバは一緒に来たの?」
メイド長のベルゼに支えられるようにして母アルトゥヌが部屋に入ってきた。
手をつないで佇んでいる二人を見てニコニコと嬉しそうだ。
「もう仲良しさんなのねぇ、ベルゼ、二人のことを写真に残したいわ」
そう言ったアルトゥヌの言葉を聞いて「明日は写真家を呼びますか」とベルゼも頷いた。
エミリアは改めて自分が4歳であることを痛感した。
気持ち的には女子高生だったので、お姉さんが子どもを連れてきたくらいの気持ちだったが、傍から見たら1つしか年の違わない女の子が男の子の手を取ってお姉さんごっこしているようにしか見えないだろう。
「モクバは…この席よ」
モクバの席まで本人を連れて行くと、エミリアはパッと手を放し小走りで自分の席へ駆け寄る。
「走ってはお行儀が悪いですよ…」
そう言ってハエルは「ふんっ」と掛け声とともにエミリアを持ち上げ椅子に座らせた。
まだ10歳だから仕方ないとは思うのだが、まるで自分がすごく重いみたいで掛け声を聞くとちょっとショックだ。
「お父様は?」
エミリアが言うと、アルトゥヌも上品にモクバの隣である自分の席に座って微笑んだ。
「そろそろいらっしゃると思うわ」
にっこりと微笑むアルトゥヌは聖女、いやもう女神の域だろう。
伏せっている間に少し頬がこけたように思うが、それでも美しいし王室パワーを感じる…。
アルトゥヌがモクバにあれやこれや話しかけているうちに、少し早歩きで父が部屋に入ってきた。
「ゼェ…少し、遅れた」
せかせかと自分の席に着くと、一呼吸おいて使用人から水を受け取った。
一口水を飲み、エミリアやモクバ、アルトゥヌのことを見渡した。
「モクバが我が家に来てくれたこと、嬉しく思う」
ぎこちないが笑顔をモクバに向け、父は静かに右手を上げた。
ぞの合図を一緒に次々に料理が机に運ばれる。
モクバは小さく「わ…」と声を漏らし目を輝かせた。
「モクバのために用意させたんだ。好きだと聞いたカモ肉もある。好きなだけ食べなさい」
父はそう言って、また一口水を飲んだ。
***
あっという間に食事会は終わり、静かに解散となった。
小説にあったような、モクバが粗相をし気まずくなるようなこともなかった。
きっとモクバの心の余裕が反映された、のだと思いたい。
「お、おねえさま」
さっさかと歩くエミリアの後ろを、懸命に小走りでモクバが追いかけてくる。
…ハムスターのようで愛らしい。
「どうしたの」
エミリアは歩みを止めてモクバを見た。自分を追いかけてきているとは思わなかったので悪いことをした。
「きょ、今日はありがとうございました」
ぺこりとモクバは頭を下げ、悲しそうにうつむいた。
エミリアはなんともいえない”母性”を感じながら「私が男だったら落とされていたのかしら」等と思った。
「初めての家で初めてあった人に突然家族だと言われて、困惑したでしょう」
うつむくモクバの頭をエミリアはなでた。
想像の何倍も柔らかいモクバの髪に驚きながらも、エミリアはなで続けた。
「ここにあなたを嫌う人はいないから。いつでも頼って頂戴ね」
そんなエミリアの言葉に、モクバはうつむきながらも目を開き、胸がギュっとした思いだった。
「はい…」と細くモクバは返事をした。
エミリアは「3歳なのにしっかりしすぎじゃない?」とモクバの頭をなでながらハエルに言ったが「お嬢様が言えることですか…?」と不審なものを見るような眼をされた。
「…私は精神年齢女子高生なんだからこれくらいでいいのよ!」と思いながら自分が満足するまでモクバの頭をなで続けた。




