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BL小説に転生しました

 

 私の記憶が”戻った”のは4歳になる夏のころだった。


 我が家に私より一つ歳の小さい弟が養子としてやってくる。

 そんな弟を”私”はいじめ…末に悲惨な結末を迎える未来にある。


 そんな未来に関する、記憶だ。


 ***


 私こと【エミリア・トロイ・トゥリアンダ】は、公爵家の一人娘だ。

 現在は、寝ている。


 どういうこと?と思ったかもしれないが、今寝ているのだ。

 今、ここは精神世界…のような場所。真っ暗な世界の中のあちこちにスクリーンが浮いていて、そこからエミリアの頭の中に情報がなだれ込んでくるのだ。

 ここ数日この奇妙な夢…もとい精神世界に何度も足を運ばさせられている。


 初めはいやいや何だこの夢は、疲れがたまりすぎて狂った夢でも見ているのだろうと鼻で笑っていたのだが、目を覚ましても精神世界で目にした記憶をはっきり覚えていて、日にちが経ってもこの記憶たちは薄れない。

 …夢の中でかき集めたこの記憶たちが、絶対的な真実であると脳のどこかが認識しているような違和感があった。


 エミリアはそんな考え事をしながら精神世界を闊歩していると、自分の足元でぬるぬると動く映像スクリーンに目を向けた。試しにそのスクリーンにしゃがんで手を伸ばすと脳に一気に情報が流れ込んでくる。


 ”エミリアの母である【アルトゥヌ・トロイ・トゥリアンダ】は王家11番目の姫だった。父のもとに嫁ぎ公爵の爵位を預かったまだ若い公爵家だ。

 …王家と縁続きのある出来立てほやほや貴族。トゥリアンダ家は地盤の固まっていない貴族社会でもがき、必死に前に進んでいた。


 そしてアルトゥヌは元姫、というだけあって気品あふれる美人だ。性格も優しくまっすぐで()()でも唯一、養子にやってきた弟に優しく愛を注いだ人物であった。


 そんなアルトゥヌは病気がちの人で、私を産んでからは外出も控えるほど弱ってしまおり弟が学校へ進学するころ、今から10年後にはなくなってしまう。

 エミリアを授かったのもこの時代にしては遅かったらしく、公爵家へ降嫁してからというものなかなか子どもができないことを気に病んでいた。”


 スクリーンは無遠慮にエミリアの頭へがつがつと情報を叩き込むと音もなく消えた。

 エミリアの父は母を深く愛していたが、なかなか母に子どもができないことを歯がゆく感じたのか、やっとできた子どもが女の子だったから…”男の子”が欲しかったのだろう。

 …外で子どもを作ってしまった。


 きっと私が本当の4歳であったなら父が連れてきた見知らぬ”弟”の存在にひどく傷つき、みるみる変わっていく身の回りに憤慨するのだろうか。

 うーんと腕を組みエミリアは考える。今は目の前のことに精一杯で誰かを憎むとか恨むとか、意地悪をするなんて考えられないが子どもとは突拍子の無いものだ。それに、自分では気が付かないストレスのようなものをぶつけてしまう可能性も無きにしもあらずだろう。


 けどエミリアは今現状”未来の記憶を持った4歳児”になった。


 ***


 …エミリアは”前世”この世界について”読んだ”ことがある。

 その情報も、この精神世界で手に入れたものであった。


 そんな前世の私はこことは別の世界に暮らす平凡な女子学生で、友人に勧められるがままその小説を手に取っていた。

 そこには男性同士の恋愛が赤裸々に描かれ、なかなかにショッキング…いや、()()()小説であった。


 前世のエミリア自身、前世のころからそういった趣味はなかったため、新しい世界を見たなあ…。という鮮烈な記憶が根強く残っていたのだろう。小説の内容が情報として頭の中になだれ込んできたときは貴族の令嬢とは思えない絶叫を上げてしまった。


 というのも、この世界は私が前世読んだであろう『トロイの木馬は愛される』…という名前の”濃厚18禁BL小説”なのだ。




 主人公【モクバ・トロイ・トゥリアンダ】は公爵の私生児であり、エミリアの義弟である。

 彼は眉目秀麗な容姿、控えめで陰がありつつも優しい性格を持った美しい青年だ。


 そしてどういうわけか男にモテモテなのだ。どこに行くにも男、男男男…。作中では無理やりにモクバの貞操を狙う輩まで出てくる始末。

 作品としては悲しいことにモクバは男色家ではない。学校を卒業するとあまたの貴族令嬢と婚約をするも次々に令嬢は変死を遂げ、祟られた公爵の跡取りと噂され果てには自死を選ぶのだ。


 作中の最初は少女漫画のような甘い恋愛もののような展開が続くので甘いピンクの表紙や触りだけ書かれたあらすじに釣られた少女漫画主義の読書家たちが何人倒れたことか…。

 というの小説の中盤を過ぎると、なかなか自分たちになびかないモクバにしびれを切らした男どもが動き出す。少女漫画の主人公のようにまっすぐなアピールであればいいのだが、彼らはモクバを手に入れるために血を血で洗う争い、誘拐、軟禁何でもござれの争いを繰り広げる。

 そして最後にはモクバは自死するまで追いつめられるという、あんまりにも不遇で憐れな主人公と化してしまうのだ。


 …ちなみに主人公のモクバは男性に恋愛感情を抱くタイプではないため、作中誰とも恋愛関係には発展しない。完結した時にはファンからブーイングも多く聞こえていた作品だった。




 そして、この精神世界で手に入れた情報によるとモクバの姉であるエミリアは、彼を控えめで陰のある青年、そう…モテモテ罪深男ホイホイに育て上げる要因らしいのだ。



 私生児であるモクバをトゥリアンダ家の一員と認めない体制を徹底し、最後まで公爵跡取りの座を奪い取ろうと画策していた…いわゆる小説内の悪役。


 作品の最後エミリア…の記憶はどういうわけかおぼろげだが、正直あまりいい待遇はなかったのだろう。処刑…流罪…流れで殺される…なんかそんなようなもんだった気がする。いや、そんなもんって、最悪なんだけど。


 モクバは多数の男にモテモテで…、そんなモクバに害をなすエミリアはモクバを慕う男どもから見たら敵以外の何でもない。


 エミリアは自分の記憶を探る精神世界の中で身震いがした。


 自分のこれからの行動一つで【自分を殺す】ことになりかねない。


 正直、あんまりな人生の開幕だった。

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