卒業
校門から昇降口にかけて真っ直ぐに伸びた桜並木。何度も何度も通ったこの道を歩むのも今日限りだ。
「ちょっと、あれ誰!?」
「あんなひと、うちの学校にいた!?」
俺はおまえのこと知ってるぞ。そんな声が聞こえるたびに同じ答えを心で繰り返す。
卒業式前日。真っ黒だった髪の毛を脱色して染め直した俺は、瓶底メガネを外しワックスで髪を整えピアスを付けて、制服を着崩した格好で鏡の前に立った。
「最後の日くらいあるべき姿でないと俺が可哀想だ!!」
三年間、俺はよく頑張ったと思う。色々とバレた部分も多いが瓶底メガネだけは死守したしな。お陰で女子からの告白も最低限のもので済んだ。きみには本当に世話になったな。
棚に飾った瓶底メガネが、「どういたしまして」といった気がした。
そして俺は今日。この学園最後の日に堅苦しい装いをかなぐり捨てて教室に足を踏み込む。
卒業式。みんなの装いも気合いが入る。だけど悪いな。三年間地味に見せていた分、最後くらいは派手にいかせてもらう。
「はよ〜っす」
ドアから姿を現すと、振り返ったクラスメイト全員が目を丸くして沈黙した。何人かは指を指して金魚よろしく口をパクパクしてる。
そのうちのひとりは菊地だったが、その隣で笑っていた陽平は俺を見るや否や目を輝かせ、席を飛び跳ねると猛ダッシュして飛びついてきた。
「彰! ようやく元に戻ったかよ!」
「最後くらいは自由にしたいからな」
「うんうん。それでこそ彰だよ。これで俺の苦労も報われるってもんだぜ。隠すのマジで大変だったんだからな〜」
「マジでおまえの協力には感謝するよ。本当にありがとな、陽平」
「おう!」
ガシッと肩を組んだ俺たちを茫然と見つめるクラスメイト。
「彰……彰って……」
震える声で指を差す目の前の女子に向かってニッと笑った陽平は、ひらひらと振った両手を俺に向けて叫んだ。
「おう! 聞いて驚け。これがおまえらが知ってる如月くんの正体なのだァァア!」
「「えええええええええええ!!」」
なんてノリの良いクラスなんでしょう。
俺もノリに乗ってキメ顔でポーズを取る。グラビアの写真撮影みたいに次々とポーズを変える俺に、クラスメイトは驚きの声をあげながらもちゃっかりスマホで撮影。
そーゆーとこ、嫌いじゃないぜ。
最後に入ってきた浅見先生は、何度も瞬きをしながらポカンと口を開けて俺をみていた。あんまり長く口を開けているもんだから、顎が外れたかと思ったぞ。
全校生徒が集まった卒業式では所かしこから黄色い声が聞こえ、あれ誰!? あれ誰!? 如月ー!? という言葉がコダマしてた。
そのどよめきは年に一回しかない、まともなスピーチをした学園長の声をかき消すほどのもので。本来ならお涙ちょうだいの卒業式は地味な如月がイケメンになってきたいう一大スクープで、どよめき収まらぬまま幕を閉じた。
クラスに戻る際、早瀬とすれ違ったが凄いドヤ顔で「わたしは知ってたもん」とみんなに自慢してるのが聞こえた。なに自慢なんだよ、それは。
最後は記念撮影。みんなこれ以上ないほどの笑顔で写真を撮った。
素顔をバラしたことで俺とのツーショットをせがむ女子が後を絶たなかったが、進路はみんなバラバラだ。今日くらいは多めにみてやろう。
さようならを言ってクラスメイトと抱き合う浅見先生の目には涙が浮かぶ。三年間、本当に色々あった。完璧に隠キャを貫き通すのは無理だったが、そのお陰で学んだことも多い。
桜の花びらが舞う中で、初めて会った時と変わらずに彼女はそこにいる。
俺は花束を手に真っ直ぐ足を向けた。近寄る俺に先生が笑顔を向ける。
引き出しにしまった手紙にはたったひとこと。
『あなたのことが大好きです』
「俺も好き」
うららかな春風に髪を靡かせ目を丸くした先生の腰を引き寄せて。ふっくらとした唇にキスを落とした。
周りから悲鳴が聞こえる。その中に混ざって聞こえた口笛は多分陽平だろうな。菊地の顔はみるまでもない。今頃アゴ外れてると思うし。
そっと唇を離した俺は目を潤ませた先生に笑みを浮かべる。
三年間陰キャとして通してきたんだ。最後くらいド派手にいくのが陽キャの花道ってもんだろ?
それから数年後。
再び「先生」と「生徒」の関係を卒業した俺たちは、お揃いの「銀のアイテム」を指に嵌めてあの教会に立つ。銀の杭を差し出した時の玲香の顔ったらなかったけど、それもまた良い思い出だ。
ここで新たな契約を結ぶ俺たちは、きっとこれからも笑いの絶えない日々を送っていくのだろう。
この契約だけは二度と破棄しないと心に誓って。
後日談。
『男に嫌われない女になるために』に深く感銘を受けた浅見先生は、陽平の姉ちゃんに会いに行ったらしい。
そこで俺の話をしたところ、姉ちゃんから詳しく聞かせて欲しいとせがまれ、インタビューをされたと明かした。それが新作のネタだったと知った俺は思わず食べた物を吹き出した。
その後、姉ちゃんちに行って俺の過去と先生が話したインタビューの記録をゴッソリと奪い取り、消し炭にしたのは言うまでもない。
――完――
本編はこれで完結となります。
短編で人気が出たのが始まりでしたが、そこからこの連載版に移り、最終話まで追いかけて下さった読者様はいらっしゃるでしょうか。いてくれたら嬉しいな。
感想欄への記入は読み専の方には敷居が高いと聞くのですが、たったひとことでも嬉しいものです。
感想をくれた読者様のお陰で楽しんでくれているのが伝わり、いつも元気を貰いながら本日無事に最終話を迎えることが出来ました。ずっと応援して下さった皆様には感謝しかありません。最後までお付き合い頂き本当にありがとうございました。
また、この作品良かったよ。楽しかったよ!と思って下さる方がいましたら、ここからつつつと下がって広告下にある☆マークを★に染めて評価してくれると嬉しいです。
皆様との出会いに心から感謝を。 一色姫凛




