朗読部に入らない?
初日はレクリエーションや部活見学。委員会の説明など、陽キャにしてみたら目立ってナンボのイベントが目白押しだった。
俺も内心ワクワクがとまらなかったが、出来るだけ無表情で振る舞うことに専念した。もしかしたら目は輝いていたかもしれないが、そこは瓶底メガネ様々である。
途中で部活見学に出たC組とすれ違って陽平と目が合ったが、知らぬ振りをした。陽平は笑っていたけどな。部活はなんにしようかな。
「彰くん」
テニス部の見学に赴き、みんながコートを囲んで女子部員のスカートに食い入っている中。ひとりで日陰に入り体育館の壁にもたれかかっていた俺は、その声に振り返った。見れば浅見先生が隣に並び、遠くに生徒たちを見守っている。
「先生」
「部活は決めた?」
「いえ」
「朗読部とか入る気ない?」
「朗読部?」
なんだその陰キャ的な部活は。そんなものがこの世に存在するのか。若干口元がひきつりそうになったが、なんとかこらえた。
「そう。わたしそこの顧問なの。放送部みたいなものなんだけどね。お昼にリクエストの音楽を流して雰囲気にあった台詞を読んだり、朝夕の放送をするのよ。あとは大会とかもあるし。時々遠征にも行くわ。毎年入部者が少なくて困ってるのよ」
意外だ。見た目がエロいだけに。でも言われてみれば、声も滑らかというか。どうにもAVから離れなれないんだが、声だけで性感をくすぐるスキルは持ち合わせていると思う。
この声で艶めかしく囁かれたら陽平曰くハァハァするんだろうが、俺は違う意味でゾクゾクするだろう。
「先生、声もエロ……いいですもんね」
「エロイイ?」
「言ってません」
「言ったわよ。耳、いいもの」
「気のせいです」
「絶対いいました」
クスクスと笑う先生は、俺の脇腹を肘で小突いた。俺はそっと一歩横に移動する。
それに気付いた浅見先生が不貞腐れたように俺を小さく睨む。
「どうして離れるのよ」
「あー。えっと、俺女性が苦手で」
上手い言い訳も思いつかず、素で返した。嘘じゃないし、それで納得してくれ。
「本当に珍しいタイプよね、彰くんって」
「そうですか? よくいますよ、こんなの」
女子テニス部には何人か可愛い先輩がいたらしい。男子が肩を組んで女子テニスのコートに走っていく様子を眺めながら何気なくそう返すと、先生はまた笑いだした。
「こんなのって。他人事みたいにいうのね」
それに対してはスルーだ。これ以上喋ると墓穴掘りそう。俺はテニス部の見学に集中するフリをすることに決めた。
「ねえ、知ってる? ここの学園ね。生徒と先生が結婚する確率高いんですって」
「へー。そうなんですか」
「毎年必ず一組は卒業と同時に先生と結婚するのよ」
「へー」
「ここを受ける男子生徒はそれを狙ってるって噂もあるんですって」
「へー」
「彰くんは興味ないの?」
「まったく」
最後だけやたらと力が入った。校則が緩いとは聞いていたけど、そんな噂まであるのか。まあ、正しい高校デビューをした奴らから見たら綺麗で可愛い女教師と結婚なんて夢だろうな。
全員が狙ってるわけじゃないだろうが、少なからず夢抱いてる奴らは多そう。加えて校則も緩いってなれば、そりゃみんな見た目に気合い入れるわな。
しかし卒業と同時に結婚なんて、在学中に先生と隠れて恋愛するってことだろ?
想像するだけで面倒臭い。無理。絶対無理。
「おまえそりゃ、男の浪漫だろー!!」
帰り道。瓶底メガネをしまって、こめかみをグリグリと揉みほぐす俺の横で、陽平が天に向かって絶叫した。
「大人の色気溢れる知的な先生と学園ラブだぞ!! 夢しかねーだろうが!!」
「あっそう」
あー。あたまいてぇ。黒板見るタイミング、あまりなかったのに初日からこれで大丈夫かな。
「しかもおまえんとこの担任、あのエロい先生だろ。名前なんてったっけ」
「浅見玲香」
「そうそう! あの先生すんげー人気あるらしいぜ。うちの学校に赴任してまだ二年目って聞いたけど、入学説明会で一目惚れして受験したってクラスの奴がいってた」
「女を追いかけて入学するとか、マジでありえねえ。俺は逃げたいんだ」
「ああ、そうね……」
陽平はガックリと首を落とす。毎度毎度、乗ってやれなくて悪いな。いや、本心ではないけど。
「で、おまえ。部活どこにするか決めた?」
「あー。朗読部」
「なにそれ。なにすんの」
「放送部みたいなもんだっていってた。顔見せねーから丁度いいかなって」
嘘偽りない理由だった。あの後、色々考えてみたんだが。朗読部って悪くねーんじゃないかって。聞こえるのは声だけだし、部員も少ないっていってたし。マイクに向かって話すだけだろ? おチャラけなければ陰キャを貫き通せる……はず!!
「はー。なるほどね。いーんじゃね? 俺はバスケ部〜」
「ずっとやってたしな」
「ホントは戦力的におまえが欲しいんだけど」
「お断りします」
「ですよね〜」
そんな軽口を叩き、一人暮らしのアパートに戻って速攻で。制服を脱ぎ捨て、Tシャツとハーフパンツに着替えた俺はベッドに倒れ込んだ。
「マジで疲れた」
何が疲れるって、この根っからのおチャラけ癖を押し殺すことだ。ことある事に笑いを取りたくなる衝動を抑え込むのが、ホントにしんどい。
あと瓶底メガネ。あいつは強敵だ。顔を隠すために必要なんだが、ずっとぼやけた視界の中にいるってのは酷だ。頭痛が酷い。
ガンガンと痛む頭を抱えて、俺はそのまま飯も食わずに爆睡した。
本作は笑いを提供し続ける作品となっています。
笑えた、楽しかった、続きが気になる!という方はぜひブクマと★で評価をお願いします!
感想もどしどしお待ちしています☆
応援よろしくお願いします!