小玉スイカ女優登場
だが肉食系女子に人生を蹂躙されてきた俺からすると、この手の女は苦手な部類に入る。いやどんな女も大概苦手だが。
「今日はまだ授業がないけど、明日からは通常通りなのよ。眼鏡が見えなくちゃ困るじゃない」
「そう……ですね。いや、前の席にして貰えれば見えるので」
危うく、そうっすね。と言いそうになって言葉遣いを改める。
陰キャ陰キャ。俺は陰キャだ。
言葉遣いに陰キャカテゴリがあるか知らんが、できる限り大人しく見せておいたほうがいいはず。
「そうね。その位なら担任の先生も融通してくれるんじゃないかしら? クラスはどこ?」
「えーっと」
「彰!! おまえBだった! 俺、C!」
「あ。陽平くん。見てきてくれてありがとう」
「……くん?」
昇降口を飛び出してきた陽平はキョロキョロと辺りを見渡して俺を見つけると大声で叫んだ。その直後、こてんと首をかしげて俺をみる。
先生もつられて陽平を振り返ったので、俺は分厚いメガネの奥で「合わせろ合わせろ合わせろ」と呪いのように念じながら陽平に笑顔をむけた。
隣に先生がいることに気付いた陽平は、ポンと手を打ってから口元を押さえ、くるっと背中を向ける。肩が震えているところを見ると、あいつ笑ってるな。
そしておそらく息を整えた陽平はこちらを振り返り、全面的に爽やかさを演じながら歩み寄ってきた。
「あ〜……当然じゃないか、彰くん。僕たち友達だろ?」
(何キャラだよ)
互いに同じことを思ったに違いない。
「彰くんっていうのね。お友達とはクラス違いで残念だったけど、隣だし合同実習もあるわ。わたしは浅見玲香。これからよろしくね。彰くん」
「はい。よろしくお願いします」
桜吹雪に黒髪をなびかせた浅見先生は、にっこりと笑うとその場を後にした。胡散臭い爽やか笑顔を貼り付けたまま彼女の背中を見送った陽平は途端に表情を崩し、鼻息を荒くして俺に飛びついてきた。
「すっげー美人! な、見た!?」
「見たに決まってんだろ。なにいってんの、おまえ」
「おまえが何いってんだよ。あんなセクシー女教師見てハァハァいわねーなんて、本当に残念な男だな」
ガクッとうなだれた陽平をシカトして、俺は陽平の肩に手を置く。
「はいはい。じゃあ行きましょうね〜陽平くん」
「くん付けはやめろ。鳥肌たつわ」
「慣れろ」
「やだ」
笑顔の中に殺意を抱いて、俺たちは静かに押し問答を繰り広げながら互いの教室にたどり着いた。
「んじゃ、うまくやれよ。彰」
「如月くんと呼べ」
「ぜってぇヤダ!!」
でっかい声で全面拒否をしてC組に入っていった陽平をジト目で睨みつけ、俺はBクラスの扉をくぐる。
すでにグループを作った女子や男子がドアの音に振り向いた。
「うわ。だっさ」
「きも。わたしムリー!」
茶髪にミニスカの女子たちが、俺を見るや否や笑いながら堂々と声を上げる。男子の中にそんなことをいう奴はいなかったが、興味なしとばかりにさっさと視線を逸らされた。
(掴みはオッケー!!)
俺はふつふつと込み上げる笑いをこらえながら席につく。最初は苗字の五十音順なので仕方ないんだが、丁度「き」の字が折り返し点になってしまったようだ。
俺の席は窓際の一番後列。さすがにマズイな。すでに黒板の文字が見えねえ。でもまあ、一番最後の席なら眼鏡をズラしても素顔はバレないだろう。
しばらくすれば席替えもあるだろうしな。少しの我慢だ。
俺はキャッキャと騒ぐクラスメイトから目を背け、青空を見上げた。ああ、誰にも話しかけられないってなんて自由なんだろう。実に素晴らしい。ずっと手に入れたかった俺の時間。
陽平。おまえには感謝する。マジでありがとう!
心の中でしみじみと陽平に祈りを捧げていると、予鈴がなった。みんなも慌てて席につき、担任が現れるのを期待の目で待ち構える。
チラチラとドアに視線が集まる中、ガラッとドアが開いた。
全体像が見えるより先にお出ましになったのは、白いシャツから突き出た小玉スイカだ。
そんなことで判断するべきではないとわかっているが、判断出来てしまったのだから仕方がない。
「うお……っ! マジか!」
隣の男子が口を押さえて声をもらした。他の男子もみな似たような反応だ。ガッツポーズをして立ち上がった奴やスマホで写真を撮ってる奴までいた。
俺は大した感動もなく、先生をみつめる。
「みなさん、入学おめでとうございます。わたしがみなさんの担任となりました、浅見玲香といいます。これから一年間よろしくお願いしますね」
にっこり笑ったAV女優浅見先生は、その笑顔で男子生徒の心を鷲掴みにしたようだった。
奇声を発して大きな拍手をする男子たちに笑顔を向ける先生が、不意に俺を見た気がした。瓶底メガネのせいで表情なんてわからねーんだけどさ。なんとなくそんな気がしたって感じ。
だけどそれが気のせいじゃなかったと気づくのは、それほど後のことじゃなかった。
ダルい自己紹介を笑いなくして無難に終えた俺は、一呼吸つく。どうも、こういう場面になると笑いをかっさらいたくなるのは陽キャの悪い癖だ。自虐ネタなんざポンポン思いつくもんだから、無難に終えるということがどれほど難しいか身をもって知ることになった。
「席替えはもう少し後にする予定だったけど、明日から授業は始まるし、目の悪い子は手をあげて下さい。その子だけ先に移動させるわね」
一通り自己紹介が終わると浅見先生はそう切り出した。目の悪い子、と言われてイマイチピンとこなかったのはご愛嬌だ。元々目は悪くないからな。中学のときはずっとそれで後ろの席をキープしてた。前の奴の背中に隠れて寝るために。あと前の席だとやたらと先生からチェックが入るだろ。あれが嫌なんだよ。
だから本心としては前に行きたくない。
だけど、そのとき浅見先生が俺を見てることに気がついた。んで、あ。俺のことか。と思ったわけ。
「はい」
マジで行きたくねえ。そう思ったが、昇降口での会話があるため誤魔化しが効かない。この先生が担任なのは、俺にとっては運が悪かったとしかいえないな。
諦めて渋々手を上げると、浅見先生は一番前の席の子に俺と変わるように声をかけてくれた。
声をかけられた男子は、えーっと文句をいっていたが、文句をいう意味がわからねぇ。
後ろの席最高じゃんか。
「じゃあ、彰くんはここね」
「はい。ありがとうございます」
せっかく窓際最後尾という最高の位置取りだったのに最前列中央に移動することになった俺は、まったく感情のこもらないお礼をいった。
先生はそんな俺の態度をおかしく思ったのだろう。
「具合悪い?」
「え? いや、別に。じゃない。大丈夫です」
気乗りしない返事をしたせいか、体調が悪いと勘違いしたみたいだ。瓶底メガネで隠れた俺の顔を覗き込む。この分厚い眼鏡でも先生の口のホクロが見えたから、よほど近づいたんじゃないのか。この眼鏡遠近感狂うな。
「そう? 度が合わないっていってたから。合わないと頭痛とかするでしょ? 具合悪くなったらいってね。保健室に案内するわ」
「はい。ありがとうございます」
眼鏡の隙間から前かがみになった先生の小玉スイカが机の上に乗っているのが見えた。
隙間から見るとか変態かよ。わざとじゃないからな。俺はさっさと視線を逸らし、頭を下げた。
本作品は笑いを提供し続ける作品となっています。
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