俺は陰キャになる!
皆さん、こんにちは。
短編小説「女嫌いの俺は陰キャの皮をかぶることにしたのだが、どうも上手くいかない。AV女優顔負けの小玉スイカ美人教師が俺に食いついた。」では皆様からの温い声援をもちまして日間、週間共に1位を獲得することができました。その際に多くの読者様より続編希望の声も頂き、本当に嬉しかったです。その声に応え、感謝の気持ちを込めてここに連載版を開始することに致しました。また新たに始まる小玉スイカ女優をぜひ最後までお楽しみください。
第三回キネノベ大賞最終選考に残りました。
ありがとうございます!
高校生活初日の朝。
俺は洗面所に立ち、念入りに準備を始めた。
昨日、白髪染めで染めた髪は多分もとの色より黒い。七三分けにしてみてーなと思わず笑ってしまったが、そこまでしなくてもいいだろう。あちこち跳ねまくった寝癖はそのままでよし。
そして下町のメガネ屋を数店舗巡ってようやく見つけた瓶底メガネを装着。
「全然見えねえ」
度は入っていないんだが、厚みのせいで視界がぼやけて見える。まあ、少しズラして覗けばなんとかなるだろ。
そして真新しいワイシャツに袖を通し、首の一番上まできっちりボタンを留める。
「う〜なんか息苦しい〜」
せめて二つは外したい。そう思わずにいられないが、首周りを少し引っ張って我慢する。いつもまくっていた袖のボタンを全部留めると、途端に暑ぐるしくなった。
「うお〜っ! よくこんな格好してられるよな」
思い出すのは中学時代の陰キャ共だ。校則を守り、入学当初の制服姿を卒業まで維持した強者たち。これってある意味拷問じゃね?
いままで腰下ではいていたズボンはウエストまでしっかりと上げて、学生用の黒いベルトを通す。ブレザーもきっちりとボタンを留めると、なんとも着心地が悪く、制服という鎧を着ている気分になった。
しかし、これでどこをどう見ても地味な陰キャ君の出来上がり。女の子と手を繋いだこともなさそうな、勉強とアニメ鑑賞だけが趣味のオタク。そう見えればオーケーだ。
「我ながら完璧だな」
人生で初めて見る自分の姿を鏡に映し、角度を変えてはチェックして満足気にうなずく。
高校デビューなんて言葉が流行ったのは、何年前だったか。
冴えない中学時代。
陰キャグループに埋もれて慎ましく、そして地味に、無難に日常を過ごしていた奴らが高校入学と同時に突然アタマのネジがぶっ飛んだように風貌を変える現象のことだ。
校則違反なんか一度もしたことがなかった奴が茶髪にしてピアスをあけ、制服を着崩し言葉遣いを変える。
すべてはモテるため。中学時代の地味な自分とおサラバして心機一転、モテキャラに変身して再スタート。というのが、いわゆる「高校デビュー」なわけだが。
しかぁし! 俺はこの機に真逆のデビューを飾ると心に決めていた。
アオハルなんて興味の欠片もない。俺は地味に穏やかに慎ましく高校生活を謳歌できれば満足だ。
親から受け継いだ顔に文句をいうのは悪いと思うが、やたらと整ったこの顔のせいで、俺は幼少の頃から女という生き物に恋という名の暴力を受け続けてきた。
近寄る女のせいでありもしない噂話をまき散らかされ、ボディタッチという名目でセクハラに勝る暴行を受けたこともしばしば。女同士のバトルに巻き込まれ、なぜか俺ひとりが傷を負う。
クラスメイトだからとダチに俺の連絡先を聞き出す女どもは、朝から晩までどうでもいいチャットを送ってくる。
隣のクラスの名前も知らない女子は、「隣のクラスだから」と連絡先をゲットし、下級生は「先輩だから」とゲットする。俺のプライバシーというものはどこまでも末広がりのようだった。
「モテる男はつらいねえ」と腹を抱える幼なじみの陽平は、俺が真面目に愚痴るたびにそう返す。自慢でもなんでもなく、真剣に嫌がっているのを知った上でだ。
「彰は目立つからしょうがないんだよ。顔もよし、スタイルもよし、そして極めつけは陽キャだからな。それだけモテて男から敵作らないなんて神だぜ、まじで」
「男は嫌いじゃないからな」
嫌いなのは女だ。女、女、女。ああ、本当にどうしたらいいんだ。
「男子校に行くか」
「まあ。それも手だろうな。だけど女子を舐めるなよ~? 女子にはイケメンセンサーがついてるんだ。同じ高校じゃなくても見栄えのいい奴が歩いてれば、居所なんてすぐにゲットだぜ!」
「なんで楽しそうなんだよ」
ウンザリしながら俺はうなだれる。同じ高校でもないのに、待ち伏せなんてされたらドン引きだろう。そんなことが起きたら一生学校から出ないからな。
「つまりな。発想の転換が必要ってこった。女子を避けるんではなくてな」
「避けるんではなくて?」
「女子から避けられる男になる!」
天に向かって拳を突き上げた陽平が、とても輝いてみえた。
「おまえ! 天才かっ!!」
というわけでだ。俺は念願の陰キャデビューをここに果たした。
限りなく陰キャとして目立つため、校則が緩いと噂の花咲学園を選んだ。あたまのてっぺんからつま先に至るまでオシャレに制服を着こなした生徒の中に混じり、陰日向で生き抜くためだ。
こういうのは周りが輝けば輝くほどいい。陰キャとなるにあたって心配だったのはイジメだが、俺はあいにく菩薩のような心は持っていない。万が一にでもイジメられるようなことがあれば、倍返しでやり返す心持ちであった。
「陰キャは喧嘩しねえだろ」
桜吹雪の下、同じ高校の制服を着た陽平はバカかよといって笑う。陽平は校則が緩いことをいいことに、初日から制服を着くずしワックスで整えた髪にピアスをつけて、堂々としたイケメンぷりを発揮している。
同じデザインの制服でも、着こなし方ひとつでこんなに違う服に見えるのかと思ってしまうが、それこそが俺の狙いなのだから問題ない。問題なのは、こいつだ。
「バカなのはおまえだろ。なんで同じ高校にするんだよ。おまえは陽キャだ。あっちにいけ。近寄るな」
しっしと手を振ると、陽平はわざと肩を組んで寄りかかってきた。
「こんな面白いもの。見ないわけにいかねえじゃんか。俺、高校はどこでもよかったし」
「俺は真面目なんだ。おまえと一緒にいると目立つんだよ。いいか、陽平。学校では絶対に話しかけるなよ」
「ええ~。陽平さみしい~」
「きっも」
よく見えない瓶底メガネを少し下にずらして昇降口をくぐる。正面には五枚ほど大きな張り紙が貼られてあり、その前は生徒たちで埋め尽くされていた。やったー! 同じクラスぅ! と手を取り合ってはしゃぐ女子を見るからに、クラス分けの張り紙だろう。
「ちょい。俺のクラスどこだか見てきてよ」
「陰キャが陽キャを使うなよな」
爆笑しながら陽平はクラス分けの張り紙をみに行った。すっげえ人混みでそばにいるのも疲れる。俺は少し距離を取って、昇降口の外で待つことにした。
「いや~。まじで見えないなこの眼鏡。もうちょっと薄いのにすれば良かったかなあ」
視力が悪いわけではないので、視界がぼやけるだけで目が疲れる。思わずぼやくと、
「度が合わないのは問題ね。大丈夫かしら?」
突然隣から声がかけられた。しかも口調がやたら色っぽい。嫌な予感がして振りむくと、眼鏡美人がそこにいた。
腰まで伸びたサラサラのストレートヘアに面長の顔立ち。眼鏡の奥の切れ長の瞳は艶かしく、ふっくらとした厚めの唇の横には小さなホクロがあった。
シンプルな白いワイシャツにパツンパツンに押し込められた小玉スイカは、胸下で閉じられたジャケットから半分以上溢れている。
AVとかに出てきそう……
初対面の印象はそんなもんだ。
本作品は笑いを提供し続ける作品となっています。
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