~薫、散々な一日の始まり4~
<第10章天河久のファンクラブ(非公式)登場其肆>
もうすでに沈黙し始めてから1分たったのだが、誰も何も話そうとしない。頭の中が「?」でいっぱいな薫は、沈黙に耐えかねて重い口を開き、
「あの…皆様どうされたのでしょうか…」
と、尋ねた。
「冗談…ですよね?」
ときわが返した返答は、薫にとって予想外のものだった。ポツリと、しかしはっきりと口にした彼女の言葉の意味が分からず、薫は首をひねった。
「久様のご趣味が…消しゴムの収集だなんて…冗談ですよね?!」
最後の方、語尾強めで言われた薫は、ようやく状況を理解した。つまり、久に心酔している彼女たちは、彼の知られざる趣味が、消しゴムの収集だったことが信じられない、否、信じたくないと、そういうことを言っているのだ。悪いことしたな…と、若干罪悪感を感じながらも、今更噓でしたと言う訳にもいかず、薫は開き直って、真実を貫くことにした。
「いいえ。冗談などではありませんよ。まさか皆様、天河君の趣味をくだらないと言うわけないですよね~?」
と、少々挑発するような発言を薫が投げ込めば、
「まさか!そんなわけないに決まっているではありませんか!!!」
と、まるで示し合わせていたようにバッチリハモった30人の返答が返ってきた。
「ただ…少しだけ意外だっただけです!!!」
と、必死で訴えてきたときわの迫力に驚きながらも、薫は、
「いえ、ただ確認したかっただけなので…お気になさらずに。それより、もう帰ってもよろしいでしょうか…?」
と、聞いた。それに対するときわの反応は早かった。
「まだです!!!」
と、物凄い迫力で放たれた形容動詞の勢いに驚き、思わず3歩ほど後ずさった薫は、
「何がまだなのでしょう…?」
と、蚊の鳴くような声でときわに尋ねた。
「具体的に、久様がどのような消しゴムを収集されていらっしゃったのかを教えて下さい!!!」
と、ときわは叫んだ。
その時の薫の思考
あ…ヤバい…実はこの質問、一番してほしくなかったんだよね…だって世の中にある消しゴムという消しゴムが揃っているような空間だったからなあ~…
「教えて下さい!!!」
と、今度は30人揃っての2回目の催促を振り切ることのできる強さを、薫は持ち合わせていなかった…しょうがないので、久がお気に入りだと言っていた50種類ほどの消しゴムを教えてあげた。まあ、これくらいの種類、久はおろか、薫程度の消しゴムマニア(消しゴムを1度に大量に購入できるようになったのが3年前からなため)でさえ、まだまだ序の口だ。それを言わないのは、「ただ単に面倒だから」その一言に尽きる。その50種類の消しゴム名を、皆例外なく丁寧にメモっていた。最終的には、最初の空気はどこへやら、30人全員から感謝され、崇められた。そして、ときわは、
「お忙しい中、本当にありがとうございました。当初は、彰艶様の返答次第では、「R5」の定期会議の議題にしようかとも思っておりましたが…早まらなくて本当に良かったです。それでは、ごきげんよう。」
と、言って会員達を引き連れて帰っていった。が、その言葉に、薫は冷や汗が止まらなかった。そして、
「「R5」の議題になるところだったって?危なかった…本当のこと話して本っ当に良かった…」
ということを考えながら、もしその会議の議題になっていたらと思うと、それだけで身震いがし、しばらくそこから動くことが出来なかった…
「R5」って何なんでしょうね~。少なくとも、5歳未満の方が読んではいけない小説のことではありません。その点誤解なきよう。




