~消しゴムマニアを極めるチャンスが目の前にやってきたことに舞い上がる少女2~
<第16章日本の消しゴムコンテスト其壱>
ついに…ついに、この日がやってきた。今日を楽しみにしていた薫は、朝六時には全ての支度を整えており、そのせいで弟からはまたあきれられた。さらに、
「な~に消しゴムコンテストに行くってだけでそんなに張り切ってんだか。」
という藪蛇をつついたため、またまた薫から往復ビンタと一時間のお説教を食らったとか食らわなかったとか。
まあ、それは余談だ。
そんなわけで朝10時。薫の家の前に止まったのは、一台のリムジンだった。
その時の薫の思考。
「うわーーーーっ!マジでリムジンですか!?まさかとは思ったけど…
いや、だってうち、「お金持ち」の仲間入りを果たしてからも日本車乗ってるしさあ。だってまだ乗れるのに買い替えるなんてもったいないし?基本的にインドアな家庭だからキャンピングカーもいらないし…家族全員、あんまり「お金持ち」アピールをするような人間でもないし。」
まあ、リムジンに興奮したせいで、五行も蛇足を付けてしまったことは置いておいて。
「おはよう。彰艶さん。お待たせしたね。さあ、行こうか。」
と、学園の6割の生徒が見たら卒倒間違いなしの精神的な破壊力が凄すぎる笑みを浮かべた久が、薫に手を差し伸べてきたのだ。
今日の久は、濃紺のジーンズに、黒いジャケットを合わせている。都学園の制服のブレザーはワインレッドで、ジーンズはダークブラウンなため、この色合いは新鮮だ。それも相まって、薫の脳内のイケメンゲージがどんどん更新されていく。
一瞬、固まってしまった薫だったが、すぐに持ち直し、
「おはよう。天河君。大丈夫、時間通りだよ。天河君を待たせないように早めに外にいただけだから。」
追い出されただけだけど。と、薫は久の手を取りながら、誰にも聞かれない独り言を漏らす。
実際、そうなのだ。今日のことを父と母に話すと、某ブランドの服を取り寄せられ、メイクの練習をさせられ、スマホには礼儀作法の動画を無断で大量にダウンロードされていた。
ついでに、
「ほんの数秒でも遅れたら、大き過ぎる汚点になるんだからね!」
という言葉とともに、約束の時間の30分前に家から追い出された。
まあ、いい。これから始まることの素晴らしさに比べれば、そんなことはどうでもいいと考えることにした薫。
薫が久と一緒に車に乗り込むと、そこには既にときわがいた。
今日の彼女は、いつもの三つ編みのハーフアップではなく、それをグルグルとまとめてお団子にしている。さらに、髪には緩くウエーブまでかけるという徹底ぶりだ。
彼女がこの日をとても楽しみにしていたということがよくよくわかる。
「おはよう、薫。今日は楽しみですね。」
笑顔の花を咲かせたときわは弾んだ声で挨拶をしてきた。
「おはよう、ときわ。私もすごく楽しみ!」
にこにこと笑いながら、薫も上機嫌で挨拶を返す。
ときわほど可愛らしくはなくとも、今日の薫は、いつものおさげではなく、きちんととかした髪をハーフアップにして、編み込みも入れている。少なくとも、見られる程度にはなっているはずだ。
すると、ときわはちょいちょいと薫を手招きする。そして、
「私服姿の久様、なかなかお目にかかれるものではありませんけれど、とても尊いですね…」
と、ほうっと甘い溜息をつきながら囁いた。
「そういえば、この女性、天河君のファンクラブの会長だったな…」
と、再認識させられる薫。まあ、薫も概ね同意見だ。
「そうだね。あっそうだ!」
唐突に叫んでスマホを取り出す薫。
「ときわ、天河君、ちょっとこっち来て!」
『何?』
二人の声がシンクロしたが、薫はいいから!と言って三人で並ぶ。
そして、
カシャッ
写真を撮った。
「これでクラスメイトとの約束を守れる~。」
そう言った薫に、久とときわの声がまたシンクロする。
『よかったらその写真送って!』
久は爽やかに。ときわはやや興奮した声だった。
「もちろん!」
こうして、3人は車の中の時間を楽しく過ごしていた。
更新が遅くなってしまい、誠に申し訳ございません!執筆速度がもっと速くなるよう、頑張ります!




