~消しゴムマニアを極めるチャンスと、安全な学校生活を天秤にかける少女4~
<第14章都学園の放課後>
昼休みに、ときわと昼食を済ませた薫は、教室に戻った瞬間に皐希に絡まれることを予想していたが、以外にも何もなく、薫が帰って来たことに気づいても、そちらをチラッと見ただけで、静かに本を読んでいた。
熱でも出たのか?と思ってしまった薫は、悪くないはずだ。たぶん。
そのまま五、六時間目の授業を終えた薫は、不思議に思いながらも、さっさと帰ろうとしていた。
が、リュックを背負い、教室から足を踏み出しかけたその時、薫は、ガシッと肩をつかまれた。その手の主は、もうお分かりですね。もちろん皐希です。皐希は、不動の可愛らしい笑顔で薫にこう言う。
「和でスイーツでも食べよっ♪「お話」もよろしくねっ。面白いの期待してるから」
「ハイハイ承知しましたよ皐希様。」
もう慣れてしまって、抗う気も失せた薫。頑張れ。先は長いぞ。
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・(最近これよく使うな~)
そんなわけで、二人は現在和にいる。メニューを決めて、皐希が店員を呼ぶ。
「すいませ~ん。イチゴショートとストロベリーティー。それと、ラズベリーチョコレートタルトとジャスミンティーね。」
「かしこまりました。」
店員はそう言って奥へ入っていった。薫がイチゴショートとストロベリーティーで、皐希がラズベリーチョコレートタルトとジャスミンティーだ。放課後なので、店内はかなりにぎわっている。
「それでそれで、どうなったの?」
案の定、皐希は単刀直入に聞いてくる。もしかすると、ときわと皐希は性格が違うだけで、性質は似ているのかもしれない。まあ、それで何かあるわけでもないのだが。いつまでも脳内現実逃避をしているわけにもいかないため、やっぱり薫は、すべて話すことにした。
「えっとね~…そういうわけで、今後天河君と会うときは、ときわと一緒に行くことになった。」
話し終わったのに、皐希は少し不機嫌そうだ。そして、彼女は口を開く。
「つまんない。」
「へ?」
本気で分からずにそう返せば、
「わかんないの?」
と、語尾強めで返される。続けて、こう言われた。
「何かまた事件が起こってくれないかと思ったのに~!」
「いやそんなこと言われても」
やはりこの人は油断できない。「人の不幸は蜜の味」と感じるタイプだと思われるので、絶対にカウンセラーになってはいけないと思う。
そんなやり取りをしている間に、それぞれ注文したものが運ばれてきた。やっぱり早い。
こくんっ。ふわりと香る苺の香りと、後から鼻を抜ける紅茶の香り。薫は、これを飲むのは初めてだが、これは当たりだ。また、イチゴショートとの相性も素晴らしい。口に入れた瞬間に溶けてしまいそうなほどふわふわしたスポンジと、あまり固くは泡立たないが、その分軽く、ミルクの味の濃い乳脂肪35%の生クリームを使ったホイップクリーム、今が旬の、これでもかというほど甘くとろける苺のコラボレーションが神過ぎるイチゴショート。その甘く軽い後味を、ストロベリーティーの芳醇な香りで包み込むような余韻を残す。この二つをチョイスしてよかったっ。薫が夢中になって食べていると、皐希にちょいちょいっと服の袖を引っ張られる。そして、
「一口ちょうだい。私のもあげるから。」
こう言ってきた。しょーがないなー、とぼやきながらも、薫はイチゴショートを一口分ナイフで切ると、皐希の皿に置いてやった。皐希も、ラズベリーチョコレートタルトを一口大に切って、同じように薫の皿に置く。パクッ。チョコレートがプリンのようにフルフルしていて、そこにアクセントとして甘酸っぱいラズベリーがそのまま入っている。それ単品でも物凄い完成度の高いものにも関わらず、甘みが極限まで抑えられたタルト生地の、パイよりもやや抑えられているサクサク感との組み合わせがたまらない。これは確かに、ジャスミンティーに合いそうだ。あのジャスミンの香りと、不思議に落ち着いた気分になるお茶と、チョコベリーは絶対に合う。でも、ストロベリーティーとの相性も良い。
「このショートケーキおいしいわ。」
「ラズベリーチョコレートタルトもね。」
『ふふっ』
どちらからともなく笑いがこぼれる。あの金曜日から始まったドタバタが、ようやく静まった、そんな日だった。この時は誰も知らない。この後、どんな出来事が始まるのかを。そして、それに巻き込まれた、不憫な少女の話を。
苺は季節外れですが…
今回と前回は、主に食べ物がメインですね。この二章要らないだろとかいうツッコミが入りそうで怖い…




