~消しゴムマニアを極めるチャンスと、安全な学校生活を天秤にかける少女3~
<第13章都学園の昼休み>
3組に着いた薫は、扉を控えめにノックし、失礼しまーす、と言いながらドアを開けた。そして、
「南小路さんはいらっしゃいますか?」
と、尋ねた。
「あら、彰艶様ではありませんか。どうされましたの?」
ときわはすぐに気づき、そう問い返す。
「相談したいことがありまして…」
やや言いにくそうに言葉にした薫に、ときわは
「わかりました。では、雅でお聞きしますわ。宜しければランチをご一緒いたしましょう?」
と返す。昨日初めて話しかけてきた時と、えらく態度が違う。
「はい、喜んで。」
拒否されなくて良かったと思いながら、薫はときわと共に雅へと向かった。
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この学園には、なんとレストランとカフェがある。入学説明会でそれを聞いた時、ここは本当に日本なのかと疑ったのはいい思い出だ。レストランは雅、カフェは和という。両店共メニューが豊富で、美味しいことで有名だ。利用する際は、会計時に生徒手帳をスキャンするだけで、月一で振り込む学費に加算される。
薫は普段、弁当を持ってきていて、皐希をはじめとした友人たちとクラス又は中庭でそれを食べている。
が、今日は昼休みに、ときわに久のことを相談すると決めていたため、話をするならきっとここで昼食を食べながらになると思い、あえて弁当を持ってこなかった。
ときわは春野菜のキッシュにグリーンサラダとスープに、食後に紅茶。薫はビーフシチューに焼き立てのフランスパン、温野菜のサラダと、食後にはカフェラテをそれぞれ注文し、向かい合って席に着いた。
「単刀直入に聞きます。お話とは、久様に関係することとみてよろしいでしょうか?」
と、ときわが聞いてきた。薫としては、話が早くて助かる。
「その通りです。実は…」
薫は、久といると今回のように誤解をする人が出てくるだろうが、自分としては消しゴムマニアとしてスキルアップするチャンスを、みすみす逃したくないという旨をかいつまんで伝えた。
ときわは、少し考えてから口を開いた。
「私としては、昨日誤解も解けたわけですし、久様と彰艶様との間に何もないのでしたら、反対する理由はございません。ですが、確かにそういった誤解をする方は今後出てくると思いますね。」
「ですよねー…」
薫は遠い目をしながら相槌を打つ。ここで、料理が運ばれてきた。味は一流なのに、とても速い。
会話をいったん中断し、いただきますと言って、お互い料理を食べ始めた。ビーフシチューの、よく煮込まれた牛すね肉はスプーンで口の中に入れるとホロリと崩れ、濃厚なソースやふわりと香るローリエとの相性も最高だった。フランスパンは外側はパリッと、中は驚くほどふんわりとしており、そのままでも、手作りのバターを添えても、ビーフシチューに浸して食べても美味しかった。温野菜のサラダも、ドレッシングのカロリーがあまり高くなく、なおかつ野菜の甘味をよく引き立てる素晴らしい一品だった。
ときわのキッシュは前に一度食べたことがあったが、春野菜の優しい甘味とチーズの濃厚さ、さらにはサクサクとしたパイ皮の調和のバランスが絶妙なものだった。どうやらスープはマッシュルームスープのようだ。あれも、繊細かつ濃厚なマッシュルームの味を贅沢に楽しめる。
少したってから、ときわが口を開いた。
「私から、提案があるのですが、よろしいでしょうか?」
「もちろんです!」
と、答えた薫に、ときわはこう言った。
「お二人がお会いになられる時に、私も混ぜていただけませんか?」
予想していなかった答えに絶句している薫に、ときわはさらに続ける。
「そうすれば、彰艶様と久様の間についても誤解は生まれませんし、私は久様についてもっとよく知ることができます。お互いに利のある、良い案だと思われません?」
確かに、名案だ。それに、久のファンクラブの会長並びにR5役員であるときわを味方につけることができるのは、とてもありがたい。なので、薫はその案に乗ることにした。
「賛成です。ということは、南小路さんは私の味方と認識してよろしいでしょうか?」
薫がこう言うと、
「もちろんです。味方というより、よければ、私のお友達になって下さいませんか?私のことは、どうかときわと呼んで頂ければと。」
と、返してきた。願ってもない言葉だ。薫は答えた。
「もちろんです。私のことも、薫と呼んでください。と…ときわ。」
「ありがとうございます。薫」
嬉しそうに笑うときわ。
そして、雑談を交わしながらそれぞれ紅茶とカフェラテを飲み終えた二人は、並んで中等部2年生校舎まで戻ったのだった。
空腹な読者様の胃を刺激する内容にしてみました♪




