第一部☆火星の王女 第ニ章☆空港から宇宙港へ
「どうしてこんな時間に火星へ向かうの?」
時は深夜を回っていた。
「わからんのか?一番火星と距離や方向がいいときに行くからに決まってるだろ?」
地上の空港に行き、屋上展望デッキから飛び立っていく飛行機を眺めた。青と黄色の灯りが滑走路を照らしている。
「なんで2色の光で照らしてるかわかるか?」
「……目印?」
「うん。着陸するときに入射角度がずれるとわかるようにだ」
始末屋はミリーを抱きかかえると、黒い厚手のマントで彼女をくるんだ。
「眠ければ眠っていいぞ」
「いいえ、目が冴えてるの」
「そうか?」
始末屋はそのまま搭乗口のある階に歩いていったが、腕の中でミリーはぐっすり眠り込んでいた。
「まだガキだもんな」
始末屋は笑い、荷物を預け、搭乗手続きをした。
ミリーは、はっとして目覚めた。
「良かったな。今のうちに地球とおさらばしておけ」
ごごごごご。
流線形の乗り物はスペースシャトルの進化形だった。これで上空に浮かぶ宇宙港に行き、宇宙船へと乗り換える。
「飛んでるの?」
「空高く」
「もう戻れないの?」
「戻りたいか?」
「……いいえ」
「昔と違って、特権階級が地球から飛び立っていく。お前は運がいい」
ぐすぐす泣くミリー。
「泣くのは今だけだ。火星に行ったら弱みを見せるなよ?つけこもうとする輩だらけだからな」
マントをミリーの頭からすっぽりかぶせて放っておいてくれた。
窓の外は漆黒に塗りつぶされていた。
「おじさん。喉が乾いた」
始末屋は酒瓶を取り出した。
「これを飲むの?」
しかめっ面のミリーに始末屋は「よく眠れる」とすすめた。
「一番近い惑星だが長い行程になる。眠っておけ」
ミリーは渋々瓶に口をつけた。飲下すと身体がかあっと熱くなった。
「おじさん」
始末屋は寝息を立てていた。ミリーはしゃっくりをすると、酒をごくごく飲んで、前後不覚になった。




