プロローグ☆地球のスラム街
プロローグ☆地球のスラム街
お母さん!どこ?
確かに手をつないでどこへ行くにも一緒だったのに、目覚めると、母親の姿はなく、薄汚れた子どもたちが目をぎらぎらさせて彼女のそばでみはっている。
「起きたのか?」
「うん」
「じゃあ仕事だ」
彼女は他の子どもたちと同じように薄汚れていたが、短く刈った赤銅色の髪と、こぼれ落ちそうな2つのエメラルドの瞳が見る者をハッとさせる。
いつものスラム街と裕福な層が住んでいる地域の境界辺りに行き、具合が悪いふりをして獲物が引っかかるのを待つ。
恰幅の良い金持ちの男が今日も彼女を見つけて自分の所有物にしようと考えた。そして、多勢の子どもたちに罠にはめられ、身ぐるみをはがされた。
「よくやった」
子どもたちは彼女に優しかった。役に立つという理由から大事にされていた。
始末屋が政府の依頼を受けて、スラム街を一掃する計画が進んでいた。
「あんな場所にいるのはクズばかりだからな。全滅させてやろうぜ」
下卑た笑いで始末屋の仲間が言った。
彼らはスラム街の地図を手に入れ、煙で袋小路へ子どもたちを追い込み、一網打尽にする計画を立てた。
ゲホゲホ。
なにかがおかしい。子どもたちが気づいたときはもう後の祭りだった。
「どうやって殺してやろうか?」
明らかに楽しんでいる男に、自ら持っていた爆弾と一緒に特攻して死んだ子どもがいた。
「殺すな。捕まえて奴隷として太陽系の各惑星に連れて行く」
始末屋のリーダーが冷静に指示を出し、大人たちはスラム街の子どもたちを一人づつ縛り上げて気力を奪う薬を嗅がせた。
「……ちょっと待て」
始末屋は彼女に目を留めた。
「上玉だ。火星の王が毛色の変わった子どもを集めているらしいから、こいつはそこへ俺が連れて行く」
彼女は仲間たちをバラバラにした大人たちに憎悪を抱いていたが、始末屋と呼ばれるこの偉丈夫から「生きていれば挽回のチャンスはいくらでもあるはずだぞ」と囁かれ、歯をくいしばった。
「特にお前は外見に恵まれているから、それを利用しない手はない」
強くなりたい。身体も心も。彼女はそう思った。
「見ろ。あの赤い星へ行くんだ。闘いの惑星だ」
始末屋は彼女に夜空を指差して言った。
「のし上がれるかどうかはお前次第」
彼女は深く頷いた。
「名前は?」
「ない」
「ミリー・グリーン。今日からそう名乗れ」
彼女は、始末屋に連れられて、地球から旅立った。