7 第一王子(レッツファイ!)
私ローズマリーは只今第一王子の誕生日パーティにて、涙で視界が歪んでいます。表情を見られないように手で口元を覆い、まっすぐ前を見つめる。私のドレスを掴んだハロルドも私と同じく身体中が小刻みに震え、顔は紅潮している。
その理由は目の前で繰り広げられていた。
「そういえば、先程あちらのテーブルでアンダーソン領内で作られたワインを見かけましたのよ。王家の開催されたような晴れ舞台に我が領地の特産物があることとても嬉しかったので、お伝えしようと思っておりましたのよ。」
「えっ飲んだのかい?」
「まさか!ここは友好国のペルディッカ王国ではなくウィリアムズ王国ですもの!わたくしは色と匂いで判断したのですわ。我が領内でワインの造られる工程を見学したことがありますの。そこで様々なワインの違いを学びましたのよ。」
「そ、そうなんだ。あはは…」
お姉様が……かっこいい!!
◇◇◇
「今回は私の誕生日パーティにご参加していただきありがとうございます。初めましてですね。アレクサンドル・ウィリアムズです。以後お見知り置きを。アンダーソン公爵のご令嬢とご子息殿。」
「まぁ申し訳ありません。本来ならわたくし達がご挨拶しなければならないところ、わざわざ足を運んで下さりありがとうございます。公爵家の長女エリザベス・アンダーソンと申します。どうぞお見知り置きを、殿下。」
完璧なご令嬢のお姉様は殿下に優雅にカーテシーをした。私も見習うようにカーテシーをする。
「公爵家の次女ローズマリー・アンダーソンでございます。お姉様共々よろしくお願い致しますわ。」
「公爵家の長男ハロルド・アンダーソンです。殿下にお会い出来て光栄です。」
「あぁ楽にしてくれていいよ。ふふっ前から話してみたいと思っていたんだ。特にエリザベス嬢とローズマリー譲は同じ歳だからね。一緒に学園生活を初められるのが楽しみだよ。ハロルド君も友達になれると嬉しいな。社交デビューなんだってね。初めてのパーティは楽しめているかい?」
こ、この顔面国宝は随分とフレンドリー!
完全に自分の顔の良さ自覚している。それはともかく、お姉様を守らなければ!
「あ、あの!」
パンッ
私がお姉様の前に出ようとしたら、お姉様がどこからか扇子を取り出し勢いよく開いた。口元を隠してこちらに『み・て・て』と口パクで伝えてきた。かっこいい!!…ではなく!大丈夫なんだろうか、と不安になっていると、
「えぇ殿下。流石王家の開催されるパーティですわ。お目にかかれない品々が沢山ありましたので目移りしていた所なのです。特にここには初めて見る御料理がありましたので、是非とも実食せねばとお味を拝見させて頂いていたのですわ。」
「そうなんだ。気に入ってくれたかな?」
「それはとても。この国に無い味付けで美味しゅうございました。この味付けはもしや、先月王妃様の衣装のドレスに使われた布を輸出されたフォマルファイト国の御料理なのでは?素材を生かしているように、独自の調味料を使った調理をする健康にいい料理という特徴があり、陛下がとても気に入られて国に持ち帰ったお話もあるぐらいですし、そうじゃないのかと思いましたの。オホホ」
こ、これは!前世の先輩特有のなんで貴方そんなこと知っているの!?攻撃だ!効果としては立場が上な人ほど精神的にキツく来るものがある。今のお姉様は10歳の美少女だからさらに怖い!
「た、多分そうなんではないかな?」
あの完璧と言われている第一王子がたじろいでいる!きっと自分の話になると油断していた分効果は抜群ね!
…この前ラシェルに聞いたのだけど、私と会う前にお姉様は領内を見て周ったり、父親の仕事の提案や意見をしたり、人と積極的にお話して情報を調べたり…ともかく行動力が凄かったらしいからこんなにも話せれるのだろう。
何を伝えたいかと言うと…お姉様はとてもかっこいい!
…そうして冒頭にもどる。
「え、ええと…エリザベス譲は博識なんだね。」
引きつったような笑顔でキラキラ王子が答えると、お姉様は今まで変えなかった表情を変え、驚いたように目を少し大きくして、頬を赤らめて
「まぁ!博識だなんて!…そのような褒め言葉初めて言われましたわ。」
…。
ぜぇーったい嘘!!と殿下と私とハロルドは思った。言われないわけない!公爵家の箱入り娘の10歳の美少女がこんなに詳しいわけないでしょう!これはあれだ!こんなことも常識にないのっていう圧倒的上級者の煽りだ!私とハロルドには出来ない芸当だ!悲しくなってきた!頑張ろ!!
王子さん固まっちゃた…。
「アレク、ここにいたのか。」
「ヴィン!ちょうど良いところに!」
…殿下。心の声ちょっと漏れ出てる。
それよりヴィンって言った!?ヴィンって言ったら『ミモ恋』の攻略対象ヴィンセント・マーティンのこと!?殿下ともう愛称で呼び合う仲なの!だってゲームでは、殿下と学園で初めて会うはず?ヴィンと呼ばれた人はこちらに向かってくると私達を見て驚いている。やっぱりヴィンセントで合ってる!やっぱり記憶のより幼いけど、サラサラの漆黒の髪と、キリリッとした青い目をしている。この国で漆黒の髪は珍しくてマーティン侯爵家の特徴となりつつあるから間違え無いはず!…前世の最推しだったからかよくこの人の事は知っているんだよな。
って、お姉様は!?…よかった普通みたい。
「あれは……本当に?しかし…いや、だが……。」
そしてヴィンセントはぶつぶつと何か小声で言うと、キッとお姉様を睨んだ。私がほとんど反射的に動いたのと同じく、ヴィンセントが喋った。
「エリザベス、また貴様か!」
耳を塞いだけど…聞こえちゃったかな?
私は前世1番好きなキャラクターを殺気を加えて睨みつけた。
この人は…敵だ。