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かつての同居人  作者: 遠藤 健一郎
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夕方

 数件のスーパーと商店をはしごした後に帰宅すると夕方だった。帰り際に受け取った花を居間の入口に活けてから夕飯の下準備をして、掃除洗濯をすませる。

 昼食はとらないことの多い健一郎だが、この日は肉屋のハナに誘われて従業員のまかないをごちそうになっていた。


「ただいまー」


 玄関の開く音に続いて澄華の声がする。


「おかえりなさい」


 居間で本に目を落としていた健一郎の隣にそのまま座ろうとしたから、皺になるから着替えてきなさい、と注意する。

 「めんどくさーい」と言いながらも鞄を持って自室へ引っ込んでいった。


「何読んでるの?」


 着替えて戻ってくると、そこが定位置である健一郎の隣に腰を下ろす。


「読みますか?」


 開いているページはところどころ翳んだインクの活字に覆われていて、新しくない本だということだけは教科書以外の本を読まない澄華にも判った。


「読まない」


 読書を好まない澄華はテレビをつける。活字を読ませれば内容の把握は早いのだが、本人が好まないためその能力はもっぱら学校の教科書の暗記にのみ活用されている。

 テレビではローカルニュースの男性キャスターが鉄道の遅延を告げる。


「スズちゃんの線だ」

「水澄さん、影響あるかもしれませんね」


 テレビの斜め上にかけてあるアナログ時計へ目をやれば、昨日水澄が帰宅した時間までもう少し。

 窓のむこうの空は彩度が低い。

 さて今朝、あの子は傘を持っていっただろうか。


「迎えに行く?」


 健一郎は本を傍らに置いて立ち上がった。


「夕飯、少し遅くなるかもしれません。問題ありますか?」

「うん、大丈夫」


 書斎を抜けた先にある自室で普段のコートを羽織りかけて、駅まで子どもを迎えに行く装備としては過剰だと思い直してやめた。いまの時期は視覚的に暑苦しいと肉屋のハナには言われたし。玄関脇にしまってある撥水処理をしたワークジャケットに腕を通し、折り畳み傘をその深いポケットに隠すように差し込むと玄関を出る。


「行ってきます」

「気を付けてね、お父さん」

「僕は君の父親ではありませんよ」

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