表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ドラゴンのお土産

作者: 名種みどり

 その山は巨人が暴れ回ったと言われる険しい山だ。麓には小さな村がある。これはこの村の風習の話。



 この村の住民はドラゴンと共に生きている。子供が数え年で八歳になる春にドラゴンの卵が渡される。そうして三年後の春に一斉に飛び立たせるのだ。この【ドラゴンの送別】は村にとって最も重要な行事である。


 旅立ったドラゴンは五年かけて世界を一周し、お土産を持ち帰る。お土産は植物の種や苗木、金や銀、魔法の薬など様々だ。このお土産によって村は栄えている。


 この村の村長の息子はエクスという名前だ。子供なのに大人の様に力が強く、賢かった。村人達が期待するのは当然だ。


 エクスには、沢山の小麦を持ち帰り村を食糧難から救ったドラゴンと、深海にしか存在しないと言われる美しい宝玉を持ち帰ったドラゴンの間に生まれた卵が与えられた。そして、ワイズと名付けられ大切に育てられた。


 三年後の【ドラゴンの送別】の日、村中の人が集まった。そこにあったのは鱗の一枚一枚がそれぞれ別の宝石の様に輝き、よく磨かれた角は鏡となり見物人の驚いた表情を映すワイズの姿だった。


 エクスはワイズを抱きしめて涙を流した。


「ワイズは誰よりも立派なドラゴンだからね。僕は一時でも離れたくないよ。皆は君が山のような財宝を持って帰ることを期待してるけど、僕はそんなもの要らない。僕にとって一番の宝物はワイズだから、絶対に帰ってきて!君がいい子だってこと、一番わかってるのは僕だから、何も持って帰らなくても絶対に叱らないから、だから⋯⋯だから⋯⋯なるべく早く帰ってきて⋯⋯約束だよ⋯⋯」


 エクスの顔はくしゃくしゃだった。一番の相棒が五年も会えないのだ。しかしエクスは賢い子だ。涙をすっかり拭いてしまうと精一杯の笑顔でワイズを送り出した。


 ワイズは山中に響き渡る声で咆えると暴風を巻き起こしながら飛び立った。村人達の歓声はすっかり掻き消された。


 ワイズが旅立ってからエクスの元気が無かった。人の前では笑顔で振舞ったが、どこか悲しそうであった。


 一年後の春、エクスはドアを壊しそうな勢いで家を飛び出した。外から「ワイズが帰ってきた!」と声が聞こえてきたからだ。


 村人達は口々に言った


「普通より四年も早く帰ってくるとはさすがワイズだ」


「きっと伝説の秘宝を持ち帰ってきたに違いない」


 しかし見に行った人はガッカリして家に帰った。ワイズは何も持っていなかったのだ。


 それでもエクスは喜んだ。相棒が帰ってきた。それだけで何より嬉しいのだ。


 村人が全員帰った後、ワイズは地面を引っ掻き始めた。エクスが地面を見ると下手くそな字でこう書いてあった。




【ありがとう さみしくさせて ごめん ね】




 エクスは驚きそして喜びワイズを抱きしめた。


 ワイズは一年かけて文字を覚えてきたのだ。それはエクスへの感謝を込めた最高のお土産だったのだ。



 「ワイズは本当に賢い子だね!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 間咲正樹様の割烹から参りました。 宝よりもなによりも、大好きな人(竜)がそばにいること。そして、心を通わせる事が一番素晴らしいことですね。 素敵なお話でした。
[一言] 滅茶苦茶感動しました!!! 僅か1000文字強で、ここまで奥深いお話が書けるとは! 感服いたしました! でも、実際問題意志の疎通が出来るドラゴンって、それだけで値千金ですよね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ