ドラゴンのお土産
その山は巨人が暴れ回ったと言われる険しい山だ。麓には小さな村がある。これはこの村の風習の話。
この村の住民はドラゴンと共に生きている。子供が数え年で八歳になる春にドラゴンの卵が渡される。そうして三年後の春に一斉に飛び立たせるのだ。この【ドラゴンの送別】は村にとって最も重要な行事である。
旅立ったドラゴンは五年かけて世界を一周し、お土産を持ち帰る。お土産は植物の種や苗木、金や銀、魔法の薬など様々だ。このお土産によって村は栄えている。
この村の村長の息子はエクスという名前だ。子供なのに大人の様に力が強く、賢かった。村人達が期待するのは当然だ。
エクスには、沢山の小麦を持ち帰り村を食糧難から救ったドラゴンと、深海にしか存在しないと言われる美しい宝玉を持ち帰ったドラゴンの間に生まれた卵が与えられた。そして、ワイズと名付けられ大切に育てられた。
三年後の【ドラゴンの送別】の日、村中の人が集まった。そこにあったのは鱗の一枚一枚がそれぞれ別の宝石の様に輝き、よく磨かれた角は鏡となり見物人の驚いた表情を映すワイズの姿だった。
エクスはワイズを抱きしめて涙を流した。
「ワイズは誰よりも立派なドラゴンだからね。僕は一時でも離れたくないよ。皆は君が山のような財宝を持って帰ることを期待してるけど、僕はそんなもの要らない。僕にとって一番の宝物はワイズだから、絶対に帰ってきて!君がいい子だってこと、一番わかってるのは僕だから、何も持って帰らなくても絶対に叱らないから、だから⋯⋯だから⋯⋯なるべく早く帰ってきて⋯⋯約束だよ⋯⋯」
エクスの顔はくしゃくしゃだった。一番の相棒が五年も会えないのだ。しかしエクスは賢い子だ。涙をすっかり拭いてしまうと精一杯の笑顔でワイズを送り出した。
ワイズは山中に響き渡る声で咆えると暴風を巻き起こしながら飛び立った。村人達の歓声はすっかり掻き消された。
ワイズが旅立ってからエクスの元気が無かった。人の前では笑顔で振舞ったが、どこか悲しそうであった。
一年後の春、エクスはドアを壊しそうな勢いで家を飛び出した。外から「ワイズが帰ってきた!」と声が聞こえてきたからだ。
村人達は口々に言った
「普通より四年も早く帰ってくるとはさすがワイズだ」
「きっと伝説の秘宝を持ち帰ってきたに違いない」
しかし見に行った人はガッカリして家に帰った。ワイズは何も持っていなかったのだ。
それでもエクスは喜んだ。相棒が帰ってきた。それだけで何より嬉しいのだ。
村人が全員帰った後、ワイズは地面を引っ掻き始めた。エクスが地面を見ると下手くそな字でこう書いてあった。
【ありがとう さみしくさせて ごめん ね】
エクスは驚きそして喜びワイズを抱きしめた。
ワイズは一年かけて文字を覚えてきたのだ。それはエクスへの感謝を込めた最高のお土産だったのだ。
「ワイズは本当に賢い子だね!」