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タコばっか食べてるの
人々の在宅時間が増え
たこ焼き粉が店頭から消えているのを
見せつけられた昼下がり
帰宅した私は
調節された水の量で溶いたお好み焼き粉を
丸が連なる黒プレートに流し込んでいた
ケチくさく切られた小さなタコを
一つずつ入れていく
ふと
『なんかタコばっか食べてない?』
あ
好きな人が直近の二人呑みで
注文直後の私に発した言葉を思い出した
私たちが顔を合わせるのは数ヶ月置き
そんな感覚が空いているにもかかわらず
彼の中で私のタコ好きは定着していたようだ
不思議だった
だって彼は
私が説明したはずの事柄も
自身が発した言葉さえも
忘れてしまうような人だったから
そう、とにかく私は
最初にタコの唐揚げを注文してしまうのだ
「……」
現実の私は無言のまま
先が細く鋭い銀色のたこ焼きピックで
茶色い生地と黒いプレートを
乖離させようとする
次にまた会えた時にも
覚えてくれているのだろうか
何年先でも
また言ってくれるのだろうか
『なんかタコばっか食べてない?』
うん、相変わらず
タコばっか食べてるの




