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欲の消滅と反動の我儘
「それどころじゃない」という事態による
欲の消滅は顕著なものでありました
日々カールを施していた栗色の髪は
すとんと肩に落ちかかり
あの人に会えるから、と
指先と目線で
季節の色をあしらわれたワンピースを
選び抜くこともなく
カフェを心の拠り所としていた自身の
新たな居場所は
コンビニ前の車内となっておりました
ここは鏡の向こう側の世界
普段と寸分も違わない景色のはずが
いつの間にか
全く別の世界に様変わりしていたのです
たいしたことは出来なくていい
そう思いながら
今日も今日を終えようとしています
でも、もしまた
あの人に会える日が
いつか訪れることがあるならば
何ヶ月かぶりのキスの後に
我儘を言ってみようかと思うのです
「もう舌は入れてくださらないのですか?」




