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声の救済
私が日常で一番聴き続けている声は
会ったこともないあなたの声でした
来る日も来る日も
あなたは私の気持ちをなぞるよう
少し森に入れば入るほど感じるのは
あなたが生み出す旋律や詩に
魅了されてる人々が
自身の言葉で紡ぐ愛のため息
世間からは嫌われ
信者からは崇められ
私は自分勝手にあなたの隣に座ります
草原に腰掛ける私とあなたは
会ったこともないのに
共に何度も歌います
お皿を洗いながら
掃除機をかけながら
洗濯物を干しながら
ライブハウスのステージ上で
レコーディングスタジオで
密かに落ち合う恋人の前で
私とあなたは永遠に交わることもなく
共に何度も歌います
「私の気持ちが膨らんでしまったのは
あなたのせいだ」
会ったこともないあなたは
意味の分からない責任転嫁に
ただ微笑み返すのでしょう
そして私を救済するように
また口ずさむ歌は
悲しくなるほど
恋の仕組みを解き明かし続けてゆくのです