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零すなら椿の花びらを
もうこれ以上人生は
変わらないのではないか
これ以上自分自身には
何も起こらないのではないか
そしてそれは余りにも
贅沢すぎる独り言であり
ゆえに思い浮かべることさえ憚られる
全てを引っ括めた結論はこうだった
「あとはもう人に尽くして歳を重ねて終わるだけだ」
あなたは自分の息が吹き返す感覚を
味わったことがあるだろうか
それはもう何のドラマ性もない一場面
記憶をぽろぽろと失くしがちな私が
掴んで離さない視覚的衝撃
まるで何もないところから
翻した手のひらに椿がほろっと
咲き出たような印象だった
思い通りにいかない
望むように進まない
みんな自分の生き方を曲げることができない
私は合わせよう
みんな好きなように生きたらいい
不満を零し続ける人生なんて真っ平ごめんだ
私はみんなについてゆく
穏やかににこやかに
ねぇ、それがいいらしい
小さな国の平和の維持には
ただ見えないように後ろで組んだ両手からは
あの日の椿が足跡のように花びらを
歩いた道に零してゆくんだ




