ほら、あなたは何の奴隷なの?
「察してという感情は異性には通じない」
というありがたいお言葉を
人生の時間をかけてめくり続けた雑誌の
どれ程のページで今まで目にしてきたのだろうか
大人の女性に寄り添った
その分厚い読み物をバタッと閉じる
伝えたところで変えらないことがあることを
純な気持ちと引き換えに
やっと理解してきたんだよ
人の生き方は変えられない
そして逆もまた然り
私は夕方の街に繰り出した
お目当は友人に教えてもらった新しいお店だ
寒空の下、ストールに顔を埋めながら
先程の話を考えていた
もしかしたら私自身が
「人を自分の思い通りに
誘導することが好きで器用な人」なら
事態は変わっていたのかもしれないけれど
そこに労力をかけられない自分がいるんだ
性質だ、としか説明できない
小指の先程の薔薇が
光をあらゆる角度に反射させている
可愛い……
そのひとつまみの花を元に戻し
順に他のピアスを耳たぶにあててゆく
すると
ひとつひとつ確かめたい指先より
先を進んでいた目線が
その小さな存在を捕らえたのだ
摘み上げると
それは銀色に細く伸びた線の先で
細かな輝きを羽に満たして揺れる蝶であった
「これだわ……」
確信とは正にこのことだと
次、もしまたあの人に会えるのなら
私は耳元でこの蝶を揺らしたい
包まれた愛すべき蝶を
大切に持ち帰ろうと
お店を後にする時
ほら、あなたは何の奴隷なの?
人の生き方は変えられない
そして逆もまた然り




