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ころころ〜、ころころ〜
ジョッキから手を離してうなだれる私に
向かいの席の彼女はこう言ったわ
「そんなの転がしちゃえばいいんだよ」
そして彼女自身の頬の斜め下あたりで
手の平を天井に向け
まるで小さな玉を転がすようにして
言葉を続けた
「ころころ〜、ころころ〜」
私の目に映るのは
飲みかけの生中
食べかけの塩キャベツ
用済みの串
電灯に照らされてやけに輝いている彼女
「ころころ〜、ころころ〜」
まるで催眠術かのようなその響きは
恋の悲惨な有様に呆然としていた私の心に
徐々に浸透していったのです
「男なんて転がしちゃえばいいだよ」
大衆居酒屋に突如現れた女神さま
あなたのお言葉が身に染みる今日この頃
ころころ〜、ころころ〜
最初から手に入らないと決まっている恋なら
それぐらいがちょうどいい




