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程なく耳に届いた、奇跡
苦しくて苦しくて
小説が何も読めなかった当時に
唯一手に取っていた本があった
その作者の方が今でも書かれている本を
書店の棚から手に取り
パラリとめくるあなたの隣
程なく耳に届いた低い声
「へぇ……、面白い」
奇跡に近いような瞬間が
振り向いた途端に
まるで流れ星のように訪れることがある
あの遠き日々
この本の作者の方には
どれほど救われたかは分からない
今、家にある本棚には
当時、丁寧に丁寧に
休日の度に
書店から一冊ずつ
私のもとにお出迎えした
先生の本が並んでいる
時を超え
あなたが先生の本を手にした時
素朴に見えて
実はずっしり中身が詰まった先生の世界を
あなたが共有してくれた時
それは明らかに奇跡に近いような瞬間
「でしょ?」なんて
そんな一言で片付けてしまう
奇跡はひとりの人間の中だけで
弾け飛ぶものなんだ




