稲の緑が視界で美しくそよぐ
一体何から書き残すべきなのかが
全く分からないが
ひとつ言えることは
私は奇妙に煌めく日々の直中に
浮かんでいるということだった
向こう側の世界にいる君が
話したいなんて言うから私は
普段は忙しくステイしている夕方に
財布とスマホを手に
家を飛び出してしまった
かつて恋焦がれていたあの人に
「話したい」
と言っていたのはこの私だ
だから私は少しばかり
君の口から溢れた
思いつきのような願いに
応えられるなら応えてあげたくなったのだ
外の世界は
今日という日を全うしたかのような
落ち着いた心地良い風を漂わせ
薄い橙と白が空全面で層になり
自転車で続く親子連れが家路へと向かい
私自身はドラッグストアへの道を
わざと遠回りしようとしていた
私は電話が得意ではなかった
目の前にいる相手の表情を見て
心の機微を感じながら
話したい人間だったから
だから君との会話も
変に饒舌になってしまったかもしれない
田んぼを正面にしゃがみ込み
この今までの短い期間で
君との間に起こったことを振り返りながら
冗談めかして喋る
まだ成長しきっていない稲の緑が
視界で美しくそよぐ
普段なら家事で追われている時間に
どこの誰かも分からない君の出身地に驚き
ひとつ真実を知れたかのような
喜びが変に湧き上がる
新鮮さは罪だ




