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二人は自由だよ
木々が生茂る真っ暗闇の川辺で
無数に発光する蛍を目にした時
一番に思ったことは
「君と一緒に見られたら」だった
人工的な光を遮断した自然界の夜
天と地に広がる蛍たちは
まるで呼応し合うかのように
淡い光の息を合わせる
人が作り出した機器に収まらない
刻まれた光のリズムを
目と脳と心に焼き付ける
私はその幻想的な空間の中で
ぼんやりと思い出したことがあった
一年前
誰にも見せずにノートに紡がれた
君と私を主役にした物語
そこで二人は蛍を見ている
君がその漂う光の粒に
目を奪われている横顔を
盗み見しているという場面
だからもうずっと前に
一緒に蛍を見ていたんだ
実際は夜桜だった過去
それを自分なりに変換させたように
走らせたペンの先から
私たちは何だってすることができるんだ
ねぇ、二人は自由だよ




