1-8 文睦とシャデュ、そして始まる……
「祝、ここのスペルが違う。これだと「走る」じゃなくて「スープ」になってしまう」
「街道を子どもがスープ……中々の怪文章ですね」
「書いたのは祝」
消灯前の三十分間、俺はデワデュシヂュ中尉からこの国の言語を教わっていた。教科書は資料室から借りてきた児童書から始まり、今は一般向けの文学書を使っている。
「早く祝には私たちの言語を覚えてもらい、私無しでもコミュニケーションを取れるようになってほしい」
「いつもありがとうございます」
「礼はいい。仕事だから。……今日はこのこれで終わり」
よっしゃぁっ、今日も一日乗り切ったぞー!
「明日も九時から実験があるから、そのつもりで」
「わかりました。本日もご指導ありがとうございました」
「ん。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
デワデュシヂュ中尉が部屋を出たのを確認し、俺は軽く復習に入る。
就寝前の言語学習はいい。内容が夢になって出てきて楽しい上に、起きた時には昨日よりも覚えているからな。
復習もそこそこに、本にしおりを挟んで背伸びをすると、心地よい疲労感を覚えた。
「んじゃ寝るか……」
ベッドの上に大の字になってしばらくすると、部屋の明かりが消え、それからまたしばらくして、俺の意識も暗転していった。
街道で少年がスープしている夢を見た。
祝の部屋を出て、大佐の部屋へ向かう。消灯まで、あまり時間がない。
部屋の前に着いてノックすると、入室の許可があった。
「夜分遅くに失礼します、デワデュシヂュ中尉、報告に参りました」
「おっ、今日もご苦労さん。で、イワイの奴はどうだ?」
「はい、中等学校クラスの文学書の読解がもうじき終わります」
「三日……いや、限られた時間内での学習でこれか。もしかして天才なのか?」
「いえ、我々の文化への興味と、私無しでもエレナ中尉やマリス中尉とボードゲームをするためのようです」
「そりゃまた、凄い熱意だな」
笑いながら、面白い奴だと感想を抱く大佐は、しかし私を見て、口端をさも意味深に釣り上げた。
《ん~? でもお前無しでもエレナとマリスとゲームをしたいってことは、お前、もしかして結構嫌われてるのか?》
「大佐、心の表側でそんな事を言われても、奥底にある私の反応を見て楽しむ趣味の悪い思考が見えているので、大佐のご希望の反応はできかねます」
「おいおいそんな怖い顔するなよ。可愛い顔が台無しだぜ? それじゃイワイの奴も離れ……すまん、俺が悪かったからその殺意に満ちた目をやめてもらえるか?」
「奥様に今度、大佐の趣味の悪さについてお手紙を書かせていただきます」
「やめてくれ。本当にやめてくれ」
大佐とのじゃれ合いには慣れっこだが、イワイが来てから、彼との関係性を面白がって弄ろうとするので、本当に奥様にお手紙を出そう。
「だが実際のところ、お前、イワイの事をそれほど嫌ってないだろう?」
「まだ言いますか?」
「ちょっと真剣な話だ。まぁ少しは野次馬根性みたいなところが……すまん、真剣な話だ。それで、どうなんだ?」
「大佐、何か勘違いしていらっしゃるようですが、私は祝の事を嫌いではありませんが、特別好意を抱いている訳ではありません」
「けど、イワイの奴はお前の事を気に行っているみたいだぞ?」
「この基地のマスコットキャラクターとして、ですが」
嘘。本当は、娘や歳の離れた妹のように接してくれている。異性としてはあまり認識されていない。
「お前さん、最近、嘘が下手になったなぁ」
「ご指摘ありがとうございます」
「ははは、俺の心を読んだとしても、どういう理屈でわかったかまではわかるまいて。何となくで察したんだからな!」
やっぱり奥様に手紙を送ろう。絶対に。
「で、まぁ両想いのお前らにだ」
「違います」
「まぁ聞け、デワデュシヂュ中尉」
今度こそ真剣な大佐の声音に、私も姿勢を改めた。
「これは極秘の内容だ。これから話す内容は、私を含めた左官以外には伝えていない。内容の口外は国家反逆罪とみなす」
「はい」
「シャデュ・デワデュシヂュ中尉、貴官は――――」
これからもがんばっていきます!
ゼット「平成も終わりか……」
メイプル「あっと言う間だったわねぇ」
晴樹「そうだなぁ」
よっしー「青春を駆け抜けた感じですね」
千歳川「私はまだ青春を駆け抜けている最中ですが、元号が変わるというのは不思議な感じがします」
イリア「うんうん」
文睦「さみしいような、めでたいような……」
カフカ「ですが、新しい元号の始まりに立ち会えているっていうのも、ステキではないでしょうか?」
実里「そうだね」
ラウラ「平成が終わって、次の元号へ移っても」
エリス「今日もまた、一日が始まるわ! 明日も、明後日も!」
アルファ「というわけで」
ゼット「これからも、よろしくお願います!」
ありがとう、平成。
よろしく、新しい元号――――令和。
2019/4/30