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機械仕掛けのカプリッツィオ!  作者: 胡桃リリス
第一章 ガール・ミーツ・フール
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1-3 たかがデジタル腕時計、されどデジタル腕時計

 俺の名前は(いわい)(ふみ)(ちか)

 異世界に来て、巨大ロボットに乗ることになったアラサーだ、よろしく頼むっ!

 あ、そう言えばエレナさん(仮)、怪我は大丈夫かな? イケメン(笑)は生きているだろうか……。ロボの右腕は突然地面の下から出現しないだろうか…………。

 オッサンは渋くてダンディーでいい人っぽい。

 独房なぅ。




 目を覚ますと、真っ暗な鉄製の天井だった。

 何だ、今の夢は……。

 体を起こして腕時計を確認する。えぇと、半日ほど寝てたか、はっはっはっ。

 けっこうぐっすり寝たなぁ俺。


 とりあえず、朝なんだが、ご飯は……、あ、見張り番さんおはようございます。


 目礼すると、無言で下の隙間から食事の乗ったトレイをくれた。

 異世界初の朝食は、コッペパンと目玉焼きとスープでした。

 わぁ、思ってたよりも豪華だなぁ、と考えながら残さず頂き、トレイを返しておいた。


 腹も膨れ、腹ごなしにラジオ体操をしていると、扉が開いて、件のオッサンが顔を覗かせた。


「○○○……」


 何やってんだ、と言う感じの言葉の後、表に出ろとジェスチャーがあった。

 オッサンと二名の見張りさんの間で歩きながら、基地の様子をそれとなく観察する。

 デパ地下の通路みたいだなぁ……うん。


 案内されたのは、尋問部屋……ではなく、応接室のようなところだった。

 すでに先客がいたが、一瞬呆けてしまった。


 銀色のショートボブの、十代半ばに見える女の子だった。

 翡翠色の瞳の美人さんだな、天使みたいだ、と月並みな感想を抱きつつ、オッサンに手で示され、その子の対面のソファに座った。


 オッサンは見張り役の二人を退室させると、女の子の隣に座って、俺へと視線を向けてきた。理知的な瞳で、少なくとも、敵意はなさそうだった。


「○○○……○○○○?」

「○○○○」


 女の子はオッサンと言葉を交わすと、俺に視線を向けて口を開いた。


「……私の言葉、わかる?」

「ぁ、わ、かるよ、わかる!」


 おぉ、すげぇ、日本語だ。

 もしかしてこの子、転生者なのかな?

 こんな状況なのに、胸がときめいてくる。

 あれ、女の子が心なしか引いてる気がする……流石に凝視しすぎたか。


「貴方に今から質問をする。正直に答えて。嘘はすぐに見抜ける」

「わかった」


 問われたのは、名前と出身地、年齢、それからあの場にいた理由だった。

 俺が質問に全て答えると、女の子から答えを聞いたオッサンは顎に手を添え、片眉を上げた。

 オッサンからの言葉を受けた女の子が翻訳して伝えてきた。


「ニホンという国は聞いたことがない。そもそも、貴方はその国でどういった立場なのかを知りたい」

「えぇと、普通のサラリーマンです」

「サラリー……? 働く人、ということ?」

「うん」


 現代地球ではその認識で合ってるから、細かい事は説明しないでおこう。


「貴方は苗字と、見慣れない素材の衣服や荷物を持っている。貴族や役人でないというのであれば、何なのか?」

「一般人です」

「貴方の国では、一般人も苗字を持っているのか?」

「えぇ。俺の場合は、祝が姓で、文睦が名です」


 そんな感じで、しばらくの間、俺たちは質疑応答を繰り返した。

 やってみると、案外、こういった異世界異文化交流って楽しいものだな。

 区切りのいいところでふと腕時計を確認すると、三十分が過ぎていた。


「その装置は?」

「腕時計です。そちらの男性……えぇと」


 呼び方に迷っていると、オッサンの方が「おっと忘れていた」と言うように苦笑を浮かべた後に、姿勢を正した。


「私の名前はサーガット・マデラン。この駐屯地の責任者をしている」

「へぇ」

「……ちなみに、大佐です」


 最後のは翻訳ではなく、女の子自身の言葉だな。

 よかった、この基地の一番エライ人が話し相手で。


 次に、女の子の気になる自己紹介だ。


「シャデュ・デワデュシヂュ。中尉です」


 ありゃ、素っ気ない。

 地球からの転生者か転移者です、みたいな自己紹介は……あぁ、ないか。まだ俺は怪しい奴、だからなぁ。


「それで、その腕時計は……?」

「あぁ、はい。マデラン大佐が首に下げている懐中時計、で合ってますよね。はい、それを、デジタル……えぇと、そう、あのロボットのモニターに色々な数値が表示されますよね。あれのように、現在の年月日と時間を確認できるようにした装置です」

「…………見せてもらえるか?」

「どうぞ」


 机の上に置いた腕時計を、大佐が手に取って静かに観察を始める。

 その隣から中尉もちらっと覗き込んでいる。可愛いな。


『○○○○……○○……○○? ○○○……』

「これは凄い、確かに、手首にこのような装置を巻いておけば、時間の確認も楽になるし、行動もよりスラスラと行う事ができる。貴方のいた国では、民間人がこのような装置を身に着けているのか?」

「多いと思いますよ。もちろん、懐中時計や、機械仕掛けの腕時計を持っている人もいます」


 大佐から腕時計を返してもらった直後、ヤバい事をした、と思い至った。


 あれ、俺、この人たちというかこの世界に……もしかしたらいらぬ知識を与えたんじゃ、ね?

 あんな巨大ロボットを作っているのにデジタル腕時計がない理由はわからないから置いておくとして、あのロボットの製造技術と組み合わせたら、想像のつかないような小型デバイスを完成させるんじゃ……。


『○○?』

「大丈夫か?」

「え、あ、はい、大丈夫です」


 よ、よし、俺は見せただけ。見せただけだから、後はこの人たちがどうするかだけ……。

 ちきしょう、どうにか止めないと!


「安心して」

「へ?」

「私たちの技術では、貴方の腕時計を作ることはまだできない。ただ、発想は素晴らしいから、大佐と私の胸の内にしまっておく」

「あ、あぁ、どうも……」


 よかったぁ……たかがデジタル腕時計、されどデジタル腕時計。

 絶対に携帯電話とかこの人たちの前に出せないな。出したら確実に世界が変わる。確実に、悪い方向へ。


「携帯電話って、それほどまでに凄いの?」

「え?」


 俺が顔を向けると、中尉がわざとらしく顔を背ける。


『○、○○○○○?』

「ところで、ここからが本題となるのだが、いいだろうか?」

「あ、はい」


 本題、か。

 恐らく、あのビームについてだろうな。


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