1-1 巨大ロボと人助けと必殺技
続きです。
子どもの頃からロボットアニメは好きだった。
けれども、実際に巨大ロボが暴れまわる戦場に、生身で放り込まれたらどうか?
答え、想像していたよりも落ち着いて、かつ不思議な感動があった。
「な、なんだこりゃぁ……」
ロボ?
ろ、ロボ? え、これ巨大ロボぉ?!
落ち着け、オレ。
直前までなにをしていた?
買い物に出掛けようとしていたな。
それで家のドアを開けたら、目の前で倒れている巨大ロボットと戦場が出迎えてくれた。
自分で振り返っておいてなんだが、意味がわからん。
念の為に後ろを振り返ってみるが、ロボが暴れまわる戦場しかなかった。逃げ込めそうな場所は基地っぽい施設があったにはあったが……文字通りの激戦区になっていて、近づきたくても近づけない。
あ、ダメだこれ、詰んでる。
「ぅ……」
うめき声が聞こえて顔を上げると、倒れているゴーレムの胸部から、金色の紐……違う、髪の毛だ。
恐る恐る近づくと、開いたコックピットから、気を失った女の子がずり落ちかけていた。
女の子……?!
顔立ちは欧風で、年齢は……中学、いや、高校生くらい……じゃなくてっ。
すぐさま彼女の下へ駆け寄り、容態を見る。
額に傷が出来ているが、それ以外の目立った外傷はないように見受けられる。
攻撃を受けた時に、打ったのかもしれない。
『Elena! Elena○○○!!?!』
コックピット内から、ノイズの混じった女性の呼びかける声が聞こえてくる。
何を言っているのかわからないが、恐らく安否を確かめているんだろう。
それと、この子の名前はエ……エレナ、かな?
同時に、目の前のロボットと同じような外見の機体が近づいてきた。どうやら、あの機体が通信をかけてきているようだ。
『○○○?! ○○○、Elena○○!!!』
今度は驚いた後、警戒するような声がエレナさん(仮)のコックピット内から響き、近づいてきたロボットが持っていた拳銃を構える。
えと、もし撃ったらエレナさん(仮)をまきこんじゃうんから、コックピットから出てきて小銃で狙うとかしないとダメだよ?
まぁいいか。
どうやら、あの基地を護っているのはエレナさん(仮)たちのロボットのようだ。
数的には防衛側が有利に思えたが、少し離れた場所にいた機体が、轟音と共に横に吹き飛んで倒れた。装甲に深々と刺さっているのは、巨大な矢のようだ。あ、コックピットからは外れているみたいだ。
なるほど、弓かバリスタを装備したロボットがどこかから狙撃しているということか。
『ッ!! ○○○○○!! ○○○Elena、○○○○!!』
呼びかける声と共に、近づいてきたロボットがエレナさん(仮)ロボを庇うように立つ。
あ、この人、いい人だな。
でも、もし矢で攻撃されたら、多分あのロボットは只ならぬダメージを受けるだろうし、俺たちも巻き添えになる可能性が高い。そうなれば、多分皆死ぬ。
ここで俺たちが生き残るためには、どうすればいいか。
気絶した彼女を抱えて基地へ逃げられればいいが、たどり着くまでに死亡する確率が非常に高い。
なら、お仲間さんに助けてもらうか? これも一つの手だろうが、俺たちを手に乗せようとした隙に攻撃される可能性が高い。ほら、今も外れた矢が俺たちから十メートルほど離れた場所に突き刺さったし、危険極まりない。
ならば、残った手は一つ。
コックピットの縁に手をかけて中へ飛び込み、エレナさん(仮)をゆっくりと引きいれる。
ふむ、シートは一つだが、後二人くらいは入っても問題ないな。
操縦桿はあるし、フットレバーらしきものもある。後は……シート前に設置されているスイッチやらメーターが付いている、ロボットアニメでよく見る装置か。安全そうな、緑色のランプや線が灯っているということは、動かせる、と考えていいだろう。
シートに座り、壁にエレナさん(仮)を丁重にもたれかからせる。
「さて、後は動かすだけだが……」
失敗したら俺も、この子も死ぬ。
けれど、まぁ、こういう時はノリと勢いでどうにかしろってな、自転車とバイクしか乗ったことねぇけどさ!!
操縦桿を握り、フットレバーに足を置く。
動いてくれよ、動かし方が分かんないからちょっとずつやってみるけどさぁ。
そう思った直後、コックピットハッチが自動で閉まり、全面にモニターが展開される。
揺れとGを感じ取り、モニター越しの景色が、地面から夕暮れの戦場へと変わっていく。
エレナさん(仮)がずり落ちないよう、彼女の肩に片手を添えながら、その光景に旨を高鳴らせる。
「立ち上がったぜ……」
その途端、コックピット内部にいくつもの光のラインが走ったかと思うと、脳裏に何やらこの機体を動かす方法が浮かんできた、気がした。
もしかしてこれ、俺が思ったらその通りに動くのか?
『○○○○?!! Elena,Elena!?』
「すみません、エレナさんじゃないです」
先ほどの女性が、どこか安堵した声音で呼びかけてきた。
言葉は通じないが、申し訳なさは込めて返しておいた。案の定、驚愕と怒りをない交ぜにした通信が返ってきた。
直後、狙撃の矢が俺のすぐ傍を掠めて行った。それだけですごい衝撃が伝わってきたが、どうにか体勢を崩さずに堪えた。
どうやら防衛側も大型の……あれは、バリスタか。それを持ったロボが狙撃を試みているみたいだが、残念ながら届いてはいないようだ。相手の矢から、大きな盾を持った仲間が庇ってくれているが、少し貫通しているらしく、長くは持ちそうにない。
「基地は他の人たちが何とかしているけど、この狙撃が鬱陶しいな……」
息を深く吸って、そこそこ勢いよく吐く。
恐らく、見た目や戦い方から、この機体はリアル系に違いない。
だとしたら、必殺技はほぼないと考えた方がいい。武器も専用拳銃や腰のナイフくらいしかなく、この場で一番威力がありそうな装備は、あのバリスタだろう。
モニターで狙撃手を確認する。いた、モニターに文字が表示されているが、全く読めない。桁数の区切りが地球と同じなら、整数三ケタだろうが……うーん、見た感じ、五百メートルくらい先だろうか。
例えば、この機体の隠れ機能として、高速移動が可能となるギミックや、強力な飛び道具が展開されれば、すぐさまこの状況を打破できそうなものだが。
なんて、考えた直後の事だった。
俺が乗っているロボの右腕が独りでに動き始め、拳銃をその場に捨てたではないか。
そして、そのまま掌を狙撃手の方へ向ける。
「あ、これ、やれってことか?」
『○○○!!?』
「すみません、俺もよくわかりませんが、やれるだけやってみますね」
この機体の隠れ機能でもなんでもいい。
今は、あの狙撃手を倒し、生き残る事を最優先にしよう。
「イメージはビーム。威力はあの敵ロボを一撃で蒸発させられるくらい。狙うのはコックピット以外で弓を含めた部分!」
言いながら、何だかよくわからないが高揚していく感覚の中で、俺は右操縦桿を思いっきり前方へ押し出した。
「メルティング・ブラスタァァァァァァァァッ!!」
気合の咆哮が操縦桿を通して機体の右手に注がれるイメージと共に、ロボの右掌から光が迸り、一瞬で遠くにいた狙撃手を飲み込んだ。
その瞬間、戦場で敵味方全てが動きを止めていた。
数秒後、光が収まった時、狙撃手の機影は左半身を吹き飛ばされ、コックピットはどうにか残っている状態になっていた。バランスを崩し、倒れる敵機だが、もがき動いている様子から、パイロットは生きているらしかった。
よかった、ほぼイメージ通りにできた!
後は……残りの奴らもこれで威嚇を、と思ったら、自機の右腕が肘からなくなっていることに気が付いた。
モニターの端に、機体の右腕が消失した事を示す画像が出てきた。
かなり、代償がでかかった。
仕方ない、左手を向けてみるか。
残った左腕を近くにいた敵へと向けると、予想通りの物凄い勢いで離れて行った。
そしてそのまま、敵側は全機その場から撤退を始め、脱出した狙撃パイロットを回収して逃げて行った。
誰も彼もが追撃を忘れ、その光景をただただ見ているだけだった。
よかった、生き残る事ができたし、エレナさん(仮)とその仲間の人たちも助けることができたようだ。
しかもロボットに乗れて、ご都合主義な必殺技まで使ってしまった。
我ながら荒唐無稽な展開で、流石にそろそろ本格的に怖くなってきた。
「……さて、夢ならこの辺りで覚めてくれるんだが」
『○○○……』
落ち着いた男性からの通信が入ったが、何を言っているのかわからず、困ったニュアンスを込めて「うーん」と唸っておく。
やがて、我に返ったエレナさん(仮)の仲間たちによって俺は基地へと誘導され、格納庫で機体から降りると、小銃を構えた軍服っぽい姿の男女に取り囲まれた。
言われるまでもなく両手を頭の後ろに組み、苦笑が浮かた。
あぁ、もう、これ夢じゃなくて、ガチの異世界転移って奴なのね。
お読みいただきありがとうございます。