2-8 ルー・ブレイド
翌日、エレナさんといつも通り実験している最中のこと。
「メルティング・ブラスターを剣にしてみたらいいかもしれない」
と考えて、大佐にちゃんと新しい魔法を使うと伝えてから、ナイフや剣の訓練用盾を長剣と化したメルティング・ブラスターで真っ二つにしたところ、メッチャ怒られた。
『イワイてめぇぇぇぇぇっ!! 今日の昼飯はテメェが奢れ! いいか、ホットケーキもつけろ!』
「わかりました。夕飯もご馳走します」
『わかってるじゃねぇか』
茶番終了。
大佐が技術士官殿たちをいつもどおり押さえているのをモニターで確認した後、エレナさんへ振り返ると、
「イワイさん、この光の剣は何ですか?」
驚かれたが、怒られなかった。
ほっとしたような、残念なような。
まぁ、驚いてもらえたようだし、いいかな。
「メルティング・ブラスターを剣の形に収束してみたんです」
「魔力を剣の形にするようなもの、ですか?」
「えぇ、イメージとしては。けれど、そんなものがあるんですか?」
「使えるのは一部の強大な魔力を持った者だけです。それでも、精々が鎧を貫いたり、両断できるくらいで、ここまでの威力は発揮できません」
「対人や対魔物では強力ですね」
「それでいて、一対一の場合のみ、ですが。魔力の消費が激しいので、長時間は使用できませんから」
「なるほど」
「それで、この剣の名前は?」
「メルティング・カッター、ですかね」
この剣の特徴は何と言っても、防げないという点だ。岩だろうがゴーレムの装甲だろうが、魔法防壁だろうが、なんでも綺麗に切断してしまうところだ。
しかも、対象以外には焦げ跡一つつけない長所もメルティング・ブラスターと一緒だ。
太さや長さも調整できるし、二刀流だってできる。
そして何より、柄がないから取り落とすことがないのに、取り回しが自由なのだ。
エネルギーや魔力の消費に関しては、メルティング・ブラスター同様、操縦者の意志と精神力が続く限り消えない、と考えてもいいんだろう。
無尽蔵のエネルギーがどこから来ているのか不思議……というか確実にコアから供給されているな。
もしコアの耐久度や寿命を縮めているなら使用を制限するつもりだが、技術士官たちが言うには、コアに特殊な変化は見られないらしいので、今のところは大丈夫なのかもしれない。
「メルティング・カッターでは、少し味気ないですね」
「じゃあ、エレナさんが名づけてください」
「えっ、そうですね……」
エレナさんはしばらく剣を見つめていた。
「そうですね……では、ルー・ブレイドと名付けましょう」
「……マジですか」
すんげぇ名前をつけたもんだ。
いや、この世界では違う意味なんだろう。
「光の女神ルーの剣です。昔から私たちの故郷では信仰があるんです」
「そうなんですね」
やっぱりすんげぇ意味の名前だった。
いや、世界が違うんだから突っ込むところじゃないか。
しかし、偶然というか、何と言うか。
「あの、もしかしてトゥアハ・デ・ダナーンとか、ク・ホリンという名前の神々や英雄がいたりしません?」
「? いえ、聞いたことがありません」
OK、異世界ということだな。
「イワイさんの故郷にも、ルー様の存在が知られているのですか?」
「俺の故郷、というか、海のずっと向こうにある国の神話で、同じ名前の光の神様がいます。けどこっちは男の神様で、長腕のルーだとか、ルーフだとか呼ばれていますね」
「そうなんですね。こちらでは剣を携えた英雄神で、かつて魔王と呼ばれる存在を倒したと言われています」
「こっちルーも魔神バラーっていうのを倒してますよ」
えげつない方法で。
「凄いですね……イワイさんの世界にも、同じような神が伝えられているなんて」
「そうですね」
世界的に見たら、似たような神話や神が存在する、という話しがあるくらいだ。
異世界でも同じようなことがあってもおかしくはない、かもしれない。
「もしかして……」
「ん?」
「いえ、何でもありませんわ」
エレナさんはそう言ったけれど、きっと考えていることは俺と同じだろう、と思った。
もしかしたら、どちらかの世界のルーが、俺をここへ導いたんだろうな、と。
ファンタジーここに極まれり、というか中二病も甚だしいし、自意識過剰もいいところだが、本当にそうだったら感謝しないといけないな。
『うぉいお前ら、いつまで休憩しているつもりだよ』
「申し訳ありません。イワイさん、次の実験の準備を」
「はい」
エレナさんを助けられて、ここの人たちとも出会えたんだから。
エレナ機の後、クリス機での実験も終えて、約束通り大佐には昼食とホットケーキをごちそうした。
俺もエレナさんとデワデュシヂュ中尉と昼食を取りながら、神話について語り合った。
「――まぁ、凄いですわね」
「えぇ、しかもク・ホリンは魔術の使い手でもあるみたいなんですよね」
「武にも魔術にも通じている戦士は、どこでも優秀なのですね」
多分、これまでで一番盛り上がったと思う。
エレナさんのこんなきらきらした目や、心の底から楽しそうな表情も初めて見た。
「よければ、エレナさんの故郷の神話をもっと教えていただけませんか?」
「もちろん。イワイさんの故郷の神話もお願いしますね」
よし、俺の知っている限りの神話を語ろう。
まずはどれを話そうかと考えていると、エレナさんが手を差し出してきた。
「イワイさんの故郷では、約束をするときに、ユビキリという習慣があると、シャデュから聞きました」
そう言ってエレナさんが立てた小指に、俺も小指を立てて、どちらからともなく絡ませた。
「「ゆーびきーりげーんまん、うーそつーいたーら、はーりせーんぼーんのーます。ゆーびきった」」
離れた指に残るエレナさんの温かさ。
エレナさんはほほ笑むと、約束ですよ、と言って食事に戻った。
俺も食事に戻ったが、何だろうな、さっきよりも心というか、体が暖かな感覚だ。
そんな俺たちをデワデュシヂュ中尉や周囲が生暖かい目で見守っていた、らしい。
お読みいただきありがとうございます。
とりあえず、祝はクトゥルフ神話とS●Pだけは語るまいと考えているようですが、シャデュにはしっかりと伝わっています。
シャデュ「とりあえず祝はゴーレムにレム●ア・インパ●トとシャ●タクを搭載するべき」
文睦「絶対に搭載しませんからね?」
シャデュ「幻●殺しを」
文睦「多分できないですし、搭載できたとしてもゴーレムもぶっ壊れるんじゃないんですかね?」
エレナ「まぁ、猫ですわ」
シャデュ「……猫?」
文睦「猫ですね」
エレナ「猫ですわね」
シャデュ「やめて二人とも」
エレナ「どうしたんですかシャデュ? 猫が歩いているだけですよ?」
文睦「(悪いことしたなぁ」
シャデュ「猫、そう、猫……ただの猫、怖くない」
多分、あの神話や話は異世界でも通じる怖さだと思います。
それはそれとして第二章も佳境です、よろしくお願いします。