2-1 バスケットボールとクリス大尉
お待たせいたしました。
「イワイー、そっち行ったよー」
「おう任せとけドリャァァァァヘブシィッ!!?」
投げられたボールが俺の顔面に突き刺さる。
「イワイ大丈夫―?」
「だ、大丈夫だ、問題ない……」
「イワイ受け取るの下手―」
「そんな動きじゃクリスにーちゃんに怒られるぞー」
「うるせー!」
ここ最近の日課は、駐屯地近くの町から来たガキんちょたちと遊ぶことだ。駐屯地に親たちがいるらしく、平和そうな時にはよく遊びに来るらしい。
いつもは手が空いている誰かが面倒を見るが、忙しい時はさっさと追い返していたとか。それでも、軍に憧れている子や、親族にお弁当を届けに来たついでに広い敷地内で遊びたい子などが、暇そうなタイミングを見てやってくるのだ。
そこで、仕事以外の時間は暇そうな俺に白羽の矢が立った、と言う訳だ。
デワデュシヂュ中尉によりスパイ疑惑はやってきた初日に晴れているとはいえ、怪しい奴には変わらない俺を子どもたちに近づけてもいいのかとも思うが、責任は全て俺が取ると大佐が言うもんで、皆それなら、と任せてくれたのだ。
しかし、やんちゃ盛りどもときたら、ゴーレムを見るだの、演習ごっこをしようだの、やりたい放題なのだ。あんまりやり過ぎると親御さんから叱られるぞ、と脅しても、もう慣れたと言っていた。こいつら、メンタル強ぇ……いや、俺も昔はそうだったけどさ。
そこで、俺は禁断の最終兵器を投入した。
アメリカ発祥の、全世界的人気球技。
そう、バスケットボールである。
案の定、全員が食いついて、熱中した。
バスケットボールが成功したので、試しに他の遊びもいくつか教えたら、一気に懐かれた。
今じゃ、ほぼ毎日交流している。初日の戦闘以降、敵勢力は近づいてくる気配すらないからな。子どもたちの親兄弟からお礼を言われたりもしている。
さて、鼻頭を押さえて、ボールをぶつけてしまった子の頭をガシガシ撫でてやっていると、基地の方から、若い男の呼ぶ声が聞こえてきた。クリス大尉である。
「イワイ~、エレナが呼んでるぞー!」
「はーい! 噂をすれば影ってな。今日はここまでだ。また遊ぼうぜ」
「次はちゃんと受け止めろよー?」
「イワイ、ごめんね?」
「大丈夫大丈夫。ほら、早く帰った帰った」
子どもたちと別れ、待っていたクリス大尉と共に格納庫へと向かう。
「随分と男前な顔になったじゃねぇか」
「そう思うなら、クリス大尉も参加してみますか?」
「いいぜ? けど、顔面で受け止めるような真似はできねぇな」
クリス大尉は、ツンツンした金髪の快活な青年だ。漫画で主人公や、その親友キャラを張れそうな雰囲気をしていて、実際に性格も悪くない。
挨拶をして、しばらくもしないうちに軽口を叩けるくらいには仲良くなり、たまに昼食を一緒にすることもある。
もしかしたら、この世界で最初にできた男子友達かもしれない。
「あのバスケットボールって奴だが、大佐が興味持ってたぜ? 近いうちに、詳しい規定を聞かれるかもな」
「俺も細部まで詳しい訳じゃないんですが、いいんですかね」
「いいんじゃないか? もし、訓練の一環として採用されたら、難しい部分は俺たちで穴埋めするさ。そう言うのは得意なんでね」
「その時はお願いします」
もしかしたら、この駐屯地発祥の球技、ということで広まりそうだ。
やっちまったぜ。
腕時計よりもある意味でヤバい遊びが、この世界の軍隊に採用されそうだ。ルールとボールと場所さえあればできるから、伝播速度は腕時計なんて比にならない。
まぁ遊びだし、平和な文化貢献ならギリギリセーフだろ。多分、きっと、そうであってくれ。
「だが、バスケットボールって言うのは、背丈がでかい奴じゃないと、遊ぶのは難しそうだな」
「そんなことはないですよ。確かに背の高い人たちが有利ですが、背の低くても選手として活躍している人はいます」
「ふぅん?」
「それに、この世界には魔術や魔法がありますから、それを使えば、背丈の差なんて関係のない未知のバスケットボールができそうですね」
「なるほど。だが、魔法関係が得意じゃない奴らもいるぜ?」
「だからこそ、戦略性が生まれるんじゃないですか。自分に何ができるか、チームとしてどう動くか……。役割分担をして、チーム一丸となって、多種多様な戦略を使って相手のゴールにボールを入れて勝利する。って、素人の意見ですけどね」
「魔法が得意でない者も参加できる、多人数球技……なるほど、ガキんちょどもが熱中するわけだ。いいぜ、俺も次に暇な時は混ぜてくれ。一度体験してみたい」
「是非お願いします。子どもたちも喜びます」
クリス大尉は子どもたちに人気だ。俺以前に子どもたちの面倒を見ていた一人が彼で、クリスにーちゃんと呼ばれ慕われている。
こりゃ、サッカーやドッヂボールを彼に教える日も近いな。