プロローグ 荒れ狂う悪意の中で
新作です。よろしくお願いします。
人は自分勝手だ。
どれだけいい言葉を口にしたって、本当は自分の事しか考えていない。
そうでない人もたまにはいるけれど、そんなの一握りだ。
悪い人ばっかり。皆、自分勝手で人の不幸を平気で笑う。
嫌い、嫌い、大っ嫌い。
皆、大っ嫌い!!!
「だから、消えて……っ」
『エレナ中尉、状況はどうだ?!』
「残り二匹!!」
敵ゴーレムの胸に、専用六連発から放たれた弾丸が大穴を開け、後ろにいた他の敵ゴーレムの脚部を大きく破損させた。
前方のゴーレムが前のめりに倒れていく。もう、動くことはない。
もう一発撃って、膝から崩れた残りの一匹の胸部に風穴を開ける。
「こちらバード1、敵殲滅完了。これより応援に向かいます」
『頼む』
「敵の残数は?」
「八」
残りは……ここへ向かってきている……殺意と醜い欲望にまみれている。
「残り五発……ですか」
走って、走って、仲間たちが守っている基地へ戻る。弾丸を込め直して、見えてきた敵を片っ端から撃ち抜いていく。
「エレナ中尉、交戦状態へ移行」
「間に合ったか。残りは六匹……どうだ?」
「まだ諦めてないみたい……狙撃手がいる。エレナの後ろ五百ミディア」
「残り四匹!」
『エレナ中尉、後ろだッ!!』
直後、衝撃と共に、エレナの意識は途切れた。
「エレナ、ダウン!」
「生死は?!」
「わからない」
エレナ……ちょっと意地っ張りだけれど、誰よりも寂しがり屋で、世話焼きで、好きな人のために頑張れる子。
「っ、マリスはエレナを回収して後方へ!」
『中佐、タイガー1は新型を使うぜ!』
「わかった。近い者はクリス大尉を援護しろ!」
あぁ、皆の殺意が膨れていく。
皆、生き残るために必死で、仲間を護るために自分を殺してる。
だというのに、奴らは……。
気持ち悪い。
そんなに殺しがしたいなら、猟師をして熊や魔物を倒しなさいよ。そうすれば皆から喜ばれる。
そんなにお金が欲しいなら、他にもっと稼げるところがあるでしょ。
そんなに女の人が恋しいなら、とっとと故郷に戻って良い人探しなさいよ。
そんなに、そんなに……そんな奴らばっかり。
嫌い、本当にこんなやつらばっかり。
もう、私たちの居場所へ、来ないでよっ!!!
それでも来るって言うなら、狂っているなら……!
全部読んで作戦なんかぐちゃぐちゃにして無意味に絶望させながら殺してあげるから、とっとと消えて――――
《え、何これ?!》
「ぇ?」
唐突に響き渡る疑問の声に、猛り狂いそうだった心が少しだけ静まった。
すぐさま専用のモニターを使って、近くのゴーレムの視覚へアクセスする。
丁度、エレナが乗るゴーレムの目が、その姿を捉えていた。
黒髪の、見たこともない顔立ちと服の青年が、驚いた顔でエレナのゴーレムを見上げていた。
《ろ、ロボ? え、これ巨大ロボぉ?!》
驚きと、少しの不安と小さな正義感、そして本人も気づかない勇気を持って、青年はゴーレムへと駆け寄って行った。
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