第1話
今は息抜きで書いていますが、存外気に入っている設定が多いので、テスト終わりからまた書き始めます。
私は依然として車の中にいる。
先ほどとは違い、車外の光景の情報が目に入ってくる。
森である。目の前には、木々が生い茂っているのだ。しかも、かなりの幹の太さで、高さもすごい。
後ろはあたり一面草原で、ほぼ真っ平らである。車を走らせることは可能だが、荒れてるところもありそうで走らせたくはない。
と、後ろから再び前を向こうとしたところで、非常に頭がズキズキと痛み出した。吐き気も少し感じている。
その間、私は莫大な情報に酔っていた。多分数秒ほどだったのだろうが、私にはものすごく長い時間に感じた。
魔法の知識。それを手に入れたのだ。その事実に喜び、自分の顔が綻ぶのがわかる。
そして、私が手に入れた魔法の知識は、魔法の原理や法則ではなく、この世界に存在する魔法の具体的な種類とその使用方法、発動に必要な少しの知識だけだった。
むしろ、それでいいと私は思った。全てを最初から掴んでしまったら、それこそつまらないからだ。
とことん追求してやろう。そして、いつかは科学の知識と合わせて...
いや待てよ。この世界の魔法と私のいた世界の科学、その法則を掴み取り、これを組み合わせたら凄いことができるんじゃないか?
俄然やる気が湧いて来た。とにかく、何か便利な魔法をいくつか膨大な情報から抜き出すとしよう。
私が得た魔法の知識、その9割は何かに対する攻撃が目的のものだった。そして、残りの1割が生活に便利な魔法や、守ることに特化したものだ。
この世界は戦争などの戦いが未だ絶えないのだろう、と私は推測している。
とりあえず、大まかに分類すると、
・攻撃魔法
炎系統魔法
水系統魔法
土系統魔法
風系統魔法
電気系統魔法
・防御魔法
・生活魔法
こんなものだろうか。
意外とありきたりだと思っていた、回復系統と精神干渉系統の魔法が無いのはどうしてなのだろうか、疑問は残るが、それも後々解明してやろう。
とりあえず、一番危惧していた、人や動物に襲われるという事態に備えるために、私が知る防御魔法の中で一番と思われる、不壊化をまず私の愛車となるウラカンに施すとしよう。
私は魔法を使うために、危険は周りに感じられなかったので、周りを警戒しつつ車の外に出た。
得た知識によると、魔法に詠唱は必要なさそうだ。イメージの強さが大事らしい。
壊れないということは、一つ一つの原子同士の相対位置を強固にする、つまり相対座標を固定させることにより相互の繋がりを強化するイメージと考えて相違ないだろう。
ここでふと考えた。魔法って私でも使えるのだろうか、と。
魔法といえば基本創作物の中で度々、個人の才能に左右されるものとされていることが多い。
ここで発動しないとなると、非常に危険な状態となってしまう。いつか行き来できるようにしようと考えている元の世界にも、今すぐに帰ることができないのだから。
...だが、できるかできないか、悩んでいても仕方ないか。とりあえずやってみる。できなかったらその時だ。
私は覚悟を決めて強く念じてみる。先ほど浮かべたイメージ通りの現象が具現化するように。
不壊化はしっかり発動した、と思われる。淡い光に私のウラカンが包まれる。その光は非常に幻想的で、ウラカンの白い輝きを一層増しているようだった。
成功したことにホッとして思わず膝をつきそうになった。そして喜びで思わず叫びそうになったが、それはいらぬ危険を呼ぶかもしれないので、こらえながらガッツポーズをした。
そしてやはり、この愛車を壊されるのは絶対にごめんだ。これからこの世界でも使って行く足になるのだから。
でも、安心はできないので、とにかくまずはより強固にできないか、研究をしなければならないな。
それから、発動から効果を発揮するまでの時間が最短で、圧倒的な火力を誇ると思われる電気系統の魔法を主流に人以外の脅威から自分を守ることにする。
なぜ人以外かというと、単純に人を殺せるだけの威力を持っている魔法らしいからだ。
しかし、いつかはその時が来るかもしれない。いや、それどころかまず来るだろうとほぼ私は確信している。
この世界がどのような倫理観で成り立っているかはわからない。だが、弱肉強食という言葉は覚えている。いざという時には覚悟を決める時が来るかもしれないと、今一度気を引き締める。
私が選んだその魔法は、ライトニングショットというらしいが、つまるところ、自分の指定した方向に電撃を放つ、つまり空気中に流しこむものだ。
だが私のイメージとしては、空気をプラズマ化して分離した電子を一方向に動かすといったところだ。
1度、森の割と奥にある木の一つを的にして試してみると、ものすごい音とともに電気が木を貫通していった。そして、木は突如として支えられなくなり、重力に抗えず、倒れていった。
危険すぎる。あまり使わないようにしようと私は決意した。
それから、対人用として防御魔法の1つ、物理軽減結界と魔法軽減結界を考えている。
これはある種、守りに徹するということだ。戦うことから逃げると言い換えてもいい。
いざという時にも心の準備がきっといるだろう。その時の時間稼ぎとしても非常に有効だと思い、選んだ魔法だ。
この魔法のイメージについてだが、後者の魔法軽減魔法についてはイメージがわかないので保留だ。なにせ魔法が根本的に何なのかわからないのだから仕方ない。
前者についてはイメージが湧く。対象に対する力のベクトルの大きさを一定量減らす感じだ。なぜ一定量という制約をつけるかというと、その量が増えれば増えるほど、魔法を使用する人の負担が増えるからだ。
高度な魔法ほど、使用する人への負担が大きくなるらしい。理由は不明だが色々な魔法の説明で、こうすると負担が大きいと頭に浮かぶから、そうなのだろう。
あー、早く解明したい。とにかくそういうことを研究してる機関とか探さないと始まらないな。というか、まずは基礎的なことを教えてもらわないことには始まらない。学校とか無いかなー。
...脱線してしまった。話を戻そう。なにせ、一人暮らしをしてからというもの、独り言とか多くなっていかん。
とにかく、今挙げた魔法でどうにかしよう。
さて、これから移動を開始する。ここにずっといても食べ物がない。それは致命的だ。水は魔法でどうにかなるが、食物は無理がある。無論、サバイバルの心得などあるはずもない。
そして不壊化を施した私の車、ウラカンだが、その不壊化も万能では無い。1日という制約が付いているし、何より一定以上の大きさの力を受ければ壊れてしまう。
そういうと名ばかりの魔法と思うかもしれないが、そんなことはない。先程言った一定以上の大きさの力など、まず存在しないと思っていいからだ。
原子同士の相対位置関係を強固にしたのだが、強化前に比べて実に約50倍。到底壊れることはないと思っていいだろう。
こんな風に私が考えているのは、どこかで不安なのだ、凹凸のある場所を走った時に車体に傷がつかないか。何者かの攻撃を受けて壊れたりしないか。
それでも、車は使うしかない。なにしろ、これがないと多分、私は餓死してしまうからだ。
森は論外として、平原はずっと先を見ても平原。つまり、建物が見当たらないのだ。よって徒歩による移動は無理だと思われる。
...覚悟を決めるか。まあなるようになるさ。
そうして覚悟を決めてウラカンに乗り込み、シートベルトを締めてエンジンをかける。
...うん、いい音だ。今日からきつい道のりだが、頼むな。
でも、もしかしたら私は望んでいたのかもしれない。こいつの最高速度を出せるであろうこの環境を。
よし、まずはゆっくり。大丈夫そうなら、スピード出していこうか。
意気込んだはいいけど、最初はとにかくバックさせないとな。このままアクセル踏んだら木にぶつかるし。
そんなこんなで平原を走っているが、結論を言うとこの平原、最高だった。
普通ありえないかもしれないが、時速280を出しても大丈夫だったのだ。この速度を出したのは、レース場以来だ。
そうやって調子に乗っていたが、途中であることに気づいた。
そう、ガソリンを補充できる保証なんてどこにもないと言うことに。
私は気づいてすぐに車を止めた。それからどうすればいいかを考えているのが今だ。現状残っているガソリンの量を表すメーターは、ちょうど半分を指している。
本当にきつい。と言うかそもそも何故いきなり知らないところに放り出されて、生きるか死ぬかと言うレベルの困難に直面しなくてはならないのか。
...弱音を言っても始まらない、か。
とにかく、ガソリンについては、今のところ魔法でどうにかなるかわからない。だが、可能性はあるので、とりあえず実験だな。
...まったく、私は理論派で、あまり実験はしないんだがな。
私が注目したのは、魔法がイメージによって発動することができる点だ。
通常ありえない物理現象を引き起こす魔法。だが、理に適ってもいる。
私の推論としては、通常存在する物理法則の1つを未知のエネルギー(ここではとりあえず魔法エネルギーと呼称する)を利用して捻じ曲げることで、魔法という現象を可能としている。
つまり、魔法発動に対するイメージが大事なら、物理法則をしっかりと分かっていれば私の知識にはない魔法も創造できるのではないか、と私は考えているのだ。
あくまで憶測の域を出ない。だが、そうやって私は今までも論文を何度も提出してきた。とにかく試してみる、それが私の信念だ。
まず、魔法の種類などは一切考えず、空気中に擬似的なコンデンサーを作る。
作り方は簡単だ。先程のように空気中をプラズマ化し、生じた陽子と電子を分け、二枚の平面を平行に作る。これだけだ。
しかし、これは重要な意味を持つ。これができるということは、誰でもイメージさえ沸けば蓄電池を作れるからだ。
結果は...成功だ。だがそうなると、教えてもらった魔法の知識は、多分意味がないものとなってしまう。
魔法についてほとんど何もわからないこの状況では推測の域を出ないが、きっと何かしらのイメージを魔法の名前と現象を結びつける形で得ているのではないだろうか。
つまり、科学技術があまり発展せず、魔法にばかり頼ってきたために、物理法則に則った正確なイメージは難しい。よってその代わりに未知の現象を未知のまま発生させるために魔法の現象に大まかな名前をつけている、ということだ。
それもこれも、この世界の住人に会わなくてはわかりようがない。私はこれ以上考えることを一旦放棄した。
推論通りイメージ次第で魔法が使えるのなら、ガソリンだって増やせる...か?
私はガソリンの化学式はわからないし、ガソリンを作るための方法は知っていても、その原材料すら持っていない。
いや、先程推測をした事実が正しければいけるはずだ。
ある空間内にある物質をまるごと複製することができれば、現状のピンチを切り抜けられる。
ガソリンを複製する。コピー印刷するのと同じイメージで...
その瞬間、頭がものすごく痛くなった。息も荒くなる。
意識が朦朧として、思わず膝をついた。だが、それも数秒の後におさまった。
なんだ、今の感覚。まるで心臓麻痺や脳震盪を起こしたような感覚だ。
だが、今はほとんど何ともないので、とりあえず今の現象は覚えておいて、何故そうなってしまうのかは後で考えよう。
兎にも角にも、ガソリン問題は解決したのだろうか。そして燃料計を見ると、驚くことにメーターはほぼ満タンだと指している。つまりがガソリンが増えていたのだ。
これはやばい。というかすごすぎる、万能すぎるぞ、魔法。
しかし、あまり多用もできない。あんなきつい思いはしたくないからだ。やはり石油を掘れるようになるのが一番だろう。
私は未知だらけの法則が満ちたこの世界に来たばかり、前途多難は当たり前。それでも、この平原をひた走る。意思疎通のできる人の住む場所へ。
ただ、その先も困難は多く待ち受けていた。それこそ、誰もが予想できる中で最悪の困難が。