プロローグ
飽き性だけど、また性懲りも無く書き始めました。どうかよろしくお願いします。
突然だが、1つ考えて見てほしいことがある。
昨今の創作物によく出ている魔法や超能力と言った従来の物理法則を無視した力は、度々科学よりも美化されて見えることだろう。
しかし、実際のところはどうなのか。気になるところではある。
それは、発展し続ける科学が魔法を凌駕するとまで言われているからだ。
それだけではない、もしも、両方のアドバンテージを巧みに組み合わせてみたならば、どのようなものが生まれるのか。そう言った疑問も生まれた。
それなら、いっそのこと試してやろう、そう私は考えた。
そんな考えを巡らせたのは、あんなことが起きたからこそだが。
ある日の午後。私は自分の研究室で、宇宙の加速膨張に影響を及ぼしている可能性のあるエネルギーについての論文作成に勤しんでいた。
「教授、やはり現状知られているエネルギーでは説明がつかないですし、ダークエネルギーは未だ解明されていない未知の領域。他の人がこの論文のテーマを見たら、きっと小馬鹿にされてしまいますよ。」
私の研究室に所属する大学院生の一人が実に的を射たことを言う。
「たしかにそうだな。だが、私はやりたいことをやる。歳が35になるまではそうすると決めているんだ。それを過ぎる時に成功していなければ、潔くできることだけをするさ。」
そう、私にも信念がある。もう歳も33になるが、まだ諦めていない。
それに、ダークマターやダークエネルギーといった未知だらけのブラックボックスの中身を照らし出すことは難しい。なにせ、憶測の域を出ないのだ。どんなに考えて論理的に間違っていない解答を用意したとしても、それを実際に観測できなければ意味がない。
宇宙物理学、場の量子論、素粒子物理学と様々な分野の研究をして来たが、実験できないことをどんなに明確に、論理的に理論を組み立てていこうとあくまで推論、憶測と言われてしまうのだから仕方がない。
まあそれでも私を評価してくれた人が大勢いたからこそ、私は今の歳で大学の教授という立場で飯を食える。
「そういえば教授、今日は夕方から誰かと会う約束をしていませんでしたか。」
「おお、よく覚えていたな。そうだった、あまりに没頭していて忘れるところだった。ありがとう。」
夕方6時からあいつらと会う約束だったのをすっかり忘れていた。たしか会うのは1年半ぶりだ。色々と業績が耳に入ることはあるが、本人の口から聞く方がよっぽどいいというものだ。楽しみだな。
俺は研究室の鍵を机に置いて学生達に、最後にここを出て行くときはいつも通り鍵を閉めて置くようにと言いつけた。
目的地までは自らの車を利用する。なにしろ私は大学教授の中でも多分相当な車好きであるから、長年の友人にこの新しく買ったこのランボルギーニのウラカンを見せびらかしたくて仕方ないのだ。
なにしろ貯めに貯めまくった今までの財産の殆どを費やしてようやく手に入れたのだから。見せびらかさなくては割に合わない。
そうして、俺は待ち合わせ場所に向かう。
それにしても日本は道が狭いし、他の車も多い。それに速度制限が厳しくなってしまうのはやはり仕方がないことだが、こんなところで腐らせるの勿体ないと感じるところはある。
だが、だからといって他の国に行く気はあまりない。気にくわないところはあれども、やはり母国は居心地がいいからだ。
そんな風に頭で少し考えていながら車を走らせていた。そして運命の瞬間が訪れる。それは、赤信号で車を停止させている時に起きた。
私はある交差点にて、赤信号で車を停止させていたとき、思い出したことがあって助手席に置いてあったカバンからスマホを取り出そうとしていた。
そう、少しのよそ見。まさかこの一瞬にこんなことが起こるとは思いもしなかった。
スマホを取り出してフロントガラス越しに前を見た瞬間、信じられない光景が目に入ってきた。
真っ暗なのだ。何も見えない、というわけではなく、カーナビや速度計などの車内の光は目に入ってくる。しかし、車外からは一切の情報を得られなかったのだ。
一瞬、私は訳が分からなくなったが、自然とパニックに陥ることはなかった。むしろ、それは悪手だと考える自分がいたことに少し驚いたくらいだ。
そして、数秒ののち、33年間の人生で一番の衝撃的なことが起きた。
「...ますか、聞こえますか?」
そう、それは外から、耳から聞こえるのではなく、頭に直接語りかけるような声だった。そんな気色の悪い感覚だった。
「...え?な、なんですか?」
声が震えてしまうの仕方ない、と今でも思う。体験したことのない未知に直に触れるとき、通常人は恐怖という感情を抱くものだ。
「あなたは、通常起こり得ない2つの世界をつないでしまった現象に巻き込まれてしまっています。」
何を言っているのかわからなかった。いや、意味はわかっていても、それを飲み込めずにいたのだと思う。
「2つの世界?何を言っているのかわからないし、そもそもあなたは誰なのですか。」
「私は、概念体。あなたたちが神と呼ぶ存在に近しいですが、少し異なります。それよりも、今は一刻の猶予もありません。とりあえず、話を飲み込んで、私の問うことに対し答えてください。」
「一刻の猶予もないとはどういう...」
ことだ!と言おうとして、そんな不毛なことをしても意味がないと思い、とりあえず次の言葉を聞くことにした。
「話を続けますね。あなたはこれから全く違う世界へと向かうことになります。そこでは、魔術体系の発展途上にある世界です。私はその国における最上位存在、スカサハ。あなたに問います。向こうでは弱肉強食の世界、このままではあなたはすぐに弱者として淘汰される。だから、このような不測の事態に対する緊急措置として、私の力を使います。望む能力を1つだけ、ほぼ無条件で与えましょう。何にしますか。」
「いきなりそんなことを言われても...」
私は非常に困惑していた。多分これからの一生を左右するだろうことをすぐに決めなくてはならないのだから。
だが、1つの単語を聞き逃すことはなかった。
魔法、胸躍る言葉だった。
圧倒的、未知。私の心を占める感情の9割は困惑だったが、やはり1割の期待と好奇心が捨てられなかった。そして、その1割しかない感情はどんどん膨れて行く。
「早く結論を...」
「決めましたよ。とにかく魔法の知識をありったけください。」
時期尚早、そんな言葉が今では頭によぎる。
私には使えなかったら?魔法が大したことなかったら?
でも、そんなことをこの時の私はそんなことどうでもよかった。
この時すでに、私の心は魔法への期待、好奇心で埋め尽くされていたのだから。
「...わかりました。では、少しだけ脳に負担がかかり、船酔いのような状態になりますが、すぐ治りますので安心してください。」
これからどうなるかはわからない。
「では...」
でも、それは今までの人生も同じだったじゃないか。
「ご武運を。」
これからだって、それは変わらない。
...こうして、私は世界から消滅したのだった。