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第5話 黒の悪魔


 やっと全員のパーティ分けが終わった。

 こればかりは今後の生死に関わってくるので慎重に行わなければいけないが正直な話、想像以上にすんなりと決まって良かった。

 仲間にならないと能力を告白出来ない以上、あそこで時間をかけることに対して意味は感じられないからだ。

 ミカエルがノウトの肩に手を置いた。そして、もう片方の手を自らの顎に触れさせる。


「ん、どうした?」


「いや、なんだか……」ミカエルは目を細めた。「その肩に……一縷の安心感を覚えるんだ」


「なんだよ、それ」ノウトは冗談だと思って笑い飛ばすが、ミカエルの顔は至って真面目だ。


「うん、でも。なんでかは、分からない。ゴメン、何でもないよ」


 ミカエルはノウトの肩から手を離して、それから背中を向けた。


「じゃあ、僕らはここで。健闘を祈るよ」


 ミカエル達が手を振って去っていく。カンナは飛び跳ねながら手を振っていて、スクードは相当手を焼きそうだと思ってしまった。

 四人パーティの宿命を押し付けてしまったのは心許ないが仕方がなかった。それにあの四人だったら何だかんだやっていけそうなそんな気がした。


「私たちも街を散策して情報収集に行ってきますね。出遅れたその分を取り返さないと」


 パトリツィアは記憶が無くなる前の姿が容易に想像できる。是非記憶を取り戻して欲しい。

 しかし、もう魔皇の首を奪い合うライバル同士であるのは確定してしまった。

 そもそもの話、その魔皇を倒せるかも確定していない訳だが。


「さて、これからどうしようか」


「準備って言っても何を準備すればいいのかが分からないしな」


「とりあえず城下町見てみようよ。魔皇がどんな人かもわかるかも知れないし」


「そうね」


 シャルロットが同意したあとどこからか、ぐー、と腹の鳴る音がした。

 パーティの面々を見るとシャルロットだけが顔を俯けていた。もともと背の低いシャルロットが顔を俯けるともうだれもその顔色を伺うことは出来ない。


「まずどこかでお昼にしましょうか」


 フウカが提案する。


「そうだな」


 ノウトがそれに頷くがシャルロットは店に着くまで顔を上げることは無かった。




      ◇◇◇




 何処が何の店かも分からなかったので適当にそれっぽい店を探して入った。


 みんなそれぞれ〈エムブレム〉を店主に見せると店主は急に笑顔になり、そそくさと注文を促してきた。

 手探りでそれっぽいのを皆で注文する。

 そして、ノウト達が食べ始めたその時だった。


『戻ったぞ』


「ぶっ」


 ノウトにしか見えない白い少女、ヴェロアが突然目と鼻の先に現れたのだ。

 何しろ急に現れたものだったし文字通り目と鼻の先に触れるほどの近さだったから驚きのあまりパスタを吹き出してしまった。

 やばい、鼻に入ったかも。


「だ、大丈夫? ほら水」


 リアが心配をしてきた。


「ごほっ……。大丈夫大丈夫、急にむせちゃって」


「お腹減ってるからって急いで食べるからよ」


 シャルロットに言われたくはないと思ったが声には出さないでおいた。


『大丈夫か、盛大にぶちまけたが……。遅れてすまない。野暮用があってな』


(平気だよ。野暮用って?)


 食事をしながら頭で会話するという高等テクニックを成しているが、頭で会話出来ているのがどんな原理なのかは全く分からない。

 ヴェロアは魔力やらなんやらと言っていたけど。


『配下達にお前のことや各々の説明をしていてな』


(配下……って。今更聞くけどヴェロアは何者なんだ?)


『心して聞けよ。私は魔帝国第16代目皇帝ゼノヴェロア・マギカ=ジーガナウトだ』


「ごっほ! ごほっ……!」


 余りに突拍子もない発言に、どんな答えをされても大丈夫なようにも身構えていた壁がぶち壊された。

 頭がおかしくなりそうだ。

 倒そうとしている目標が今、目の前にいるのか。

 正直ここ最近の出来事で一番驚いたかもしれない。


「大丈夫ですか、ノウト。呼吸器官に何か問題があるのでは……?」


 仲間たち全員の視線がノウトに収束した。

 今度はフウカがノウトに心配の声をかける。


「大丈夫大丈夫。慣れない場所での食事でちょっとね……」


「なら、いいですけど……」


『驚くなと言っただろう』


(それを言われて驚かない方が無理があるだろ! ……えっと、じゃあヴェロアは魔皇ってこと?)


『そうだぞ。ふふん』


 ヴェロアは皆には見えていないため今はノウトと反対の席に座っているレンの頭の上に乗っかってふんぞり返ってる。

 その様子が滑稽過ぎて笑ってしまいそうになったが、さすがにそれは堪えた。


(魔皇って言われたら頭の角とかでそう見えなくもないけど、もっとこう、いかついのを想像してたな)


『私だって好きでこの姿をしているんじゃないぞ。魔力を節約するためにこの姿になっているだけだ』


(なるほど。……それで魔皇様は俺にどんな用が?)


『……結論から言えばお前は魔皇、つまり私を殺す必要は無い』


(うすうす勘づいてはいたけど……やっぱりそうなのか)



『ああ。お前の目標は()()()()()だ』



「ノウト、食べ終わった? もう行こう。散策の時間だよ」


 ノウトが一点を見つめ固まっているとレンがこちらを不思議そうに見ていた。

 はっ、と我に返り笑顔で応える。


「あ、ああ、行こうか」


 最後尾になって店から出る。

 頭を冷やさないと。落ち着け。

 勇者の全滅。つまり、こいつら、レンもシャルロットもフウカもリアも殺さないといけないということか。


『そういうことにはなるな。どうした、情が移ったか。〈黒の悪魔〉と(うた)われていたのが嘘みたいだな』


(なんだよその恥ずかしい異名は)


「取り敢えず宿屋を探して、そこから二手に別れて見てまわろうと思うんだけど」


「そうね。それがいいかも」


 今はヴェロアのことは少しの間忘れよう。情報収集に徹しなくては。少し歩いた所でリアが話を切り出した。


「そう言えば、シャルロットちゃんがわたしたちと組みたいって言った時あったよね? あの時何を言おうとしてたの?」


 そう言えばそうだった。

 軽く頭から抜けかけていたがシャルロットがリアや俺と組みたいと言っていた時何か意味深なことを言っていたような気がする。


「あぁ、それはね」


 シャルロットが少し得意そうな顔をして話し始める。


「リアとノウトは自己紹介をする時にファミリーネームを言ってなかったのよ。つまり、ファーストネームだけを言っていたわけ。もちろん、そのあと言っていなかった人も居たけど」


「それにどんな意味があるって言うんですか?」


 フウカが当然の疑問を投げかけた。俺の場合はファミリーネームが〈エムブレム〉に書いてなかったからなんだけど。


「わたしが説明しよう。ふふーん」


 何やらリアが説明してくれるようだ。


「自己紹介の時、自分がなんの勇者かを言っちゃってた人のことを思い出して欲しいんだけど」


「それは〈光〉のジークヴァルトと〈雷〉のカンナ、それに〈氷〉のニコ、だろ?」


「うん。それがね。それぞれ名前にその能力に関する情報が含まれてるって気付いたの、私。ジークだったらなんかミドルネームに光を表す確かどこぞかの言語の『ブライト』が入っていたり、カンナちゃんも同様に、って感じかな。ニコちゃんに関しては例外だと思うけど」


「実はね、私の名前にもそれに関係することがあったの」


 シャルがそれに同意する。全然気付いていなかったがそんな仕組みがあったなんて。それに気付くなんてリアとシャルロットは相当頭が回るな、と素直に尊敬する俺がいた。


「もちろん、この法則が当てはまらなかったり、名前から能力が推測出来ない人もいるけど。……フウカちゃん、もしかしてあなたって〈風〉の勇者なんじゃない?」


「うぐっ。そういうことですか。名前からバレてしまうとは思いませんでした」


「……まさか、本当に当たっちゃうとは」


 リアは逆に予想が的中したことに心底驚いていた。


「これを使えば名前からその人の能力が判別出来るってわけね」


「凄いね、シャルロット。俺は全く気付かなかったな」


「まぁね。私は賢いから」


 レンが褒めるとシャルロットは口では達者なことを言っていたが、赤面はしていた。


「ちなみにノウトくんも気付いてたんだよね」


「あ、あぁ気付いてたよ」


「ぷっ。……嘘だ」


 リアが思わず吹き出した。


「ち、ちがっ」


「じー……」


 リアが目を細めて顔を近づけてくる。

 近い近い。鼻と鼻がくっつきそうになった所で俺は諦めた。


「……嘘だよ」


「あははは。嘘つくのが下手だねー。ふふ面白い」


「どこかだ」


「顔がさー。もちろん顔立ちじゃなくてリアクションっていうのかなー。いやぁ面白いや」


「こっの……」


 会話をしているうちにとある宿屋に着いた。素朴な感じはするが外装はなかなかいい感じだ。浴場もあるらしい。


「ここにしない? 露天風呂があるっぽいし」


「そうですね」


 シャルロットが提案してフウカが肯定する。


「さて、二手に別れて見てまわろうと思うんだけど」


「じゃあわたし、ノウトくんと行こうかな」


「またそれか」


「じゃあこっちは俺とフウカとシャルで行こうか」


「了解です」


「勝手に略さないでくれる?」


「いいじゃん。可愛くて」


「かわ……っ! まぁ、……別にいいけど」


 レンがシャルロットをシャルと呼んだのがなんか気に入った。いいなそれ。確かに可愛い。


「それじゃ日が沈んだ頃にここに集合、ということで」


「了解。じゃあまたな、ノウト」


 そう言ってレンはいつも通り爽やかな笑顔でその場を去っていった。フウカはそれを追って、シャルロットはしぶしぶついて行った。


「じゃあわたしたちも行こうか」


「おう」


 リアと強引に組まされることになったが、まぁいいだろう。ヴェロアが空中を泳ぐが如く浮遊している。


『そもそも今回の計画を提案したのはお前なんだぞ』


(それはつまり、記憶が無くなる前の俺……?)


『そういうことだ』


 ヴェロアはにへら、と笑う。屈託のない笑顔だった。


「わたし、服が欲しいんだよね〜。見ての通りボロボロで変な服来てるしさ。あと髪切りたくって」


「確かに、それじゃ流石に不味いよな。まず服屋に行くか」


「やった。……わぁ見てみて、ノウトくん。でっかい蟹!」


 リアが露店をきょろきょろと見回して無邪気にはしゃぐ。


「服屋ってどこにありますか?」


 それを横目に焼き鳥の露店をやっている店主に質問をする。


「服屋か。それならすぐそこの角を曲がってってゆゆゆ勇者様!?」


 露店の店主はその顔をあげた途端妙な声を発した。〈エムブレム〉で気付かれたのか。それにしてもこんなに驚かれるなんて思ってもなかったな。


「どうしてそんな驚いてるんです?」


「い、いやぁつい5分程前にあなたとは別の勇者様がここに訪れて急に現れたかと思いきや、突然その姿を消してですね。いやぁびっくらこきましたよ。あれが勇者様が授かった御加護って奴なんですかねぇ」


「なるほど。そいつ、一人で行動してました?」


「そうですよ。うちの屋台の焼き鳥を三本持っていって消えたんでさぁ。あなた様もどうです? サービスしますよ!」


 どこか引っかかった。

 それぞれがパーティを組んだ今一人で行動する奴が果たしているのか?


「一つ疑問に思ったんですが、無料で俺らに食べ物渡して何かメリットがあるんですか?」


「そりゃあ、聖女神アド様に選ばれた勇者様にうちの焼き鳥を食って貰えるなんてそんな機会何十回とこの人生を繰り返しても叶えられるもんじゃありませんよ。もしかしたら私も御加護を授けられるかも知れませんしね。がはははっ」


 合点がいった。勇者は民からするとめちゃくちゃ珍しく滅多にお目にかかれない厳粛な存在、みたいな感じだろうか。


「じゃあ焼き鳥二つ頂きます」


「はいよ。それじゃ勇者様、ご武運を。あと服屋ならそこの角を曲がった所に、呉服店はその隣にありますよ」


「色々ありがとうございます」


 焼き鳥を受け取ってお礼をする。


 ……本当に勇者達を殺してもいいんだろうか。

 今まで見たところフョードルはともかく悪い奴はいなかったし、国民にも支持されているようだった。


『いいか、ノウト。私が死ねばきみも死んでしまうんだ』


(なんだって……?)


『ノウト、きみに掛かってるんだ。みんなの未来は』


(──何の話だ……?)


『そのうち分かるよ。すまない、また時間が来たようだ。それじゃあ、またな』


 彼女が文字通り姿を消す。


 だめだ。考えが上手く纏まらない。

 何かを思い出そうとしてもそれは指々をすり抜ける砂塵のように消えていく。

 ああ、くそ。記憶を思い出そうとしても思い出せない。頭痛がひどくなる。なにも。何も思い出せない。


「怖い顔してどしたの?」


 リアに話し掛けられて我に返るとともにリアの顔の余りの近さに少し驚いてしまった。


「い、いやなんでもないよ」


「そう。はいこれ、アイス貰ってきたよ、ってあれ」


「……マジか」


 ノウトとリアはそれぞれ片手に焼き鳥、もう片方の手にアイスクリームという胃もたれがしそうな組み合わせにしばし頭を悩ませるのだった。



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