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第41話 神社と炭酸抜けサイダー



 ノウトたちは交代で仮眠を取った。犯人がこの中にいると思うと休む気にもなれないのが正直なところだったが、少しは眠らないと疲れは取れない。疲労で倒れでもしたら迷惑をかけてしまう。それだけはだめだ。

 犯人は休憩中、誰も襲ってこなかった。ダーシュは常に身構えていたが、しばらくして疲れて横になった。


「ノウトくん」


「ん?」


「大丈夫?」


「あぁ、……うん、大丈夫」


「ほんと?」


「まぁ、どちらかと言えば、大丈夫ではないかな」


「……いつでも、わたしに寄っかかっていいからね」


「なんだよ、その励まし方」ノウトはそっと笑った。


 ノウトはリアと共にロビーにいた。肩を並べてソファに座っている。

 リアはノウトを気遣ってか、レンたちの名前を出さなかった。レンたちの名前を頭の中で想起させるだけで、倒れてしまいそうになる。本当に犯人がこの場にいるのか、その全てが定かではない。何もかもが分からない。


「何か、食べたか?」


「ううん。こんな時間に食べたら太っちゃいそうだし」


「そんなの、気にしなくても別にいいだろ」


「どうして?」


「だってリアは……──」


 そこまで言って、ノウトは顔の半分を手で覆い隠した。


「わたしは?」


「ひもじい様子を、俺が見たくないからさ」


「まぁ、確かにね。食べ物があるだけ幸せなのかも」


「そうだな」


「飛竜に襲われた街の復興は、明日で完成かな」


「よくやったよ。俺なんか殆ど手伝ってなかったし」


「ノウトくんは、ほら、巨竜を倒したじゃん」


「まぁ、ね」


 ノウトは不意に、パトリツィアやマシロ、レンの顔を思い出していた。彼らの救けがなければあの巨大な竜も倒せていなかった。マシロにはあの時のお礼もしたかったのに。ああ……。


「どうして──」


 ノウトは呟いた。


「どうして、こうなったんだろうな……」


 言って、すぐに後悔した。暗い気持ちになる話題を選んでしまったからだ。


「……ごめん、リアに言っても仕方ないよな」


「仕方ないことなんてないよ。ノウトくんの中で何かが解消されるまで、わたしに何でもぶつけていいよ」


「リアは、なんでそんな……」


「そんな?」


「俺に……献身的なんだ?」


 言ってから、少しだけ恥ずかしくなった。少なくともノウトが言うことではないだろう。


「……なんで、だろうね」


 リアは遠くを見るように目を細めた。


「…いろいろと、救けてもらったから、……かな」


「むしろ、俺の方が救けられてばっかりだと思うけど」


「ううん、こっちの話」


 リアは腰を上げて、立ち上がった。


「それじゃ、フウカちゃんたちの様子見に行ってくるから」


「分かった」


「おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


 ノウトは手を振って、リアを見送った。ノウトは熟考していた。これからどうするべきか。どう振る舞うべきか。

 ノウトの本来の目的は、魔皇を殺さないように勇者全員を説得することだった。しかし、今ではすっかり犯人を探すことに目的がすり替わってしまっている。もしかして、犯人はこれが狙いだったりするのか。

 じわじわと、犯人がいることの恐ろしさが身に染みてきた。

 勇者の中の誰かが敵で、誰かが嘘をついている。ほんの些細な言葉でも、一度は疑ってかからねばならないのだ。逆に不用意な言葉を吐けば、ノウトが疑われる可能性もある。注意しなければならない。騙されないように、疑われないように。そして、真実を見失わないように。


「ノウト君」


 とどこからか声がした。ノウトがその声のする方を見ると、そこにはフェイがいた。


「何か、考え事かい?」


「ああ……ちょっとな」


 ノウトが言うと、フェイはニコッと笑った。


「ちょっと来て欲しいんだけど、いいかな?」とフェイが言った。


 ノウトは一瞬考えたが、すぐに頷いた。ここで断る理由もないからだ。フェイは宿を出て、すぐの波止場まで歩いていた。ノウトもまた、その背中を追いかけていた。


「いい夜だ」フェイは呟いた。「夜風が気持ちいいね」


 ノウトは訝しげにフェイを見た。


「何かあってきたんじゃないのか?」


「ちょっとした散歩さ。議論のあとのいい気休めになると思ってね」


 砂浜をノウトとフェイは歩いた。確かに、夜風が気持ちよかった。涼しくて、潮の香りもまた一塩だ。


「ノウト君」


 フェイがノウトを見た。




「君が魔皇の協力者なんだろ?」




 ───……え?

 ノウトは、…………ノウトは、すぐにはフェイの言ったことが理解できなかった。あまりにも唐突だったから、頭の理解が追いつかなかった。


「そして、魔皇の協力者である君が犯人じゃない。では、誰が犯人なのか……、そこが今回の事件のミソだ」


「お、前……何言って……」


「ノウト君、実はね」フェイはふふっ、と笑った。「おれは犯人を知ってるんだ」


 足元が揺らめく気がした。立っているのがやっとだった。


「教えて欲しいかい?」


「ちょっ、ちょっと待て」


 ノウトはフェイから少し距離を置いて、口を開いた。


「フェイ、……お前、変だぞ。言ってることの何もかもが全部……めちゃくちゃだ」


「ははっ。そうだね。ノウトくんからしたら何もかも意味不明だろう。でも、おれからしたら全てが運命にしか過ぎないんだよ」


「運、…命?」


「そうさ。魔皇の計略も竜姫の策略も不死王の策謀も全部、運命なんだ」


 ノウトは、頭を抑えた。目の前の、フェイという男は何を言っているんだ。そして、何をしようというんだ。


「ノウト君、俺を殺せたら今回の犯人を教えるよ」


「殺せたらって……」


「ははっ。いきなり言われても、困っちゃうよね。ノウト君は優しく慈愛に満ちた勇者だ。君に人殺しを要求するなんてこと、何か更なる動機がないと不可能だ」


 フェイはそう言って、片足をついた。そして、両腕を砂浜に突っ込んだ。ずぶずぶと、両腕が砂浜に呑み込まれていく。


「これ、見たことあるだろう? そう、レン君の影を操る能力さ」


 フェイの腕は肘まで砂浜に呑み込まれた。そこでフェイは一瞬だけ動きを止めて、呑み込まれた腕をまたゆっくりと引っ張り上げた。

 上げられたフェイの手にはさっきまではここになかった、何かが鷲掴みにされていた。

 暗くてよく見えない。分からない。

 手提げの鞄か何かだろうか。ひとつではなく、三つある。複数だ。


「これは、君のひとつの思い出だ。いや、思い出というと美化されすぎだね。トラウマと言った方が正しいかな」


 そう言って、フェイは手提げ鞄をこちらに投げた。


「さあ、これは、おれから君へのプレゼントだ。なんてね」


 それらはノウトの足元に落ちて、転がった。

 三つだった。

 いや、違う。三人だった。

 ノウトは、ああ、だか、わあ、とか何か声を発した。言葉にはならなかった。全身が総毛立つ思いがした。

 髪が長い。髪が。そう。鞄じゃない。これは、鞄なんかじゃ。違う。男と、女のものがある。そう。頭。これは生首だ。頭髪の色はそれぞれ異なっている。三者三様だ。なんだ、これは。認めたくない。いやだ。いやだ。これはきっと、現実じゃない。夢だ。悪い夢だ。だって、そうじゃなかったら、こんなこと、あっていいはずがない。ありえない。あってはならない。

 名前を呼びたくはなかった。

 呼んだら本当になってしまいそうな気がする。

 だめだ。全てが納得出来ない。おかしい。こんなの。こんなの。


「さて、おれを殺す気は起きたかい?」


 フェイが何かを言っている。ノウトは立っているのもやっとだった。どうして、なんでこんなことに。

 ノウトはふらついた。その時、何かにつまずきそうになった。

 それはリアの頭だった。

 テオの頭もあった。それに、カンナの頭もあった。


「リ、ア……」


 名前を呼んでしまった。

 返事はなかった。彼らは目をつむったり、片目だけを開けたりしている。どうしてだろう。すべてが納得できない。

 リアは、……リアは不死身だ。なのにどうして再生しないんだ……?

 テオも、カンナも。どうして殺されたんだ?

 目の前の狂気に満ちたフェイという男は、何を考えているんだ……?


「さぁ、ノウト君。戦おう。全ての勇者の神技(スキル)を使える〈運命〉の勇者であるこのおれと、〈終焉〉の勇者である君とで、共に世界を(いろど)ろう」



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