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第3話 噴水端会議




 城から出てすぐの噴水のある広場に勇者と呼ばれる者達、19人が集まっていた。

 見回すと既に一組がいなくなっているのが分かった。城に着く前、ノウトに大きな声で話していた赤髪の男がいないのを見て、おそらく彼はすでにパーティが決まって街に繰り出したのだろう。さすがに早すぎると思う。声もかけずに勝手にどっか行って協調性の欠片も感じられないし。


 フョードルが皆の中心に立っている。

 もしかしたら、お互いが敵同士になるかもしれない。そして素性も何も知らない同士だ。簡単に口を開いたら何が起こるか分かったもんじゃない。不思議とヴェロアの助言を欲しがっている自分がいることに気づいた。


「なんか人数減ってるけど、まぁいいか。よし、魔皇をぶっ倒せる自信ある奴、こっち来い」


 フョードルが腕を組みながら話を始める。


「魔皇を倒す自信も何も、自分の力も魔皇の力も測れてないのにそんなの自信ある人の方が少ないんじゃない?」


 白髪の少年が顎に手を当てて考えている仕草をしながら話す。

 容姿だけだとここにいる19人の中ではかなり若い年齢だと思われる。14とか15歳くらいだろう。しかしその話し方にはどこか大人びたものが感じられた。


「はぁ。そんなこたぁ分かってるよ。ただ早い者勝ちのこの戦いでんな悠長なこともしてられねぇだろ。ステイタスを見ろ。神技(スキル)の性能とか見て、それで大体わかんだろ。自分の力くらい」


 ステイタスを見ろと言われても、ほとんどが黒く塗り潰されていたそれを見たところで、自分の力なんて分かるはずがなかった。


「因みにオレは自信がある。魔皇を殺せる自信がな」


 そう言ってフョードルは紋章(エムブレム)を見せびらかすように左手甲を前に突き出す。


白髪(シロガミ)のお前、どうだ?」


「僕はパスするよ。君みたいな偉そうな人嫌いだしー」


「そうか、オレもお前みたいな生意気な奴嫌いだからウィンウィーン」


 意外だった。あの堅物そうなジークヴァルトですら彼の仲間になったのに白髪の少年はそれを蹴ったのだ。これはフョードルの信頼としてもかなり痛手だろう。

 辺りを一瞬の静寂が襲う。


「あぁ~……。冷めちまったし、いいや今は。ザコは放っておいて街探索しようぜ、ジーク」


「お、おい! いいのか!?」


「いいよ、オレだけでも魔皇倒せると思うしな~」


 そう言って彼はノウト達に背を見せて歩き出す。


 そこで彼らを止めるように、


「ま、待ってください!」


「あ?」


「あ、……あの、わ、私、仲間に入ります……!」


 突然声を上げ、フョードルの足を止めたのはあの暗い部屋でノウトと名前を教えあった少女、セルカ・リーベルだった。


「オーケー。いいぜ。可愛いし気に入った」


「よ、よろしくお願いします」


「待って、アタシも仲間に入れさせて。その子だけじゃどうなるか不安だから」


 そう言ってさらにパーティ加入を立候補したのは赤髪の女性だった。眼光が鋭く迂闊に近寄れなそうな雰囲気だ。正直かなり怖い。


「大丈夫だいじょーぶ。魔皇は絶対に倒せるぜ」


「そうじゃないわよ。その子がアンタに襲われないか不安なの」


「はぁ? そんな心配すんなってオレはホモだ」


「なっ!?」


「うっそだよーん」


「はぁっ!? 死ね!!」


 そう言って彼女はフョードルの腹に殴りを入れた。分かる。あれは本気のパンチだ。


「ぐっ……」


 フョードルはよろけたがすぐに体制を整える。


「ナイスパンチだぜ……」


「チッ。死ななかったか……」


 赤髪の少女は自分の拳を見て悔いていた。


「なんでこいつと同じパーティなんかに……」


 ジークヴァルトは顔に手を当てて嘆いている。


「赤髪、名前は?」


「レティシア」


「よろしくな」


 彼は手を差し出し握手を促したがレティシアはそれを無視した。当然だ。


「……俺も入れさせろ」


 そしてついに五人目が現れた。長身で誠実そうな男だった。

 身長高すぎかよ、190以上はあるんじゃないか?


「おおいいね。五人決定だ。加入理由は?」


「その女の子が危ないからだ」


「なぁ、オレの信頼やばくないか? それで魔皇を倒せる自信はあるのか?」


「ある」


「決まりだ」


 フョードルは片手を彼に出し、それに彼も応じた。


「俺はシメオンだ」


「宜しく、シメオン」


 二組目のパーティが決まってしまった。今になって焦りを感じて来た。

 だが、あのパーティに立候補しなかった残りの14人の意見はほぼ同意見だろう。

 フョードルがうざい。その一点に限る。

 セルカの身を案じて動いたシメオンとレティシア、彼等には敬意を表したい。


「んじゃな、残りモノの諸君よ! くっはっはっはっ!!」


「煽るな!」


 レティシアがフョードルの頭を殴る。案外いいパーティになっていそうだ。城下町の人混みに紛れ、彼らの姿はもう見えなくなっていた。


「嵐が過ぎ去ったね」


 そう会話を切り出したのは暗い部屋から出たあとでノウトに話し掛けてきた爽やかな青年だった。


「あいつある意味凄いよな」


「ほんとっすよね、口調偉そう過ぎて絶対に仲間になりたくないって思いましたもん」とつんつん髪が同意した。


「ぷっ、カンナもだよ……っ」


 黄色い髪の少女が急に吹き出して笑う。

 やはり、フョードルの態度や行動に苛立ちを感じていた人は多かったようだ。


「うざかった人もいなくなったことだし、ここでみんな自己紹介しない?」


 白髪の少年がみんなの顔を見合わせながら話しだす。


「といっても名前くらいになるけど。ほら呼び方分からないと大変だから」


「賛成するよ」


 爽やかな青年がそれに賛成の意を唱え、他のみんなもそれに頷く。


「じゃあ僕から」白髪の少年が片手を軽く上げて見せた。「僕はミカエル・ニヒセフィル。なんの能力かはまだ言えない」


「はいはーい、じゃ次カンナね。」


 間髪入れることなく手を挙げたのはさっき吹き出して笑っていた黄色の髪の少女だ。


「カンナはカンナ・ライトニー! 〈(いかづち)〉の勇者だって〈ステイタス〉に書いてあったよ!」


 っておい。状況を理解してないのか。


「……カンナさん、何の勇者かは言わない方がいいっすよ」


 カンナに注意したのはつんつん髪だった。


「えっ!? そうなの!?」


 カンナは初めてそれを聞いたかのように驚いていた。大丈夫か、この子。


「そうっす。フョードルが言ってた通りここにいる他の人が敵になる可能性もなくはないですし」


「あぁっ! そうだった!」


「気を付けた方がいいっす。俺達なんにも分かっていないんすから。誰も信用しない方がいいっすよ」


「じゃあさ! 信用しようよ!」


 いや、意味不明だ。


「えっ!? どういうことっすか!?」


「仲間になろ? さっきの偉そうだったやつみたいにさぁ」


「えぇ!? 確かに最後の四人になるよかいいっすけど……」


「決まりね!」


「えぇ……なんか強引さが最高にデジャブなんすけど」


「え~だめ~?」


「い、いや〜〜……」つんつん髪は片手で首を撫でた。「まぁ、そう言われたら断りずらいっすね。いいっすよ別に。組みましょうか」


 自己紹介の途中でいきなり、仲間決めがまたしても始まってしまった。


「改めて、俺はスクード・ゼーベックっす。もちろんどんな能力かは言いません」


「言ってよ~!」


「言わないっすよ! カンナさんの言っちゃったのにこれ以上こっちの手の内明かせませんから!」


「ぶー」


 カンナとスクード。

 カンナは少し、いやかなり幼稚だが明るくパーティの士気を高めてくれそうだ。

 スクードも口調の割に頭の回転は良いし気が利きそうでもある。ここで立候補するか……?


「じゃあ、僕そこに入れさせて貰おうかな」


 ノウトが逡巡しているとミカエルがそこに立候補した。


「大歓迎っすよ! 正直最後までこの二人で残る気が少ししてたんすけど良かった!」


「あはは。二人とも楽しそうだしね。折角仲間をこうやって作れる機会が出来たんだし、楽しくいきたいからさ」


「楽しくやろうね! よろしく、ミカ!」


「うん!」


「少し不安っす……」


 スクードが思わず不安を口に出していたが運良くカンナの耳には届かなかったようだ。


「私もいいでしょうか~?」


 そこで女性が控えめに手を挙げた。


「もちろん。お名前をどうぞ!」


「エヴァ・ネクエスです~。どうぞよろしくお願いします、ミカエルさん、カンナさん、スクードさん」


 エヴァはセミロングの茶髪で大分ふわふわな感じの雰囲気だった。

 見ているだけ口角が上がってしまいそうなほどの見ててほのぼのするオーラを放っている。


「よろしくねー、エヴァ~」


「はい!」


 彼女はその全員とゆっくりと握手して回っていた。

 ここで残った人達は察してしまった。


 このパーティはゆるゆるすぎる、と。


 エヴァを最後に立候補は途絶えてしまった。

 当然かもしれない。

 魔皇討伐には命を掛けているのだ。

 お遊び気分じゃもちろん討伐が叶う可能性は低くなるだろう。


「うーん、じゃあ自己紹介続けて貰って気が変わったら是非、うちのパーティに参加してね。いつでもいいから」


 そう言って彼は時計回りに自己紹介をするように促した。


「じゃあ、わたしかな?」


 声を上げた彼女は銀髪の可憐な少女だった。非常に顔が整っていて、白いワンピースを着ている。あれ、なんだろうか、どこか見覚えがある。というか、そうか。この世界に目覚めた直後にお互い手を握り合ったあの子か。なぜか直視できない。彼女を見ていると心がざわめく。


「わたしはリア。能力は言えないけど最後の四人でいいやって思ってるよ」


「……どうしてだ?」


 俺──もとい、ノウトは思わず疑問を口に出してしまった。

 この状況で残りの四人を自ら立候補するなんて頭がおかしいとしか言えないからだ。


「それは、秘密」


 彼女は片目を閉じて悪戯な顔をして見せた。

 綺麗な顔立ちをしたリアに見つめられて一瞬どきっとしてしまった。


「あと、きみとパーティを組みたいな」


 彼女は()()()と目を合わせて、微笑みながらそう口にした。

 突拍子もない提案に思わず、


「……へ?」


 と変な声を出すノウトなのであった。



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