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第27話 斜陽と海と君の横顔



「もう一人いたって……」ノウトは息を呑んだ。「ミカエルのパーティは四人じゃないってことか?」


「そういうことっすね」スクードがうんうんと頷いた。


「そんなことって……」後ろで聞いていたリアが言葉を失った。


「どうして、今まで隠れてたんだ?」ノウトがマシロに尋ねるとマシロは控えめに笑った。


「隠れてなんかいないよ」マシロが鼻頭をこすった。「ずっと声かけてたし」


「いや、そんなわけ……」ノウトは今までの記憶を手繰り寄せた。マシロのことは、今まで一度も見たことがないはずだ。


 ふと、ノウトはひとつの記憶を思い出した。あれは、最初の方にリアと一緒に自由行動をしていた時のことだ。

 宗主国アトルの首都アカロウトにて、ノウトは屋台を見て回って軽く情報を集めていた。その時に店主が言っていたのだ。


『つい5分程前にあなたとは別の勇者様がここに訪れて急に現れたかと思いきや、突然その姿を消してですね。いやぁびっくらこきましたよ。あれが勇者様が授かった御加護って奴なんですかねぇ』


 あのときは疑問に思ってもすぐに忘れてしまった。そうか、そういうことか。


「……もしかしてマシロ、屋台で串肉食べてた?」


「あっ、うん。そのときも君の近くにいたよ」


「えっマジか……」


「声もかけたんだけど無視されちゃったし」


「そうだったのか。それは、ほんとにごめん。謝るよ。でも、どうして今まで声も姿も見えなかったんだ?」


「私ね。〈幻〉の勇者なの。だから、透明になれたりできるんだけど、私の神技(スキル)だけ最初から暴走して、勝手に発動してたんだよね」


 ノウトはまたしても言葉を失った。


「そんな時に、たまたまカンナが私を見つけてくれたの」


「いやーでもあの時は驚いたっすよ、ほんとに」


「でも、良かった。ミカエルのパーティもちゃんと五人でいられて」


「本当に、それに関しては安心してます〜」


 エヴァが木漏れ日のような声で言った。


「じゃあ、勇者は全員で25人ってことか」レンが呟いた。


「そういうことかな」


 ノウトはうなずいたが、本当は違うことを知っていた。実は、勇者はもう一人いる。ノウトが始まりの部屋で倒して置いてきてしまったあの人だ。後悔は募るが、どうあがいたって、取り返しは絶対につかない。ノウトは、望むがままに今を生きるしかない。







           ◇◇◇






「わあああぁぁ海だあああぁぁあ!!」


 カンナがきゃっきゃっとはしゃいで海水を蹴って水を飛び跳ねさせたり、それを掬ってスクードにかけたりしてた。


「ちょっ、やめてくださいっす! うおっつめてぇっ! しょっぺぇ!」


 スクードの抵抗も虚しく全身もうびしょ濡れだ。彼も負けじとカンナに水をかける。


「きゃっ! しょっぱっ」


「海だねぇ」


 ミカエルが目を細めて水平線を見ている。


 今夜の宿泊先である目的地に向かう途中、せっかくだからと海岸沿いを歩いていくことにした。

 提案者はカンナとリア。

 ノウトとしては、あまり海で遊ぶ気分でもなかったはずだが、生きて綺麗な海に行くことはこれで最後になるかもしれないと熱弁していろいろなパーティを巻き込んで、遠回りで宿泊先へ向かう運びとなった。


 みんなして靴を片手に裸足で波打ち際を歩いていた。いや、カンナだけは波打ち際どころか膝下くらいまでは海に()かっている。

 ヴェロアはふよふよと宙を漂っていた。

 海の冷たさが逆に癖になる。今は夏が終わろうとするくらいの気温で、涼しいと感じるくらいだ。

 ただそれでも、陽によって温められた砂浜とそれと対比するような海の冷たさが、これがなんというか気持ち良かった。ほんとに。

 懐中時計を見ると時刻は午後4時10分。

 海の彼方を見遣る。

 その海の果てから沈みかけの太陽がまだ少し顔を覗かせていて、水面を照らしていた。空も海も燃えているように橙色に染められている。

 海から視線を少しずらして、リアの方を見る。隣で俯きながら両手を後ろで組んで歩くリアは西日が落とす影をまといながらも、夕日によってきらきらと輝いてみえた。

 不覚にも、どきっとしてしまった。彼女が街を歩いてたら振り向かない人はいないだろうと確信するほどに可愛いとは思う。まぁそれも黙ってればの話だが。

 一瞬だけ見てただけなのに不思議と目があってしまう。いや、一瞬だったのかな。分からない。まぁ、単なる偶然だと思う。

 にやっと笑う彼女。

 何故かノウトはここで目を逸らしたら負けだ、という謎のプライドに囚われて、ずっと彼女の方を見ながら歩いていた。

 見つめ合いながら歩き続ける二人。

 傍から見たら妙な光景にも見えるだろう。

 痺れを切らしたのかリアがにまにまと笑いながら、「どしたの?」と言ってきて、ノウトは「こっちのセリフだよ」と返答になってないよく分からないことを言ってから、遂に目を逸らした。

 リアはふふっと小さく笑ってから前を歩くシャルロットに後ろから抱きついた。


「ちょっ、リ、リア? なに?」


「いや、なんでもないよ~。あぁシャルちゃんかわいい」


 シャルロットはリアの扱いに慣れたのかもう全く抵抗しなくなった。


 右方にある白亜の街フリュードを見ていたらふとフョードル達のことを思い出す。彼らは今どこにいるのだろうか。もうフリュードからもシェバイアからも出てしまっているかもしれない。

 でも、竜車を引く走竜にも休息が必要だから途中どこかで休んでいるはずだ。

 俺の推測だが、彼らはおそらく勇者の中にいるという魔皇の協力者による道中の攻撃を避けたかったが為に別行動をしているんだと思う。

 フョードルらしからぬ保身的な行動だが、彼はおそらく魔皇を倒したいのであって勇者と戦うつもりは毛頭ない、という思想なんだと思う。どれもこれも推測に過ぎないけど。

 フョードル達を「魔皇を倒さないでくれ」と説得するのは不可能かもしれない。

 殺し合うことになる、という可能性もある。

 そうはならないようにノウトがなんとかする必要があるのは確かだ。


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