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第26話 白亜の街、或いは海と塩の都


 白亜と水の都フリュード。

 そう呼ばれる所以(ゆえん)が何となくわかった気がする。

 建物は基本白塗りでその家々の間には水路がこれでもかというほど通っている。白を基調とした街の色と青く澄んだ海の調和が見ているだけで心地良い。

 遠くに見える桟橋には何十隻もの船が停泊している。埠頭や桟橋には多くの人夫が荷物を担いで行き交っていた。宗主国の首都アカロウトとはまた違った賑やかさだ。


「潮風ってこんな感じなんですね」


 竜車から降り立ったフウカが周りを見回しながら呟く。


「風がしょっぱいって不思議」


 隣でシャルロットがその小さな体躯で一生懸命に背を伸ばして海を見ている。ノウトが振り返ると後ろから着いてきていた他のパーティの竜車からも次々と人が降りているのが見えた。

 竜車の客車内から出て来たニコが伸びをしている。


「あー疲れたー長かったーお尻いたーい」


「分かってるとは思いますがまだ目的地にはついてないですからね」


 膝を抱えてしゃがみこむニコの肩にパトリツィアが手を置く。


「分かってるけどさぁ。竜車の乗り心地最悪なんだよ~」


「それはみんな同じです。我慢してください」


「はぁーい」


 ニコはパトリツィアの手を取って立ち上がる。

 申し訳ありません、とパトリツィア達の竜車を操縦していた騎手が頭を下げていたがカミルが「貴方(あなた)が謝ることじゃないですよ」と笑顔で宥めていた。

 するとノウト達の竜車の騎手ウルバンが荷台から降りてきて、


「勇者様方。荷物はお纏めになりましたか?」


 ノウトはパーティの仲間たちと目配せして用意が出来ていることを確認する。


「はい、大丈夫です」


「では我々は先に宿へ向かってましょう」


「そうですね」


 ウルバンの背を追って、街並みを横目に先へと進んでいく。ふと、リアが隣を歩いているのに気がついた。彼女は小声でノウトに耳打ちした。


「どっかで話し合おうね」


 その言葉には特に深い意味はないとは思うけれど、妙にこそばゆくて、ノウトはリアから距離を置いた。そのときだった。


「………アヤ」


 突然、どこからか声がした。アヤ……? あやってなんだ? ノウトはその声のした方を見た。

 そこのは一人の少女が立っていた。

 空色の髪をした少女だ。適切な表現が上手く思い浮かばないが、そこにいたのに気付くことができなかった。でも気付いた今となってはどうして今まで彼女のことが見えてなかったのか分からない。

 その少女は真っ直ぐとこちらを見ている。その少女が形容し難いほど端正な顔立ちをしていたので少しの間見入ってしまう。

 顔のパーツ一つ一つを神様が選んで時間をかけて配置したみたいな。あれ? というか────


「──え……? 俺?」


「えっ……見える、の?」


「さっき、なんて……言ったんだ?」


 ノウトがその儚げな少女に問いかけたところで、


「どうしたの、ノウト。誰に話しかけてるんだ?」


 レンが怪訝な表情でノウトの顔を覗き込む。


「いや、レン。ここにほら。女の子が急に現れて」


「ノウト、流石に休んだ方がいいんじゃ……」


 フウカがノウトの体調を心配する。


「いやいやいや……みんな見えないのか?」


 リアがこちらをじっとこちらを見ている。リアもたぶん、この少女のことが見えていないのだ。というよりももしかしたらリアはノウトがヴェロアのことを言っているのだと勘繰っているのかもしれない。

 いや、リア、今はヴェロアと会話してる訳じゃなくって、とは心に思ったが口にすることは出来なかった。


「アヤだよね?」


「アヤって、ごめん、俺のこと?」


「うん」


「いや、俺はアヤじゃなくてノウトって言うんだけど……」


「えっ……」


 その少女の反応は薄いけれど、顔を見るに驚いているようだ。ノウトは視線を軽く落とした。ノウトもまた驚いた。

 そう、目の前の少女の左手甲にはノウトたちと同じように勇者の紋章があったのだ。つまり、目の前の少女は勇者だ。だが今まで見たこともなかった。いや、本当に見たことがなかったのだろうか。もしかしたら忘れているだけなのではないか。


「きみは、何者なんだ?」


 ノウトが問うと、空色の髪をした少女は口を開いた。


「私はマシロ。チサキ・マシロ」


「マシロ……?」


「そう」


 マシロと名乗った少女はそっと微笑んだ。すると、ノウトとマシロの様子に気がついたのか、なぜかミカエルやスクードたちが集まってきた。


「これは驚いたっす……。ノウトにはマシロが見えるんすね」


 スクードが顎に手を当てながら話す。


「え、えっ?」


「マシロちゃんはねー、可愛い女の子だよー」カンナが跳ねる。


「いや、それ説明になってないっすよ」


 状況が全く飲み込めないノウトが首を傾げると、ミカエルがそれに答えた。


「実はね、勇者はもう一人いたんだ。僕らが気付けなかっただけでね」


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