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第24話 ときには流れゆく雲のように




 勇者は全部で五パーティで、つまり竜車は全部で五台あるはずなんだ。そのはずなのに、竜車は四台しかない。

 ということは、畢竟(ひっきょう)するに誰か他のパーティが先んじて向かっているんだ。まずい。かなりまずい。一斉に封魔結界を越えるってルールを破ろうとしてるのか?

 そのルールはこっちとしてはありがたかったが魔皇を我先にと殺そうとしている側からすれば邪魔な誓約だ。

 急いで他の竜車を見て回る。

 さっき、ミカエルやパトリツィアはいたからいないのは彼等以外のパーティだ。

 見回って察した。

 ──フョードルたちだ。

 あいつらの竜車がない。くそ。いつ出発したんだ。

 昨日の晩どうして気付けなかったんだよ。説得するもなにも、会話出来なければそれも不可能だ。先にヴェロアのところまでたどり着かれたら魔皇を殺さないでくれと頼むことも出来ない。

 ノウトは瞼を揉んだ。


「…………いや、」


 後悔しても仕方ない。フョードルのパーティが先走ってしまったのは、おそらく、いや絶対フョードルの暴走だ。そうに違いない。そうなると、レティシアやジークヴァルトがフョードルの行動を制止してくれるはずだから先に封魔結界を越えようとすることはないだろう。だけど──


「──…やられたな」


 万が一にも、ノウトたちを待たずに封魔結界を越えて魔皇を殺しに行くとしているならば、かなり危険だ。

 ヴェロアが殺されてしまうかもしれない。

 かつての仲間である魔皇直属護衛兵の彼らのことを信頼してない訳では無いが、もしものことがあっては困る。

 リアやシャルロット達を見ていて分かるように勇者の神技(スキル)は底が知れない。

 フョードルたちのパーティで言えば、炎を操っていたレティシア以外は能力が分からないが、不死身やら星を造れるやら、勇者は予想の範疇を軽く超えてくる。


「やぁ、ノウト君」


 ノウトが頭の中で試行錯誤しながら自分達の竜車に戻ろうとしているとフェイに声を掛けられた。居るのはフェイ一人だけのようだ。

 テオやナナセあたりといつも一緒にいるイメージだったけど珍しいな。


「おはようフェイ」


 ノウトが挨拶を返すと、フェイは腕を組んで口を開いた。


「何やら悩んでいたようだけど」


「いや、なんでもないんだ。気にしないでくれ」


「フョードル達なら心配いらないよ。おれたちと別行動するだけみたいだからさ」


 フェイはさも当然のように話す。ノウトは不本意ながらも泡を食ってしまった。


「……どうして考えていることが分かったんだ?」


「はははっ。いやいや、そりゃあ血相変えて一人でみんなの竜車を確認してるんだ。さすがに分かるよ、ノウト君」


「それも、そうだな」


 一瞬だけど、フェイの持っている能力が相手の考えていることが分かる神技(スキル)、みたいなのを疑ったが考え過ぎか。


「それでなんでフョードル達が別行動を取るって言ってたのが分かるんだ?」


「本人に聞いたからね」


「なるほど」ノウトは思案した。いまノウトが取るべき行動は何か考えたのだ。「いつここを出たか分かるか?」


 フェイは自らの顎を触って考えるポーズを取った。


「確か三時間くらい前かな。午前四時くらいだったと思う」


「そうか。ありがとう、助かった」


「力になれて良かったよ。───あと」


 フェイは少し言い淀んでから、


「一人でいると魔皇の協力者だと疑われちゃうから気を付けた方がいいよ」


「それはお互い様じゃないか?」


「はははっ。確かにそれもそうだ。そろそろおれは仲間たちのとこに戻るよ。バイバイ」


 彼は手を振って自分たちの竜車へと戻って行った。

 ノウトはあらためて思いを巡らせた。フェイはフョードルたちの情報を教えるためだけにノウトに話しかけてきたのか? いまいち行動の動機が分からない。まぁ、今はそんなこと考えていても仕方ないか。教えてくれたことに感謝しなくては。

 ノウトはやっとの思いで竜車に乗り込む。


「ごめん、遅れた」


「おはようございます、ノウト」


「ノウトくん、おはよう」


「うん、おはよう」


 同じパーティの面々が集まっていた。そこにはもちろんリアの姿もあった。リアはノウトと目を合わすと嬉しそうに微笑んだ。ノウトは軽く手を振ってそれに応えると、レンの隣に座った。


「勇者方、忘れ物はないでしょうか」


 御者台の方からウルバンの声が聞こえた。ノウトたちは目を見合わせて何も心残りはないことを確認してからウルバンに答えた。

 ウルバンは再度竜車が動き出すことを注意して、それから竜車が動き始めた。ノウトは窓から外に広がる草原を見つめて、呼吸をした。ノウトはまだ、生きてる。



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