第21話 とこしえの夜を感じて
「勇者様方~!」
御者席の方から大きな声がした。竜車の操縦主ウルバンだ。ノウトはうとうと舟を漕ぎはじめていたが、その快活なる声によって目をぱっちりと覚ました。
「そろそろ野営地につくのでそこで今夜は野営しましょう」
「分かりました~お疲れ様です」
「お疲れ様ですー」
「いえいえ! 勇者にそうおっしゃって頂けるなんて、恐縮の極みです!」
フウカと共に苦労人の彼を労う。
それから、竜車は徐々にスピードを落としていき、道沿いに止まった。
「お~い、リア起きろ」
リアの肩を揺らして起こす。
「ほぇ……。フリュード着いたの……?」
「いや、まだだよ。今夜は野営するそうだ」
「野営か~……」リアは瞼を軽くこすって伸びをした「なんだかわくわくするね」
「そう?」
「するでしょ」
「しますよ」
フウカとリアが顔を近づけてくる。
「雨風に晒されながら外で寝ることなんて不安だけどなー、俺は」
「雨は降ってないし大丈夫でしょ。テントとかはないけど寝られるって」
そう言ってリアは客車から下りる。
俺はレンとシャルが起きたのを確認してから外に出る。
平原だ。
少し距離を置いた所に小川が流れているのが見える。光源は竜車の客車内から漏れる光と月と星の灯りと仄かに光る左手甲の紋章だけだった。夜風がやけに気持ちいい。
野営地と言っても何か施設があるという訳ではなくただ危険な獣のテリトリーではない、というだけのようだ。
他のパーティの人間も竜車から次々と降りていくのが見て取れた。
「スールとヘカもお疲れ様」
リアが二頭の走竜の首を撫でる。恐る恐るシャルも撫でていた。
レンは星空を仰ぐ。
「風、気持ちいいね」
「ほんとですね」
フウカが大きく深呼吸をする。
見るとウルバンが既に火を熾していた。 仕事が早いとしか言えない。竜車の操縦とか、他の全てにおいても有能過ぎる。ノウトは辺りを見渡した。すると、他のパーティの所もぽつぽつと火が灯されてるのが分かった。みんな、ここで休むようだ。
「食事にしましょうか」
ウルバンは荷台を漁って麻の袋を取り出す。
保存食と思われる干し肉と固そうなパンだ。ノウトたちは軽く眉をひそめた。ウルバンには悪いけれど、こんなにも食欲の湧かない夕食は記憶のあるうちは初めてだからだ。
「ふふん、ここは私の出番のようね」
シャルロットがそう言うと彼女はその手を胸の前に持ってきてぽんっ、と広げた布の上に食べ物を次々と出現させた。シャルロットは触れたことがあるものを何でも生み出せる能力を持つ〈創造〉の勇者だ。こういうときはかなり重宝する能力だと思う。
風呂敷の上に現れたのは、今朝食べた食材たちだ。
焼きたてのパンにベーコン。器に入った豆入りのスープ。熟されたチーズ。
実は、昼食もこれだったので本日三回目の料理だ。
「……あ、相変わらず凄いですね。勇者様のお力は」
ウルバンがそれを見るのは二回目なのに目を見開いて驚いている。シャルロットは腕を組んで、わかりやすく得意げな顔をしてみせる。まさに神技だ。
「またこれなんだね。シャル、他のは出せないの?」
「だ、出せるわよ。見てなさい」
レンに軽く挑発されたシャルはもう一度手をかざして、昨日も出してみせたプレーンクッキーと昨日の夕飯にシャルが食べていたシェバイアエビのグラタンを出現させる。
「そ、それだけ?」
「うるさいわね。つくれるのは触れたもの全てって言ったでしょ? そもそもまだ目覚めてから日も浅いのにそんなに多くは出来ないわよ」
「昨日の昼食は出せないのか?」ノウトが問うと、シャルロットは腕を組んだ。
「昨日の昼………。あれ、何食べたっけ……」
「ふむふむ。そもそも覚えてないと出せないんだね」
「ま、まぁそういうことにはなるわね。これこれをつくるっていう明確なイメージがないと出来ない。昨日の昼食っていう抽象的な指令じゃ造れないわ」
「なるほどねー。でもシャルちゃんが色んなものに触れたりすればそのデメリットがないも同然だね」
「そうね。あと私は便利屋じゃないんだから、礼はしなさいよね」
「ありがとう、シャル」「頂きます、シャル」「ありがとね、シャル」「かわいいなぁシャルちゃんはー」「シャルロット様、感謝します」
みんなで感謝を羅列する。なんか、一人違ったような気がしなくもないがこの際気にしない。
「ふふっ。分かればいいのよ」
リアに頬擦りされながらも満更ではないシャルロットだった。




