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第19話 青天井の下で


 途端、心臓が高鳴る。


 何を言ってるんだ。こいつは。

 突然、どうして。

 ノウトのことがバレた? まずいまずいまずい。

 どうして、なぜそれが分かったんだ。


 疑問が次々と押し寄せる。

 戸惑いを隠せない。


 流石に冷静を保つことはできなかった。ノウトだけじゃない。ここにいる全員が唖然としていた。


「何を根拠に、そんなこと言ってるの?」


 ミカエルがその目に怒りを露わにして問う。


「どなたかは分からないのですが、微かに魔力を感じるんですよねぇ。人間領に魔術を使える人間は存在しないので、はい、そういうことです」


「もしそれが本当だとしてそいつを特定出来ないのか?」


 今度はシメオンが問う。ノウトは自らの胸を抑えた。まるで心臓が耳のすぐ側にあるようだ。ばくばくとうるさい。落ち着け。落ち着け、誰もノウトのことだとは言っていない。バレてはない。


「特定までは出来ないんですよねぇ。かく言う私も魔術に触れたことがあるだけで使えはしないので。ただ一人、妙に魔力の匂いが強い方がいらっしゃるんですよ、それが。あとここだけの話私、生きてて嘘ついたことないです。これほんと」


 特定は出来てないと知り安堵する。魔力が感知出来るなんて聞いてないぞ。何者なんだ、こいつは。


「あなたは、何を考えているんです!?」


 パトリツィアが奇妙な男に怒号を浴びせる。


「現状でも同じ勇者同士で殺し合いになってもおかしくない状況なのにパーティ内の人も信じられなくなったらもう誰も信じられなくなるじゃないですか!」


 彼女の言葉ではっとする。

 ノウトは当事者だからそんな心配していなかったが、他の人からしたらノウトとは違う意味で大問題だ。

 そもそもの話、魔皇を他のパーティよりも早く倒さないと自らの記憶は返ってこないという誓約が課せられていて、それだけでも争いの火種になってもおかしくないのに、同じパーティの中にも敵がいるという可能性が生まれてしまったのだ。自分以外の誰も信じられなくなるだろう。


「う~ん。大丈夫ですよ。私は女神様の加護を受けた皆様を信じてます。必ず悪しき魔皇の手先を討ち取ってくれるってね」


 奇妙な男はへらへらと他人事のように宣う。

 見渡すとみんなそれぞれの目から生気が無くなっていくのが分かった。周りにいる全員が敵に見えて怯えているといった感じだ。勇気を振り絞ってノウトは声を上げる。


「みんな、落ち着こう! 俺はこいつの戯言(ざれごと)を信じない。信じるにしてもそれぞれ一塊(ひとかたまり)になっていればそいつも変な行動は出来ないはずだ」


 ノウトはリアと目配せをする。さぁ、リアはどう動く? ここで見極めるしかない。


「ノウトくんの言う通りだよ、みんな。こうやって疑心暗鬼にさせることがこの人の目的かもしれない。どっちにせよ、それぞれがそれぞれを見張っていれば大丈夫だよ」


 どうやらリアはノウトを擁護する方向のようだ。リアに関しては一抹の不安はあったが、やはりノウトがその魔皇と通じてることは公言しないつもりらしい。


「見張るも何もっ! その魔皇の手先ってやつに殺されるかもしれないのに冷静に見張れる訳ないでしょ!? なんでそんな落ち着いてられるの!?」


 そう叫んだのはフェイのパーティにいたツインテールの少女、アイナだった。流れ次第では非常にまずい状況になってしまうことを危惧するが、


「いや、アイナ。彼等の言い分は正しいよ。まず落ち着かなきゃ」


 助け舟を出したのは意外にもフェイだった。彼はアイナの肩に手を置く。


「でも!」


「大丈夫さ。おれを信じてくれ。根拠は無いけどね。おれを信じてれば大丈夫。何ら問題はないよ」


「フェイ……」


「おれだけじゃない。おれのパーティは全員大丈夫だ。仲間同士で見張る必要もない」


「そ、そんなの分からないじゃない!」


「分かるよ」


 フェイはアイナの目を真っ直ぐ見てはっきりと言う。


「少なくともおれは君らを信じてる。何なら毎晩一緒に横で無防備に寝てもいい」


「オレも信じてるぜ、フェイ!」


 テオが大声で呼応する。


「うん、俺も信じてるよ」


 ナナセもそう言って手を挙げる。

 ヴェッタもこくこくと頷いていた。

 なんだか彼等がフェイの元に集まった理由が何となく分かった。

 聴いていて安心する声音と自らの身を全て預けてしまいたくなるような、何処から来るのか分からない根拠のない自信。フェイはそれらを持ち合わせている。


「おれを信じてくれるかい?」


「しょ、しょうがないな……。そこまで言われたら信じるしかないじゃん」


「よかった」


 フェイはにこっと笑う。


「僕も当然、自分のパーティのことは信じてるよ」


 そう言ったのはミカエルだった。


「あと命の恩人であるリアさんもね」


「カンナもエヴァ達を信じてるよ! 信じてるから一緒に居るんだし!」


「お、俺も信じてるっすよ。ミカやカンナ、エヴァが魔皇と通じてるなんて思えないっすし」


「私も、当然信じてます皆さんのこと」


 見渡せば皆が皆、仲間との信頼を確かめていた。


「俺もレン、リア、フウカ、シャル。みんなのことを信じてるよ」


 ノウトは皆の顔をそれぞれ見渡してそう言い放つ。今この場を混乱させている張本人である為に心が痛い。


「俺も信じてる。いや、信じたい、かな。ノウト達のこと、敵と繋がってるなんて思いたくないんだ」


「わ、私もです。まだ一緒にいて一日しか経ってないですけど、悪い人には誰も思えないって言うか」


「信じてるに決まってるでしょ。もし居たとしたら昨晩のうちに誰かが殺されてるはずよ」


「ははっ。確かにな」


 正直、笑うしかない。ノウトは昨晩、リアをこの手にかけた。リアは不死身の勇者だから今も生きているけれど、もし昨日のことでリアが死んでたら今頃どうなっていただろう。想像も出来ない。いや、想像したくない。


「ってさ。おっさん」


 フョードルが笑みを浮かべる。


「おっさんはやめてくださいよ。私は助言しただけなのになぁ。まぁどうなるのかはあなたがた次第ですけどね。いやぁ楽しみだ」


 奇妙な男は顎に手を当てて感慨に浸っている。


「では、私はこれで。皆様、良き旅路を」


 そう言って彼がノウト達の間を突っ切って門を通り抜けていく。相変わらずよく分からない奴だ。勇者を召喚した女神アドを信仰するアド教の司祭とかそんな感じなのだろうか。いくら推測したって答えが出ないのは分かっているけれど妙に胸がざわめく。

 魔皇の手先がいると言われた時はさすがに終わったと思ったが万事休すと言ったところか。なんとか難を逃れた。

 ノウトがリアの方を見るとなぜか目が合い、彼女はウィンクをして、いつか見せたような悪戯っぽい顔をしてみせた。



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