第59話 盾と熱と樹と備忘録
「んでもなぁ。こっちも仕事柄あんちゃんみたいないいやつを無駄死にさせるわけにもいないんや。そこんとこ、わかってくれんか?」
「違うんすよ! あの人は、ノウトは今も苦しい目にあってるはずなんすよ! もしかしたらもうあの剣が奪われてるかもしれない。それなのに俺がこんなところで足踏みしてたんじゃやるせないというかなんというか! とにかく通してください!」
「話を聞かないやっちゃなぁ。少しは落ち着きぃや」
少し距離があるから話の内容はよく聞こえなかったが、門番の小足族が困った顔をしているし、何やら話が行ったり来たりしているみたいなので、ノウトは我慢ならずに声をかけた。
「おーい、スクード!」
「なんすかこっちは忙し───ってノノノウト!?」
スクードはたまらず尻もちをついた。ノウトは手を差し伸べて、スクードを引っ張りあげる。ニコが「なに、ノウト知り合い?」と言ってスクードとノウトの顔を交互に見た。
「こんなところでスクードと会えるなんて思わなかったよ。ファガラントからここまでめちゃくちゃ遠いだろ。どうしてこんなところにいるんだ?」
スクードは身体をわなわなと震わせていた。
そして突然、がばっとノウトに抱きついた。
「うわあああノウトおおおおお! 良かったああああ生きてたんすねえ! 良かった! 本当に良かった!」
感極まって泣きそうになっている。さすがに苦しいのでノウトはスクードを押し退けて、頬をかいた。
「まぁ、いろんなひとのおかげでなんとか生きてるよ」
「いやー、もうこっちはすげぇ心配したんすから」
「あの、そちらの方は?」カミルがノウトに言う。ノウトが説明するよりも早くスクードが口を開いた。
「あ、俺はスクード・ゼーベック。連邦の神機技師っす」
◇◇◇
ノウトたちはスクードの知り合いだと言うことでなんとか門番の人を説得して、町の中に入ることが出来た。それから、スクードに連れられて、彼が泊まっている宿のロビーに着いていた。
「俺、この三ヶ月間、ずっと後悔してたんすよ」
ノウトたちと対面するように椅子に座りながら、真剣な面持ちでスクードは語り始めた。
「ノウトに無理やり〈殺戮〉の剣を渡して、不死王を殺すように差し向けて……。あいつを──不死王を憎むあまりに周りが見えていなかった」
「ま、まぁでも俺はこうして生きてるし。それにスクードの言葉があってもなくても俺は不死王と戦ってた気がするし……」
「そういう問題じゃないんすよ。俺の心の持ちようの話っす。俺は、最低のやつなんすよ」
「い、いやいやそんなことないって。スクードが打ってくれたアヤメの剣にも凄い助かったし、スクードがいなかったらアヤメにもカンナにも出会えなかったと思うから」
「いや、最低ですね」カミルが真顔で言った。「人殺しを強要させるなんて。外道のすることですよ外道の」
「なななんだとお!?」スクードが立ち上がった。「否定はできないしノウトに言われるのはいいっすけど見ず知らずのアンタに言われる筋合いは全くないっすよ!」
「ちょいちょい。喧嘩してる場合じゃないから。カミルも、お前こんなところで喧嘩売るなよ」
カミルはふん、と鼻を鳴らした。スクードは椅子に座り直す。気を取り直し、ノウトは話を始める。
「それで、さっきの話に戻るけど、スクードはなんでこんな辺境にいるんだ?」
「そりゃノウトが心配だったからに決まってるじゃないっすか。なんたってノウト、ファガラントからいきなり地図外の北の北の方に飛んでっちゃったんすから。こっちは冗談かと思って目を疑ったっすよ」
「いや、そもそもなんで俺の居場所を……」
そこまで言ったところで、ノウトはハッと息を呑んだ。口許に手を当てて思い出す。そうか。そうだった。ファガラントでスクードと会話していたときのことだ。スクードは確か、こんなことを言っていた。
『俺の打ったその〈殺戮〉の剣──黒刃の剣にちょっと細工をしてまして』
そう、そもそもの話、ノウトがファガラントに来ることもスクードは予期していたのだ。
ノウトがセンドキアより北の大地に飛ばされたこともこの世界でスクードだけは知っていたんだ。
「……この剣に細工をしてたってやつか」
「そう、その通りっす」スクードの取り出した板状の地図の上で水色の光が瞬いていた。それこそがアヤメの剣の居場所だ。「俺のつくったこの地図に逐一俺のマーキングした神機の位置情報が乗ってるんす。まぁ、一週間くらいの時差はありますけどね」
「あー、だからまだ俺がミドラスノヴァにいると思ってあの門番を強行突破しようとしてたのか」
「そーいうことっす。なんだか恥ずいところを見せちゃいましたね」
そう言ったスクードは手を頭の後ろにやって笑ってみせた。根性のあるやつだ。連邦からここまでたどり着くのも至難の技なのに。
と、そこで少し離れたところにいるニコと目が合った。そうだ。スクードと会ってからずっと念頭にあったことだ。
「あの、スクード。早速で悪いんだけど、頼みたいことがあって」
「はいはいなんすか。ノウトの言うことならなんでも頼まれますよ」
「まず、ニコをちょっと治して欲しくって」
「にこ?」
スクードは首を傾げた。ノウトはニコを手招きする。ニコはため息を吐いてからこっちに歩み寄ってきた。
「え、いや分かってるとは思うんすけど俺は神機技師であって、医師ではな───」
スクードは突然絶句して、それから立ち上がる。
「えっ…………」
もう一度スクードが絶句して、ニコがノウトの背中に隠れた。
「あの、そちらの方、もしかして……」
「ああ、ニコは神機の女の子なんだ」
ノウトが言った瞬間、スクードは膝から崩れ落ちて、顔を手で覆った。
「……ノウト、あんたなんつーもん拾って来てんすか」
ゆっくりと立ち上がり、スクードはニコを指さす。
「これ、伝説の神機〈ニコラアルカ〉ですよ!?」
「これって呼ばないで」
「ぶべっ!?」
気に食わなかったのだろう、ニコがスクードを平手打ちした。物理的な法則に則ってスクードは床に叩きつけられる。
「……あっちゃー」
ノウトは額を抑えた。それから倒れたスクードに手を差し伸べようとしたが、スクードはこちらを見上げてグッと親指を立てた。
「最高っすね!」
「…何が?」
「伝説の神機に平手打ちされたのなんてこの世界でたぶん俺が初めてっすよ!」
非常に嬉しそうだ。まぁ、うん、なんだ。嬉しそうなら別にいいか。
「……ノウトの知り合いってみんなこんななの?」
ニコが眉をひそめて言った。
「こんなって言わないでやってくれよ……」ノウトは上手く弁明しようとしたけれど、不本意ながらできなかった。
「というか、伝説の神機って──スクードはニコのこと知ってたのか?」
「俺の故郷、鍛人族の里に伝わる伝説っすよ。歩いて話せる神機がいるってね。ぶっちゃけ連邦軍のゴーレムはそこから着想を得てつくられてるんすよね。まぁ、うちのゴーレムはミカエルを除いて喋りもしないしめちゃくちゃシルエットは人から離れてますけど」
帝国に暮らしていたノウトにとって、それは全く聞いたことがない情報だった。なるほど、大陸の南側ではそんな逸話があったのか。
「いやーでもまさかこの目で伝説の神機を拝めるなんて」
スクードは目を輝かせてニコを見ている。
「スクード、それで話なんだけど──」
「この方を治すって話っすね。分かりました。俺に任せてくれっす」
「話が早くて助かる」
「えー」ニコが口を丸く開けた。「ボクこの人に治されるのー?」
「ニコさん。俺こう見えてマジで凄腕なんすから任せて欲しいっす」
「ニコ、頼むよ」
ノウトが軽く頭を下げると、ニコはぷいっと顔を背けて腕を組んだ。
「ま、まぁノウトが言うなら仕方ないけど。どうしても治してくれるって言うなら止めないし」
「大丈夫っす。ちょうどいろんなパーツ持参してきてたんで」
スクードは言うが、その胸ぐらをカミルが掴んだ。
「ニコさんを治すって話ですから、仕方ありませんけど、変なところ触ったら僕が殺しますからね」
「わ、分かってるっすよ。俺、ただの神機技師っすから」
その言葉を聞くと、カミルは無言で、そして笑顔で胸ぐらから手を離した。……ニコのことになると何かと血の気が多くなるな、カミル。
「悪い、あともう一個頼みたいことがあってさ」
「ん? なんすか?」
「……これ、スクードに貰った剣なんだけど」
「うっわ! なにがあったらこんなことになるすか!?」
アヤメの剣をスクードに見せた瞬間、スクードはひっくり返りそうになった。
「それが、不死王に折られちゃってさ」
「あんの野郎……。俺の大切な子供をこんな姿にして……。許さんぞ不死王ぉ……」
スクードは折れたアヤメの剣を手に取りながら泣きそうになった。そりゃそうだ。スクードからしたらせっかくつくりあげた剣をこんなにさせられてそりゃ怒るに決まっている。
「じゃ、その剣とニコのこと、スクード頼めるか?」
「え、あ、はい。大丈夫っすよ。じゃあ、一日だけ俺に下さい」
「一日でいいのか?」
「はいっす。それだけあればたぶん問題ないっす」
隣に立つニコはより不安そうにしているので、ノウトは微笑んで安心させようとしたけど、ニコは目を逸らすばかりで不安感は拭えてないみたいだ。
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