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第16話 彼らとの道中



 騒動が収まり、中央広場から王都正門までの道中を俺達はパトリツィア達のパーティと共に歩いていた。お互い、神技(スキル)についてはあまり触れなかった。今のところパトリツィアのパーティの中でわかっているのはニコが〈氷〉の勇者ということと、ダーシュが剣を生み出して操る勇者だということだけだ。無理に神技(スキル)を聞いても、怪しまれるだけだ。今はただ普通にしていよう。

 そんな(おり)、ノウトはレンと暇潰しがてら他愛ない会話をしていた。


「ここから魔人領とやらにはどうやって行くんだろうな」


「確かに。かなり遠そうだし、どうするんだろうね」


「乗り物って言ったら虎車(こしゃ)とか馬車とかだよな?」


「こしゃ? なにそれ」


「え、知らないのか?」


「うん、俺は分かんないな、それ」


「じゃあ逆にレンは何が思いつくんだ?」


「うーん、エクステンダーとか?」


「エクス………、何だって?」


「いや、………ごめん、なんでもない。忘れてくれ」


 レンは額を抑えて、目を細めた。


「思い出せないってやつか。何か、記憶が微かに残ってるってことか、それとも……」


「どうしてか、名前だけはわかるんだけどね。どういう用途で使うかが、それがすぐに分からなくなるんだ」


「それ、めちゃくちゃわかる」


 ノウトは同じようにさっき言った虎車を思い出そうとするが、やはり、だめだ。どうしてだろう。先程まで何もかもを覚えていたような気もするのに、今は何も思い出せない。


「…ごめんな、やめようこの話は」


「……そうだね。頭がおかしくなりそうだ」


 消された記憶を思い出そうとすると頭が酷く痛くなる。不思議な感覚だ。そこにあるのに手を伸ばすと消える、みたいな。

 この時すでに何を思い出そうとしていたかも忘れていた。


「ノウト」


 ダーシュがノウトの方を見ていつも通りぼそっと喋る。


「王が記憶を戻せる術を持ってるなら脅して戻せって言えばいいと俺は思う」


「……非人道的過ぎるだろ」


「こっちから記憶を奪ったんだぞ。取り戻す為には何やったって誰も怒らないだろ」


「でも、なんかだめな気がするよ。それは。ルール違反というか」


「まぁ、そんなことしないけどな」


 実際それはひとつの手とは言えなくもないが、この世にはやっていい事と悪いことがあって、それはやっちゃいけない事だ。ライン超えってやつかもしれない。


「魔皇ってのにも会ってみたい」


「そうだな」


 ヴェロアとは今日一日会えないと彼女が言っていた。自分で何とかしないと。何とかってなんだよ。

 どこかでリアと二人になりたいと思う自分がいることに軽く驚く。

 ノウトのしようとしてることを分かってて尚、泳がせておくなんてどっかおかしいとしか思えない。でも、頭のどこかでは彼女が味方になってくれれば、とも思ってしまう。

 不死身でかつ、どんな怪我でも治癒できるリアがこっちについてくれれば勇者の皆殺しは容易になるだろう。でも、リアはノウトがレンを殺そうとした時その手を止めた。少なくとも一緒になって勇者を全滅させたいというわけではないみたいだ。

 リアの方を見遣るとニコやパトリツィアたちを含めた女性陣と共に歩きながら談笑していた。

 何やら楽しそうだ。一瞬見ただけなのに、なぜかノウトとリアは目が合ってしまった。彼女はこっちを見て微笑んでみせるが、ノウトはそれをなんとなしに無視して目線を逸らす。


「気があるんですか?」


「え?」


 そこで突然、カミルが話しかけて来た。濃緑色のローブを着た男だ。昨日よりは見た目が少し変わってはいるけど相変わらずそのローブは欠かせないらしい。


「だから、彼女のこと気になってるんですか?」


「いやいやいや。気? そんなのないよ」


「その慌て具合、図星ですね」


「慌ててはないだろ。至って普通」


「そんなわけないです。ニコはそちらには渡しませんよ」


「ニ、ニコ? いや、俺はリアを見てて……」


「あぁ、やっぱりリアさんに気があったんですね」


「うっ……」


「ノウト。僕はこう思うんですよね」


 カミルはハニカミながらウィンクして、


「思いは口にしないと、気付いた時にはもう遅いですよ」


「……うっさいよ」


「それはそれとして、シャルロットちゃん可愛いですよね、非常に愛でたいです」


「……おいダーシュこいつ串刺しにしてくれ」


「任せろ」


 ダーシュは間を置くことなく空中に刃を出現させてカミルの周囲を刃で取り囲む。


「ちょちょちょ!」


 カミルはいくつもの刃に包まれながら、それを何とか躱そうとする。その動きが少しだけ滑稽だったからからニコが「ぷふっ」と吹き出した。ジルもまた口許を覆って笑っているのを隠していた。

 その時、カミルの手から何かが生えて動いていたのを、ノウトは見逃さなかった。カミルの腕からムチのような、しなる何かが何本か生えてうねうねと動いている。あれは、そうだ、ツル植物のように見える。カミルはツルの植物を操っているのだ。


「ちょっと! 何やってるんです!?」


 パトリツィアが彼らに気づき、慌てた様子で尋ねる。


「カミルの死刑を執行しようかと」


「駄目に決まっているでしょう! 何を考えてるんです!」


「全く、ダーシュ何やってんのよ」ジルが呆れたように肩を竦めた。


「ノウト、お前のせいだぞ」ダーシュが横目にノウトを睨む。


「え、いや俺……?」


 思わぬ矛先がノウトに向く。

 人のことはあまり言えないがそっちのパーティも中々に問題児を抱えてるな。

 カミルみたいな変態勇者よりは、勇者を殺そうとしてる自分はマシ……なわけないか。


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