第8話 色褪せないように
潮風が彼らの髪を揺らす。雲ひとつない蒼空が水平線と重なるように澄み渡り、背後にそびえ立つ魔皇城はそんな彼らを見下ろしている。
そこにいるのは黒髪の少年と銀髪の少女だ。
「ありがとう、リア。ここまで連れて来てくれて」
リアはノウトを見て、優しく微笑んだ。
「どういたしまして」
その笑顔に思わず、目頭が熱くなる。涙が溢れそうになるのを必死に抑えるように、ノウトは蒼穹を仰いだ。
「もしかしてノウトくん、泣きそう?」
「そんなわけないだろ。誰が泣くか」
「うっそぉ〜?」
リアはあどけなく笑った。
「ほんとうだってば」
「わたし、ノウトくんの泣いてる所も好きなんだけどな〜」
「いやどういうことだよ……」
「ふふっ」
リアはノウトの質問を笑ってはぐらかした。
リアのペースにいつも通り巻き込まれるノウトだったが、一つ、目的を思い出した。
「リア。そろそろ城下町一緒に行かないか?」
ノウトがリアの横顔を見て、そう提案すると、
「………もうちょっと、いい?」
リアは依然として海を見下ろしていた。何か面白いものでもあるのだろうか。
「何か、あるのか?」
「もう少しだけ、……こうしてたくて」
その横顔が太陽に反射して、いつもより煌めいて見えた。そして、ノウトはその隣で一緒になって海を眺め始めた。
あと三時間後にはノウトはメフィによって記憶が元に戻される。今の記憶のないノウトが居られるのは今、この時だけだ。
ヴェロアは、記憶は魂だと、そう言っていた。
それならば、ノウトが記憶を戻してしまえば、今ある記憶に上塗りしてしまえば、今のノウトは死んでしまう、ということなのかもしれない。
それがなんだか、恐ろしい────というよりは寂しくて。切なくて。
記憶のないリアよりも、遠いところに行ってしまうような、そんな気がした。
ふと、隣を見ると、泣いているリアの横顔がそこにはあった。
「リア………?」
「どうして、………」
初めて見せるリアの泣き顔。
リアの涙は次第に大粒になっていく。
「…どうして、わたし、……泣いてるんだろう……」
リアは手でそれを拭う。
「………どうして、わたし、こんな気持ちに………なってるんだろう………」
宝石のように煌めく雫を零して、零していく。
「……どうして、こんなに、切ないんだろう………」
その透き通るような玲瓏の声は、次第に潤み声になっていった。
「……どうして、何も、思い出せないんだろう……」
そして、リアはノウトの瞳を見つめて、
「……どうして、………君を見てると………こんなにも、……胸がざわつくんだろう………」
涙を流しながら、微笑んでみせる。その笑顔はいつものリアの物のはずなのに、とても眩しくて、とても儚くて、とても───
目の前の少女が涙を流している。彼女のこんな表情を、今までに少年は見たことがなかった。
「………君に触れていると、あったかくて、どきどきして、ぽかぽかして、……なんかへん、なんだ………」
少女は少年の手を取って、
「………ねえ、ノウトくん、……なんでだと、思う……?」
一筋の涙を零し、微笑みながら、その答えを無垢な瞳で求めた。
その問いの答えを、少年は持ち合わせていなかった。答えることは、出来なかった。
「リ、ア………?」
否、それどころではなかった。
「お、おい、リア………。お前の手、やけに熱く、ないか? 風邪……引いてるんじゃないか」
「ええ? 風邪ぇ? ふふふ。わたしがそんなのかかるわけないないよ〜」
リアはぼーっとしたような、酩酊したような口調で話す。明らかに普通じゃない。
そして、リアの口から何か、液体が、ああ。
赤い。熱い。真っ赤で熱い。
「なに、これ……」
リアが呟く。
ああ、これ血か。
リアが吐血した血がノウトの頬を濡らした。
「ノ、ウト、くん。て、はなし、て……」
「お前、これっ、………なんだよ、これ、おい……!!」
肉の焼ける臭いがする。どこからだ、それは、リアの身体からだった。リアの手から、足から頭から、全てが焼けている。煙が穴という穴から出ている。肌も、焦げていっている。焦げた瞬間にリアは回復する。
リアは不死身だ。死ぬことはない。これは絶対だ。なぜなら、ノウトがリアを何十回と殺めたことがあるから。でも、これは、ああ。
なんで、こんな────
「……ノウトくん、て、離してよ………」
「嫌だ!! 離すものか!! クソ!! 誰だよ!! 誰がリアにこんなっ、こんなっ!!」
ノウトの手はリアと同様に焼け、爛れていた。それでも構わない。リアが傷付く時、ノウトは近くにいなければいけないのだ。それがリアを何度も殺めてしまった、ノウトが出来る唯一の贖罪なのだから。
「………ノ、ウト………くん」
「リアぁっ……!!」
瞬きをした瞬間に────
視界が暗くなった。
「あ、あれ?」
さっき、俺、リアと手を繋いで、それで───
「なんで、俺、扉の前に────」
これはバルコニーへと通じる扉だ。さっきここを通って、リアと会った。そして、リアと話して、リアが突然、焼け始めたんだ。
そうだ、リアが危ない。
「リア!!!」
扉を勢いよく開けて彼女の名前を叫ぶ。
「ノウトくん、どうしたの?」
リアはいつもの微笑みを顔に浮かべてそこに立っていた。
「……よかった、リア。無事だったんだな」
「うん、わたしなら心配ないよ。メフィもアガレスさんもみんな優しいんだから」
「はっ、いや、そうじゃなくて、さっきリア、炎みたいに熱くなってたじゃないか」
「あつ、く? なにそれノウトくん。なんか面白そうな匂いがぷんぷんするね」
「はっ? とぼけるなよ。今さっきのことじゃないか。痛く、なかったのか?」
「…………なるほど」
「……なにがなるほどなんだよ」
「ノウトくん、凄い汗かいてる。それに心拍数も凄いね。どう見ても普通じゃない。うん、分かった。ノウトくん、今なにかに巻き込まれてるよ」
「なにか、って?」
「幻覚、もしくは、──………そうだ。じゃあ、ノウトくん。わたしの上衣の右ポケットには何が入っているでしょうか」
「そんなの、分かるわけないだろ」
「だよね。正解は飴ちゃんでした〜」
そう言って袋包みに入った飴を口に入れる。そして、もう一つの飴をポケットから取り出してノウトに差し出した。
「あげる」
「あ、ああ」
「食べてみて」
「……分かった」
リアのペースに呑まれるノウト。そのまま差し出された飴を口の中に入れる。
「甘いな」
「何味?」
「なんだろ、雪果味?」
「正解正解〜」
リアがノウトの頭をぽんぽんと撫でた。
「いやふざけてる場合じゃなくて」
「ふふふ。大真面目だよ、ノウトくん。君は今、なにかに巻き込まれてる。それは分かる。でも、なにかは分からない」
リアは首を傾げた。
「わたしが焼ける白昼夢を見たってことだよね?」
「白昼夢、というかめちゃくちゃリアルだったんだけどな、あれ」
「ノウトくん、時計確認してみて」
「時計?」
ノウトはズボンのポケットに入ったハンターケースの懐中時計を取り出して、蓋を開いた。
短針が11を、長針は58を指している。
「何か違和感ない?」
「………時間があまり進んでない気がするな」
「ほおお。……それ、答えなんじゃないかな」
「───いや、そんなわけないだろ。もう一回聞くけど、リアは自分の身体が内側から焼け始めた記憶、本当にないのか?」
「全く、全然、これっぽっちもないね。そもそも、ノウトくんとここで会ったのさっきが初めてだし」
「さっきって、俺が扉から勢いよく出てきたその時か?」
「うん。その時」
「嘘、だろ……? 本当に、もう一回繰り返してるのか?」
「わたし目線から見たら今のノウトくん、凄く変だもん。まだ繰り返してるって確信は持てないけど、何か面白いことに巻き込まれてる匂いがしまくってるね」
「面白いことって、お前……。そしたら、その時が来たらリアは………────」
「その身体が焼け始めるってのが本当になるかもしれないね」
「そんな、……リア」
「大丈夫だよ、わたし、不死身だから」
リアは胸を張ってみせた。
だが、リアはそうした後に、
「ただ、………」
リアの目をその宝石のような双眸でしっかりと見て、
「その時が来たら……手、握ってて欲しいな」
ゆっくりとそう言った。
「ああ、でも炎みたいに熱いんだよね。だったらノウトくんを傷付けちゃうか。やめとこうかな。そしたら、あんまり見ないで欲しい、かも。わたしが傷付くとこも見せたくないから」
リアは俯き気味に言う。
ノウトは黙ってそんなリアの手を握った。
「いや、ノウトくん。熱くなっちゃうんでしょ? だったら、いいよ。傷付けたくない」
「いやだ」
「いいって」
「………だめだ」
ノウトはリアの手をぎゅっと握り直した。この手を今離したら、もう一生握れないような気がした。どこかにリアが行ってしまうようなそんな気がしてしまったんだ。
ノウトがリアを真面目な顔で見つめるとリアが「……ふふ」と吹き出した。
「子供みたい」
「なんとでも言え。俺は俺がしたいことをする」
「そう」
リアはノウトを見て、ただ微笑んだ。
「海、綺麗だね」
「……ああ」
「なんでだろ。同じ海なのに、フリュードで見たのとは違って見える」
「………どっちがいい?」
「どっちも」
リアはそう言っていたずらっぽく笑ってみせた。その手は徐々に熱くなっている。
「わぁ、ほんとに熱くなってきた」
リアの手が徐々に、だが確かに熱くなる。熱いなんてものじゃない。ただ痛い。リアの手が炎と化したように熱い。
「───リアっ……」
「いつつつ……。いが、いときつい、かも……」
「リア………っ」
「…………あっ、…………んっ、……っ………」
「ああ、……リア、ごめん、俺、……だめだ、どうしたら」
「………ノ、ウトくん、泣かないで……」
リアが微笑みかけた瞬間────
───再び暗転がノウトを襲った。
「───ウトくん。おーい、ノウトくん」
はっ、と意識を覚醒させる。
「……リア?」
「どうしたの、ノウトくん。いきなりぼーっとして」
「……リア、痛くなかったか?」
「え?」
その反応を見て、リアの言っていたことに確信を持つ。ノウトはこの世界をループしている。トリガーはリアが突然焼け始めることだ。その途中でいきなり、場面が切り替わるように意識が霧散する。
このループを解除するには、リアが焼ける未来を回避するには、どうしたらいいんだろうか。
ノウトはポケットから懐中時計を取り出して、それを見やる。
懐中時計は11時58分を指していた。
「痛くなかったか、ってどういう意味?」
リアが不思議そうにノウトを見て、首をかしげた。先に正直に言って出方を伺おう。それで判断するしかない。
「リア、聞いてくれ。俺は今、同じ時間を繰り返してるみたいだ」
「………ほぉ〜……」
リアが自らの顎を右手で触れて、半目でノウトのことを見た。
「……それ、ほんと?」
「ああ、本当だ」
「じゃあ、証明してみせてよ。きみが時間を繰り返してる証明を」
リアは戸惑うでもなんでもなく、ノウトの言うことを享受した。やっぱり、リアはどこか変だ。でも、悪い方に変じゃない。そこだけが救いだな。
「……リアの服の右ポケット、そこに雪果味の飴が入ってるだろ」
「わっ、正解! 透視……なんて出来るわけないし、信じようノウトくん。あらかた過去に戻ったことを証明するために私がノウトくんに教えた、っていったところかな」
「………すげぇよ、リア」
もう、凄いとしか言えない。普通じゃない。
「ふふん、もっと褒めてもいいよー」
リアは得意げに笑った。
「それで、なんで時が繰り返されてるんだろうね。〈殺〉の勇者のノウトくんの仕業ではないだろうし。……しかもノウトくんが時が戻ってることを自覚してるときた」
「正直俺も何がなんやら、って感じなんだ」
「それも仕方ないよ。わたしもその状況にいたら頭がこんがらがりそうだし」
「おそらく、……いや絶対と言ってもいいか。この一連の流れは勇者が巻き起こしてるな」
「うん。わたしもそう思うかな。それで、ノウトくんは何回同じ時を繰り返してるの?」
「過去に戻ったのはこれで二回目だ」
「おお〜。我ながら気付くの早いね」
さすがリアだ、とノウトがリアを褒めるとリアが少しだけ微笑んだ。
「それで、時が巻き戻るのはどのタイミングなの? もっと先? それともかなり近かったりするのかな」
「それは───」
ノウトが言いあぐねていると、リアは少しだけ顔をゆがめた。ほんの一瞬だった。でも、ノウトはそれを見逃さなかった。
「いっ………」
「リアっ!」
その時が来たんだ。リアの体温が徐々に高くなっていくのが分かる。リアの周りの空気さえも熱を帯びていく。
「な、るほど………。こんな……かんじ……ね」
「リアっ!! 俺、どうしたら……どうしたらいいんだ!!」
ノウトが縋り付くように言うと、リアは小さく笑って、
「………そのまま、名前………呼んでて……欲しいな………」
そう言って、微笑んだ。
ノウトはリアの手を握って、何度も名前を叫んだ。叫んで、叫んで、叫びまくった。リアの身体が熱を帯びて、焦げていく。握っている手も焦げて、その度にリアの能力で再生する。
リア。リア。リア。
呼んでいく度にちかちかと頭の奥が痛み出してきて、そしてまた俺は────『───ウトくん────ノウトくん───……………………………』
「───ノウトくん」
「……………ぇ?」
「ノウトくん。見張り、交代だよ」
「………ここは───」
「なに寝惚けてんのー。わたしたち、みんなと一緒に野営してるんでしょ」
「そう、か…………野営………」
「何か、悪い夢でも見た?」
「……どうして?」
「汗、凄いよ」
そう言われてから、ようやく汗がびっしょりと背中を濡らしていることに気がついた。リアがノウトの背中をさする。
「大丈夫?」
「………大丈夫」
「……そっか」
背中に触れるリアの手を、ノウトは掴んで、そして離した。リアはテントの外へと視線をやって、それからもう一度ノウトの方を見て、ノウトの手を握る。リアが微笑む。そして立ち上がり、ノウトと共にテントの外に出た。
外はまだ暗い。さっきとは違って少しだけ肌寒かった。リアの手はそれと反対に温かい。
空に瞬く星辰は相も変わらず美しい。時間の許される限り、いつまでも眺めていたい。リアが手を離した。そして、焚き火の近くで座り込む。その隣にノウトも同じように座った。
「星、きれいだね」
「そうだな」
「月もきれいだ」
「ああ、ほんとに」
二人の間に、緩やかな時間が流れた。
───さっきまで見ていた夢は、夢なんかじゃない。
記憶だ。
ニコによって焼かれるリア。ナナセの能力でループする世界。
ノウトはナナセの時を戻す能力に呼応して、ナナセと共に他を置き去りにしてループしていた。なぜ、ノウトがナナセの『時戻し』に着いていけてたのか。その答えはノウトが〈時〉の神機を用いたことがある、というところにあるとノウトは推測している。
「……夢の中で、時が戻ったあの時のことを思い出したんだ」
「ああ、ノウトくんが言ってたやつね〜」
リアが焚き火に手をかざした。
「わたし、なんか変なこと言ってなかった?」
「リアが変なこと言うのなんて、いつものことじゃないか」
「またそんないじわる言って」
リアが楽しそうに笑ったので、ノウトの頬も自ずと緩んだ。
「眠らなくていいのか?」
「うん」
「うん、って……眠くないの?」
「不死身だからかな。ちょっと眠ればそれでいい、みたいな感じなんだよね」
「そう、……なのか……」
……そんなの知らなかった。そういえば、いつもリアと話す時は真夜中だ。それに、こんな理由があったなんて。
「初めのさ……」
「ん?」
「ノウトくんが、初めの街で深夜に魔皇さんと話してたのを、わたしが見ちゃったの、覚えてる?」
「ああ、もちろん。いきなりリアにバレたやつな。あれは……ほんとに、いろいろやばかったよ」
ノウトが苦笑いしながら言うとリアが小さく笑った。そして、リアが焚き火に視線を戻して口を開いた。
「あのとき、………どうしてわたしがあんな真夜中にバルコニーにいるノウトくんの話を盗み聞きできたと思う?」
「それは……リアが不眠症だから、じゃないのか」
「ふふ。あながち間違ってはないかも」
リアが口許を手で隠して笑った。
…………って、……あれ? 確かに……、今まで深く考えたことがなかったが、よく考えればおかしな話だ。リアがあの時間にバルコニーに来て、ノウトの姿を目撃したことをこれまでは偶然としか考えていなかった。
「実はね、わたし………」
リアがいつになく真剣な眼差しでノウトを見た。ノウトが思わず固唾を呑む。
「あの時、人を救けに行ってたんだ」
「人を……ってどういう………」
「ほら、わたしが初めて《軌跡》を使ってみせたとき、わたしに救けを求めた人がいたの、覚えてない?」
ノウトははっと息を呑んだ。その時のことが唐突に脳裏に浮かび上がってきたのだ。
『私の息子が長い眠りから眼を覚まさないのです……! どうか息子を救けて下さい!』
リアの手を掴み、縋り付くように乞う女性の姿が思い起こされた。
「……覚えてるよ。あのときの光景はかなり衝撃的だったから」
「……わたしね。あの晩、眠れなかったんだ。わたしに救けを求めたその人たちのことがどうにも頭に浮かんで……。──それで、いても立ってもいられなくなって」
「……外に飛び出したのか」
「うん」
「それで、救けられたのか?」
「うん、どうにかね。でも──」
そして、リアは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……わたしが救えたのはこの世界で救いを求めてる中の、ほんとのひと握りにも満たない人で、……わたしはその時に、命を区別してしまってるんだな、って思ったの。この世の全ての人を救けることはできない。目の前の人しか救けられない。手の届かない場所の人達は……今も命を落としてる」
リアが遠い方を見るような眼差しで、目を細めた。
「……結局、自己満足なのかな」
「前にも言ったけどさ」
ノウトはリアの方を見た。
「リアが好きなようにすればいいと思うよ、俺は。リアも人間なんだから、この世界の全人類を救うことは出来ない。それに、人が老いるのも、死ぬのも当たり前だ」
リアは黙って話を聞いている。その横顔にどこか懐かしさを覚えた。
「だから……──だから、リアが気に病む必要は無いよ。リアの好きなようにリアを生きればいい。俺はそう思う」
ふと、リアの方を見ると、リアは控えめに微笑みながら、
「───うん……うん………」
と頷いていた。その顔を見ていると、胸の内がなんだか暖かくなって、ノウトは無意識に目を逸らしてしまった。
「それにしても、よく助けを求めてる人の場所がわかったな」
「──わたしね、生き物の生命反応がわかるの」
「えっ?」
「半径50メートルくらいかな。心臓の鼓動が聞こえてくるんだ。それで、大体どんな人がいるのかわかるんだけど」
「それは……〈神技〉……だよな?」
「……たぶん」
「たぶんって、……どういうことだよ」
リアが自らの左手甲に鈍く光る紋章に、その細い右手で触れた。そして、小さく息を吐いて、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「わたしの〈ステイタス〉さ。真っ白なんだ。何も書かれてないの」
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