見えない星 1/2
雑貨屋さんでラズワルドとミルキーという女の子を見た後、わたしはいつのまにか宿に戻って寝ていたらしい。机の上にはランプと食事がおいてあり、
『寝すぎ。おきたら食べてね シド』
というシドからの手紙もそえてある。ツンデレ気味だけど優しい!
ごはんを美味しく頂いてから、窓の外をみるとぽつぽつと祭りの明かりがともっているのが見える。
昼間によく寝てしまったせいで目が冴えてしまっていた。
ちょっとだけならいいよね?
火に誘われる虫のように窓から外へと出て、賑やかなほうに引き寄せられていく。
真っ暗な中で明かりがぼんやりと浮いていて、その周りには鳥人が何人かいるようだ。
みんな、どこか浮足立った様子で話をしている。たぶん、夜に出歩くなんて経験をしたことがないからだろう。暗闇では目が見えない鳥人にとって夜は恐怖の対象でしかないけど、春祭りだけは夜も明かりがある
夜の散歩とはいいものだ。私も前世ではよくコンビニいくときに遠回りして星を見ながら歩いたりした
たくさんの星を見てると、自分の悩み事なんて小さいものに思える。そんな理由だった気がする。
残念ながら、鳥人には星が見えないのでこの世界の星がどんなものかはわからないけど
随分と街中からはずれたところまで来てしまったようで、ここから先は明かりはないようだ
何も考えずに明かりをたどってここまで来てしまったけどどうしようか。
戻らなきゃ。と思う一方で浮かんでくるのは昼間のラズワルドとミルキーの姿。
ラズワルドは明らかに嫌そうな顔をしていたけど、時々悲しみとも怒りともいえないものが見えた気がする
きっと昔の私なら、こういう時も悲壮にくれたイケメン素敵!なんていうんだろう。
今のわたしだって多少はそう思っている部分もないことは無いけど・・・ん?
「ひとだま?」
目の前をふら~と光の塊が飛んでいく。ファンタジーなら和製ホラーもありなの?
とりあえずついていってみるが、目の前の光以外は真っ暗すぎてどこにむかってるのかもわからない
これ、帰れるのかな?いや帰れないよね?
2個、3個とだんだん光が増えてきて、その先には無数に飛ぶ光達がいた。暗闇の中に浮かぶ光がまるで星空のようでつい見入ってしまう。
かつて見た星空よりずっと近いが、懐かしい。
寝転がって見上げると前世に戻ったような気がしてくる。
鳥人に生まれ変わって流されるままに生きて目をそらしてきたけど、わたしはちゃんと納得していなかったんだと思う。知らない世界で、知らない生き物に生まれ変わるなら記憶なんてなければよかったのだ。
せめて人に生まれ変わりたかった。
わたしはどうしたって人としての常識を捨てきれないから、羽を失っただけで全てを否定されるラズワルドの味方をしたくなる。だって、彼には素晴らしい顔があり、ちょっと意地悪ながらも友達思いの良い人だ。
ラズワルドとミルキーの会話を聞いてて、私が一番に感じたのは嫉妬でも悲しみでもなく、鳥人の考えに対する憤りだったのかもしれない。
羽を失っただけで彼を捨てたのか!彼は何も変わっていないのに!・・・そんな感じの。
結局、わたしは彼に同情してるに過ぎないのだろう。
こんな自分にがっかりする。
ここまで考えてため息をつく。
こうやって 一人でゆっくり考えないと自分の気持ちもわからないところは前世から成長していない
そして、考えたところでラズワルドのために何かできるかと言えば何もできない。
だって、何かしようとして嫌われるのも嫌だから
目の前の光の群れを見つめて、個人とはちっぽけなものだと再度ため息をついた。
それから二日間。
体調が悪いとシドに嘘をついて、昼は宿でゴロゴロして夜になると光の集まる場所に寝転んでウジウジするという生活を送っている。
体調が悪いという嘘はシドにはバレているようで、会場に行きたくない何かがあると思われているようだ。
夜に出かけていることももしかしたらバレているかもしれない
光の中で寝転んで、そろそろ会場に顔を出さないとジャスパーあたりは心配してるかもしれないと考える。
ラズワルドも、ちょっとくらいは気にかけてくれてるかも、しれない、たぶん。
このまま春祭りの会場にいても、きっと他の男性と仲良くなれることは無いだろう。それなら、もう集落に戻っても良いんじゃ無いだろうか。
「何やってるの?」
わたししかいないはずの場所に声がして、振り返ると淡い光の中で薄っすらと人影が見える。
聞いたことのある声と、まるで人のようなシルエット
彼は、まさか
「ラ、ラズワルド?」
「そうだよ、よくわかったね。しかし、夜光虫に誘われるなんて君は子供かい?毎夜出歩いてるっていうから、誰かと一緒かと思えばこれとは」
「いやいや、独りだよ!そんな人いないから!」
「独りのほうが問題だと思うけどね。街からそんなに離れていないとはいえ、明かりも無い場所に出て。獣に襲われてもおかしくないとは思わなかったの?」
「獣・・・え、何か出るのここ!?」
「ちょっとした冗談だよ。少しは反省してもらおうと思ってさ」
隣に座る彼の顔は、暗闇のせいでよく見えないけれど、話し方からして少し怒っているらしい。
まさか、心配して探してくれたとか?
「もしかしなくても、探してくれたんだよ、ね?」
「数日姿が見えないから、ジャスパーから君の友達に聞いてもらったんだ。そしたら仮病で寝込んでるけど、夜に宿の前で待ち伏せてたら会えるっていうから何事かと思ったよ」
シド・・・
ツッコミどころがありすぎる解答ありがとう。
わたし何やってるんだろうか、怪しすぎるよね
「宿の入り口で待ってても、いつまでたっても出て来ないし。まさか窓から出入りしてるとは思わなかったよ、おかげで見失っちゃってここまで来られたのも奇跡に近いな」
「本当、ごめんなさい・・・」
「もう夜に一人で出歩かないこと、いいね?」
「うん。気をつける。」
こんな真っ暗な中まで来て貰って、わたしは結局ラズワルドに迷惑をかけてしまったらしい。
申し訳なさすぎる。
あれ、なんでラズワルドはわたしを探してたんだっけ?
「ラズワルドはわたしに何か用事だったの?」
「あー、うん。そうだね」
「ん?」
「こんな夜にまで会いに来るような用事でもないんだけど、これを渡そうと思ってね」
「これ?暗くてちょっとわからないんだけど・・・瓶?」
「そうか、暗くて見えないよね。やっぱり後で渡せば良かったかな。これはリトの花酒だよ」
「え!わざわざ買ってくれたの?」
「酒の事を知らなかったってことは、まだ友達とも乾杯してないんだろう?これは瓶にもリトの花が掘ってあってね、飲んだ後でも飾れるから人気なんだよ」
「ありがとう、大事にする」
ちょっと自慢気に話すラズワルドの声で、じわじわと胸に嬉しい気持ちが湧いてくる。真っ暗な中で瓶はおろかラズワルドの顔だって見えないのに、今のわたしはなんだか幸せな気持ちなのだ。
さっきまで考えていた暗い気持ちもモヤモヤも全部なかったことになったみたい
さっきまでは星空のように輝いて見えていた光の群れも、今ではそんなに魅力的じゃない気がする。
そういえば、この光の正体は夜光虫っていう虫らしいし。虫の群れは光ってない姿を想像するとちょっと怖いよね。
「ちょっと元気になったね。そうだ、それならここでリトの花酒を飲んでみない?面白いものが見れるよ」
そういうとラズワルドはカチャカチャと音を立てて何かの準備を始めた。
収集がつかなかったので分けました。