ジャスパーの見解
ジャスパーの視点からはじまります。
会場に降りた俺は先ほどまでいたテラスをそっと見上げる。
見えないけど、たぶんそこにはラズと置いてきたエンジがいるはずだ。
エンジは真っ黒でぼーっとした冴えないが、なぜかラズワルドの前だと少しだけイキイキする変な奴だ。それでも、羽なしのあいつを遠巻きに見て、「可哀想」とつぶやく連中よりはずっとマシだと思ってラズに紹介してしまった。
ラズは俺の考えてることなんてお見通しだったんだろう。これ幸いと追い出されてしまった。
去り際のエンジの顔を思い出すと二人きりにしてよかったのか心配だ。気になりすぎて自分の求愛どころじゃなかった俺は、暗くなりだした途端にテラスへと戻ることになったのだった。
結局、テラスに戻った俺が見たのは案外仲良くなっている二人だったので取り越し苦労だったわけだけど。
友達と宿に帰るというエンジをラズと見送りながら、ちらりとラズを見る。
まだ会場からこちらを振り返るエンジをじーっと見下ろしているが何考えているかわからない。
「結構気に入ったみたいだな?」
「お前以外とこんなに長く話したのが久しぶりだからかな。まあ、楽しかったよ」
エンジがこちらに手を振ろうとした瞬間にくるりと向きを変えて俺のほうをみるラズは多分わざとやってる
「ほんとに気に入ったなら、俺はいいと思うぜ。エンジなら、、、」
「あくまで友人としてだよ、ジャスパー。わかってるだろ。」
「羽なしの俺の相手なんてしてくれるわけないだろ、しかも出会って一日しか経ってないんだ。・・・生まれた頃から一緒だった奴にも見捨てられたような出来損ないを見てくれるわけない」
「お前・・・」
ラズが自嘲めいた笑みを浮かべながら見下ろす先にはたくさんの男に囲まれた女がいる。
髪も羽も肌も白く、愛らしい見た目はよく見慣れたものだ。
「あいつの事を恨んでいるわけじゃないんだよ、ただ、現実を見せつけられたことが辛い」
「悪かったよ、無神経なこと言ったな俺」
いいんだよと笑顔を取り繕うラズを見て失敗したと反省する。
春祭りに参加できるほど回復したとはいえ、ラズはまだ何もかもに絶望したあの日から進んでいない
羽を失い、恋人を失い、諦めきってしまったのだ。
ラズを見てキラキラと目を輝かせたエンジを見た瞬間、こいつなら変えられるかもと思った。
実際に他人との接触を嫌っていたラズが一日一緒に居ただけでも大きな成果だろう。
焦らずに、少しでもいいから変えてやりたい。息苦しさで死にそうになってる友達がちょっとでも生きやすくなればいいと思うのだ。
*
一晩中考えた結果、やっぱりラズワルドの言葉の意味は「お友達でいましょう」なんじゃないかと思う。
あれだけ良い雰囲気じゃない?と思っていたのに特にそういうこともなかったような気さえしてきている。
寝不足でゾンビみたいな顔色のわたしを見て、シドは一緒に宿に居てくれると言ったが、宿にこもっててもどうせ考え事しちゃって寝られないだけだから一緒に会場に向かうことにする。
「ほんとに大丈夫?顔真っ青よ」
「うん、最初の日よりマシだから大丈夫。せっかくだしご馳走食べたいもん」
「いや、食べ物より他にもっとやることあるでしょ?
ああ、リトの花酒取ってきましょうか?昨日気にしてたじゃない」
リトの花酒・・・
(次に会う時はリトの花の酒を紹介してあげるよ。生じゃなくてね)
ふと浮かんでくるラズワルドとの別れ際の会話
「ううん、いいや。次に飲むことにするね、楽しみはとっておかなきゃ」
「そう?残念ね、一緒に乾杯したかったのに」
「シドなら春の祝福なんてなくてもイチコロにできるよ」
「イチコロって虫じゃないんだから」
あんまり食べ過ぎないでよ!って言いながら会場に消えていくシドを見送ってチラリと上を見上げるがテラスには知らない人達しかいなかった。
テラスがよく見える方の壁によりかかり、楽しそうに踊る人達を眺めながら時折テラスを見上げるが、やはり見知った影はない。
少しでもいいからラズワルドの顔を見たかったのに残念だなあ
今は直接会いたくないけど、顔は見たい。
「お前、上見上げながらボーとしてるとやばい奴みたいだから止めろ」
「あれ、ジャスパーだ」
いつの間にか横に立っていたのは昨日ぶりのジャスパーだ。横には誰もいない、一人か・・・
「残念ながらラズはいないぞ。今日は会場には行かないで宿にいるって断られたからな」
「まだ何も言ってないのに」
「顔見てればわかる。・・・お前さ、また鳥に乗ったのか?」
「いやいや、バドスから出てないし、鳥に乗る用事ないし」
「顔色やばいぞ。また初日みたいに死にそうな顔になってる。どうしたんだよ?」
死にそうな顔ってつまりゾンビですね?そんな顔でわたしはラズワルドに寄りかかったのか・・・それはやばい。
「ちょっとだけ夜更かししたの」
「まさかラズの事を考えてて眠れなかったとかいうんじゃないよな」
「うっ、改めて言葉にされるととんでもない乙女思考」
当たりかよと呟くジャスパーの顔がコイツ本気か?って言ってる
マジだよ、大マジだよ、恥ずかしい!
「エンジはさ、ラズのこと本気なのか?」
「本気?ど、どういう本気?」
「誤魔化すな。ラズと結婚したいと思ってるのかって聞いてるんだよ」
結婚したいかと言われると結婚したい。マジしたい。わたしのドンピシャな好みの顔を毎日見て暮らせるなんて夢のような話だ。ただ、好きなのかと聞かれるとよくわからない
結局、鳥人にとっての羽がわたしにとっては顔ということなら、それは恋とは呼べない気がするからだ。
ジャスパーが聞いてるのはきっとそういうことなんだろう。
黙ってしまったわたしを見下ろしながらジャスパーはため息をついて、ちょっと考える。
「わかんないか、ならさ。ラズと話すのは楽しいか?一緒に居て辛くないか?」
「楽しいし。辛くもないよ」
「そっか、ならいいのかもな」
いいのか?そう思って顔を上げると何故か頭をばしばし叩かれる。なんでよ?!
「花びら、頭に積もってた。で?なんか聞きたいことあるんだろ?」
「うん。あのね、昨日の帰り際にラズワルドがリトの花酒を飲もうって言ってくれたでしょ?あの時はさ、意味を知らなくて。ただ一緒にお酒飲もうってことだと思ってたんだけどさ」
「お前知らなかったのか?!なるほど、だからあの反応だったわけだな」
「思い切って聞くけど、やっぱりお友達でいましょうってことだよね・・・」
あーとかうーとか言いながら困ってるジャスパー。
もういいよ、わかりやすい解答ありがとうございます。
「あいつはさ、今まで色々あったから信じられないだけなんだよ。予防線張ってるっていうか」
「し、信用されてないと??あ、でも怪しまれてはいたか」
アナタ、イイヒト。ワタシ、トモダチナル。くらいのコミュニケーションでごまかしたんだった。
一言、顔が好きです!って言えればいいんだけどなあ。うーん。
「怪しまれてたって、お前ら仲良くなったんじゃないのかよ」
「仲良くなれたけど保留にしてある部分もあるというか、言えてないことのほうが多いというか」
「顔が好きってやつな。俺は初めて聞いたんだけど、お前の集落じゃ流行っているのか?」
「そんなわけないじゃん。わたしだけだよ」
「だろうなあ・・・。」
「信じてないでしょ?」
「まあな、半分くらいは疑ってる。」
「だよねえ・・・集落で言っても信じてもらえないもん。みんな、私が好みの羽をもった男がいないから気を使って嘘ついてるって思ってるんだよ。そんなわけあるかっての」
「わかった。じゃあ、お前が本当にラズのことを好きになったら俺も信じるよ。それで、ラズに説明するのも手伝う。それでいいだろ?」
じゃあまたな。と言って会場に消えていくジャスパーを不覚にもかっこよく思えてしまった。
顔はまったく好みじゃないけど、ほんと良いやつだな
ジャスパーと話しをしてもやもやしたものが消えた途端に、眠気が襲ってくる。そういえば貫徹でした。
シドには声をかけて、宿でひと眠りしようと一人で街中を歩いていると視界の端に瑠璃色がちらついた。
ラズワルド?一瞬しか見えなかったけど、あの色は間違いない。
今日は来ないってジャスパーから聞いていたけど、気が変わったんだろうか?
挨拶だけでもしたいと思って急いで追いかけていくと、雑貨屋に入っていくところだった。
随分と可愛い雰囲気の店だけど、どういったお買い物で?とつい興味を煽られてこそっと店の中をのぞくとラズワルドと白い羽の女の子が一緒にいた。
「ねえ、ラズ!少し話をしたいだけなの。お願い、あなたのためなのよ」
「今まで避けてたのに急にどうしたんだい?もう俺から君に話すことは無いよ」
「避けてるのはお互いさまでしょ!貴方だってわたしと顔も合わせないくせに・・・」
「俺は一応君に気を使ってるんだよ。元恋人がうろついてたら誤解を招く、たとえ羽なしでも多少はね?」
「それは、、」
「ミルキー。話は終わりにしよう。君と俺だけで話していても喧嘩になるだけだ」
「まって、ラズ!」
は?もとこいびと??
白い羽の女の子を振り切って店内から出ていくラズワルドという、昼ドラみたいな場面を見てしまったわたしの頭の中で、元恋人という言葉が響き渡る。
あんな可愛い子が恋人だった?色々あったってそういうことなのか。
ジャスパーと話してて消えたはずのもやもやがまた胸の中で渦巻きだした。
大体の流れができたのであとは最後まで走るのみ、だといいなあ