リトの花びら
「俺は自分にとって都合の良いことをお願いしてると思うんだけど、君は嫌な顔をしないんだね」
「わたしがしたいことですから、わたしにとっても都合がいいんです。」
そう言うと今度は困ったような顔になる。
困り顔も良いな。どんな顔も素敵で美形すごい
「俺には君に都合がいいことがわからないな。君はジャスパーに何か頼まれて仕方なく俺に付き合ってくれてるんだろう?」
「頼まれたというより、わたしがジャスパーに頼んだんです。ラズワルド、さんにお礼を言いたいって」
「ラズワルドでいい。昨日のことは本当に些細なことだから別に気にしなくていいんだ。お礼もさっき言ってもらったし、ジャスパーを会場に行かす手伝いもしてくれた。きっと、ジャスパーのことだから礼のついでに俺の話し相手になってくれとでも言ったんだろ?あいつは待ち合わせに早く来るようなタイプじゃないから俺が来る前に色々と君に話しをしたんだろうね。」
ちょっと違うけど大体その通りだ。
行動が読まれてるよジャスパー!
「あー、大体合ってます。けど、わたしがラズワルドと仲良くなりたいからジャスパーの話に乗ったんです。」
「俺と?なんで?」
「な、何でって、助けて貰ったし、その・・・良い人だなあって」
助けて貰ったし、顔がどストライクだから結婚したいと思いました!なんて言えない。
そんなこと言ったら終わりだ。本当のことが言えないことがこんなにストレスだなんて
こんなしどろもどろな理由で納得してもらえるわけもなく、ラズワルドはどうにも腑に落ちないと言った顔のままだ。
「良い人って、普通だよ。昨日のあの場所に俺以外がいても大半は同じことをしただろうし」
「でも私を助けてくれたのはラズワルドだし、ラズワルドは友達思いの良い人ですよ」
「じゃあ、そういうことにしようか。君は俺の羽のことを何も聞かないでくれたから、俺も今回は聞かない。それでいいよね」
やっぱり困ったように笑うラズワルドは素敵だ。
きっと怪しいと思ってるだろうけど、とりあえずは尋問をやめてくれた。彼は優しいし、本当に良い人なんだろう
「エンジは今回が初めての春祭りなのかな」
「はい、うちの集落は田舎なのでこんなにたくさんの鳥人がいるのは初めて見ましたよ」
「あと一週間もすれば、遠い集落からの参加者もそろうからまだまだ増えるよ」
「まだ増えるんですか!うええ、今でもリトの花と羽が飛び交って賑やかすぎるくらいなのに・・・」
「女性は賑やかなほうが好きなものだけど、やっぱり君は変わっているね。そういえば、リトの花が食べれるって知ってた?」
「え、これ食べれるんですか・・・」
ちょうど手のひらに落ちてきた薄い桃色の花びらは、前世でなじみ深い桜の花によく似ている。
まあ、桜も塩漬けとかで食べれてたし、異世界ならなんでもありだもんな。食べれるのか・・・よし。
花びらを口に放り込んでみるが、特に味はしない。
「あ、本当に食べちゃった。嘘だったのに」
「ええ!!んんん!?飲み込んじゃったじゃん!!!」
さらりと嘘をついたラズワルドにびっくりして花びらをゴクンと飲み込んでしまった。やっぱり特に味はしない。
「あはは、ごめんごめん。君がいつまでたっても固い態度だから冗談言ったらほぐれるかと思って」
「その冗談はわかりにくい・・・」
「生で食べることがないっていうだけで食べるのは本当だよ、本来なら酒に漬けて食べるものだけど。」
「リトの花の酒があるんですね」
「・・・また戻ったね。ジャスパーに対する態度が普段の君だろう?俺にだけ改まられるとなんだか落ち着かないからできればやめてほしいんだけど」
そういえば、最初の緊張した態度を引きずっててずっと敬語になっていた。
まだ、顔をみるとちょっとだけ体がこわばるけど最初の頃に比べると慣れてきたと思う。
美人は3日で飽きるとかよく言うけど、イケメンに一日で慣れてしまったら今後の生活に支障が出そうだ。
「俺の話相手になってくれるんだろう?じゃあ気軽に話してほしいな」
「う、そう言われると。わかった、頑張る、ね」
なんだろう、この一歩前進した感じ。良い雰囲気じゃない?
このまま仲良くなって関係が進むのも夢ではないような気がしてきた。
一番肝心なことは解決していないけど、この楽しい時間が続けばいつかは解決するかもしれない。
そう思いながら、ラズワルドととりとめもない話を続けているといつの間にか周りが暗くなってきて
会場の明かりがぽつぽつと点灯されていく。
「そろそろ時間かな、ジャスパーもそろそろ戻ってくるだろうね。エンジは夜まで会場にいるの?」
「ううん、一緒に来てる友達と宿に帰るよ。あんまり暗くなると道がわからなくなりそうだし」
鳥人は暗いところでは鳥目になるので視力が下がるから基本的には夜間は外出しないのだ。
ただ、春祭りは夜もあちこちに明かりがついているので張り切っている人たちは一晩中でも参加し続ける。
「ラズ!エンジ!待たせたな」
「おつかれ、ジャスパー。楽しんできたか?」
「まあまあってところかな。お前らは大丈夫だったか?」
そういえばジャスパーと別れた時は、私はぎこちない上に不安で挙動不審だったんだった。
「大丈夫だったよ。ね、ラズワルド?」
「まあね。今日はジャスパーの悪だくみに感謝ってところかな」
「は?悪巧みってなんだよ、というかお前らいつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
「その話は宿に帰りがてらにしてやるよ。そろそろエンジを帰さないと本格的に暗くなってきたから解散にしようか」
「うん。それじゃあ、私は友達を探しに行くから・・・。あのまたね!また話したい、ラズワルド。、とジャスパー」
「俺はおまけか。こいつが嫌がってもまた連れてきてやるよ」
「それなら、引きずられて会いに行くことになるかな。次に会う時はリトの花の酒を紹介してあげるよ。生じゃなくてね」
二人に別れを告げて、テラスから会場に降りてシドを探す。
シドもわたしを探していたようですぐに合流することができた。
今日のシドの成果を聞きながら、ふとさっきまでいたテラスを見上げるとこちらを見下ろすラズワルドと目が合った。表情までは確認できなかったが、遠目でもきれいな顔だとわかる。
手を振ろうか悩んでいると隣のジャスパーに視線が移ってしまったので、振り損ねてしまった。
ぼんやりとした明かりが並ぶ中を歩きながら、降り注ぎ続けるリトの花びらを見る。
「エンジ?私の話聞いてるの?」
「ああ、うん。ねえリトの花って食べれるんだって。シドは知ってた?」
「はあ?急に何の話よ、リトの花の酒のこと?知ってるにきまってるでしょ」
「え、有名なの?」
「リトの花の酒は、『春の祝福がありますように』って意味があるのよ。だから春祭りの会場にはあちこちに置いてあるの」
「春の祝福?なにそれどういう意味」
「そのままよ、いい出会いがありますようにってこと。普通は会場に入って同性同士で乾杯したりするらしいわよ。これからがんばりましょーみたいな感じ?」
「へえ、そうなんだ。・・・ん?同性同士??」
つまり、どういうことなんだろうか。
リトの花の酒を紹介するって言ってたけど、良い縁あるといいね!頑張ろう!ってことだったのか?