ラズワルドの事情
「エンジにお目当ての人ができたですって?!」
「そんなに驚かなくてもいいでしょ、大袈裟な」
「ふらふらして半分死んだような顔色してたと思ったらいつのまに見つけてきたのよ!しかも今日会うんでしょ?それは驚くわよ!」
翌日、宿泊している宿から会場へシドと向かっている最中に昨日会ったラズワルドのことを話したら
あのエンジが!!とかなり驚かれてしまった。
「うまくいったら、あとで私にも紹介してよ?」
「うん、仲良くなれたらね。」
どんな羽を持ってる人なの?と聞かれて、つい飾り羽の色を伝えてしまったがよく考えるとラズワルドは羽が無いんだった。もし仲良くなれたとしてもシドに紹介したらまた何か言われそうだなあ。しばらくはうまく逃げようと決意する。
約束していた場所は昨日のテラスだった。
昨日と同じくあまり人がいないところを見ると穴場らしい。テラスに入ると手を振るジャスパーをみつけるが、隣にはラズワルドの姿は見当たらない。
「あれ、ひとり?」
「ああ。ラズはもう少ししたら来る。先に言っておかないといけないことがあるから時間をずらして待ち合わせにしたんだ」
「よかったー、会いたくないとか言われたのかと思った。」
「まあ乗り気では無かったけどな。昨日、あいつに会った時に顔が綺麗とかなんとか褒めてただろ?」
「うん、今まででダントツ一位なくらいの美形だった」
「それ!あいつの前ではそう言うこと言わないで欲しいんだよ。事故にあって羽を失ったって昨日は言ったけど、本当はそうじゃないんだ。あいつは人に攫われて監禁されてたんだよ、逃げ出そうとした時にその屋敷が火事になってそれに巻き込まれて・・・」
「え、じゃあ、その火事で羽が燃えてしまったの?」
「ああ。あいつを攫った人間は、あいつの顔が気に入ってたらしくてさ。こんな見た目じゃなければって思ってるんだよ。あの事件があってからあいつは人間を憎んでる。だから、思い出すようなことは言わないように気をつけて欲しい」
何とかわかったと伝えたけど、難しいぞ・・・
勝手に攫われて監禁されて、その上大事な羽までなくしちゃったんだからそりゃあ人間を憎むのはわかる。
どこぞの悪趣味野郎が全て悪いし、私も恨んでいる
きっと、私の前世が人間だったことはもちろんのこと
羽より顔が好きってバレるだけでもアウトな気がする
「・・・ラズがきた。いいか、本当に気をつけてくれよ」
「ジャスパー早かったな。きみが昨日の子だね。体調は大丈夫?」
「は、はい。昨日は助けてくれたのにお礼も言わずにごめんなさい。とても助かりました、ありがとうございます。」
「ちょっと支えただけだよ、気にしないで」
うわああ、やっぱりかっこいい・・・
あまりのかっこよさに動揺して声が裏返ってしまった
横でジャスパーが大丈夫かよこいつって顔してるけど多分大丈夫じゃないわ
「俺はラズワルド。昨日フラフラだったのは酒に酔ったからじゃなくて乗り物酔いだったんだって?」
「わたしはエンジです。鳥に乗ったのは初めてで、あそこまで揺れると思わなかったので薬も飲んで無かったんです。」
「お前、薬なしで鳥に乗ったのか・・・それは地獄を見るよ」
「初めてならしょうがない。ジャスパーだって初めて鳥に乗った時は飛び立った途端に降ろせって泣きだしたじゃないか」
「ガキの頃の話だろ、それ!エンジはどこの集落から来たんだ?」
「わたしは東の方のキシゴから。二人はどこ?名前的に西かと思ってたけど」
「正解だ、俺たちはエジュリの出身だよ」
鳥人の国はあちこちに集落が点在しているけど、大体東西南北の四方で文化がちょっと違ったりする。
エジュリといえば、ここバドスにも近い集落だ。
そこからお互いの村の名産の話など、他愛ない話をする。ラズワルドは一見冷たそうに見えるが、穏やかな性格らしい。気を使ってもらってるのかわたしには特に優しく話しかけてきてる気がする。
多分、わたしが彼の顔に緊張しすぎてガチガチの態度だからだろう。
「ジャスパー、お前はそろそろ下に降りたらどうだ?
まだ誰にも求愛してないんだろう」
「え、」
「春祭りはまだまだ長いし、少しくらい大丈夫だろ」
「俺に付き合う必要性はないよ。今日はエンジもいてくれるみたいだし、気兼ねなく行ってこい」
いきなり二人にされても困る!まだ緊張してどこ見て話せばいいかもわからないのに!!
ジャスパーにヘルプの眼差しを送るが、あちらも困った視線を返してくるだけだった。
「それとも、エンジに求愛するつもりだった?それなら俺は邪魔だから退散しようか?」
「そんなわけない!」「ありえない!」
ラズワルドの恐ろしい言葉につい声を上げてしまい、隣のジャスパーと被ってしまった。
お互いに苦々しい思いで視線を合わせると、ジャスパーが「後で合流するからな!」と言って会場に降りて行ってしまった・・・
どうするの、この雰囲気
「あの、わたしは別にジャスパーに求愛してほしいわけではなくて・・・あっちもそんな気はかけらもないと思うし!」
「うん、そうだろうと思った。ごめんね、ちょっと利用させてもらったんだ。」
「利用?」
「ジャスパーはいい奴だから、春祭りで浮いてる俺をほっとけなくてロクに求愛してないんだよ。だから、きみがいてくれるって言えば行ってくれるかと思って」
ごめんね。としれっと謝るラズワルドは全然悪いと思ってなさそうな顔をしていた。
ジャスパーもラズワルドのことを気遣ってたけど、ラズワルドもジャスパーのことを心配していたのだろう
「昨日のお礼ってことでいいから、ジャスパーが戻るまでここにいてくれないかな?君には悪いとは思うんだけど」
「いえ、そういうことなら任せてください。むしろ、ここから居なくなれって言われなくて安心しました」
友情の為っていう大義名分でラズワルドの顔を見続けられるならむしろ役得!
そう思いつつ、ちらりとラズワルドの顔を見るとどこか怪訝そうな顔をしてこちらを見下ろしていた。