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第7節:第二部隊


 耳をつんざく銃声が幾つも重なり、銃弾が妖魔の外殻で弾かれて跳ね回った。

 銃弾では、あの外殻を抜けないのは分かり切っている。


 それでも銃を撃ったのは、妖魔の気を引く為だ。

 案の定、鬱陶しそうに妖魔が身じろぎをする。


 銃撃が止むタイミングで先陣を切って突っ込んだのは、ブレイヴを引かせて戦列に加わったリーガルだ。


「ハッハァ! どうしたカス妖魔! お手々がなくちゃ反撃も出来ねぇかァ!?」


 ガン、と剣を外殻に叩き付けたリーガルの軽口に、他の剣を持った連中も口々に追従しながら剣を叩き付けて行く。


「こりゃいい練習台だ。どんだけぶっ叩いたら壊れるか賭けようぜ」

「良いなそれ。一方的に剣を喰らってくれる雑魚妖魔は初めてだしな!」

「いやいや、チョロいね。やっぱ元がゴミ人間だと妖魔になっても粗大ゴミにしかならねーんだな!」


 第二部隊の挑発に、醜悪な顎を大きく開いてリーガルに噛み付こうとする妖魔だが、リーガルは危なげなく後ろに下がる。


「おっと。そんな風に丸まってちゃ、餌にゃありつけねーよ、ボケ!」


 にこやかにリーガルが親指を下に向けると、妖魔の顔を左右から挟み込むように、別の二人の隊員が前蹴りを打った。


「ボケ妖魔のサンドイッチ完成♪」

「足型くらいはついたかぁ? その方が美形だぜ!?」


 二人は、すぐさま足を引いて後ろに下がると、囃し立てるように他の全員が笑い声を上げる。


「ガァア!」

「おっと、吠えたって届かねーよ、負け犬。いや蜘蛛だったか?」


 リーガルは抜き撃ちした拳銃の銃弾を、妖魔の開いた口の中に撃ち込んだ。

 舌くらいは傷を負ったのか、妖魔がギチギチと人外の顎を軋らせる。


「餌だぜ? 喜べよほら!」

「優しいねぇ、リーガルちゃんよ!」

「次はクソでも投げ込もうぜ!」


 言いながら、リーガル達は後退した。

 妖魔を相手にするのは、それが例え手傷を負っていても極端に精神力を消費する。


 すぐさま交代して休まなければ、あっと言う間にやられてしまうのだ。

 第二部隊は、自分の力を過信しない。


 妖魔が、体を丸めたまま突撃しようと膝をたわめるが、見計らったようなタイミングで銃撃部隊が再び弾幕を作る。


「顔狙えよ、顔!」

「目ェくらいは銃でも潰せんだろ!」

「誰かケツの穴からブチ込めよ! 差し出して物欲しそうにしてるからよ!」


 そうして、入れ替わり立ち代り、罵倒し、馬鹿にするように……死なないように、必死に動く第二部隊に。


 ついに、妖魔がキレた。


「ガァグルゥァアアアアッ!!」


 庇っていた体の前面を起こして、第二部隊を喰い荒らそうと動き始める……正にそのタイミングを、カーズは待っていたのだ。


出力解放(アビリティオーダー)……」

命令実行(ゲットレディ)


 後一度。

 これを撃てば、恐らく鎧はもう使えない。


 だが、第二部隊がいつも以上にギリギリの所で作り出してくれた隙は。

 カーズが、妖魔を屠るのに十分な隙だった。


 妖魔は、目の前だ。


 第二部隊の前衛が……入れ替わり、立ち代わり。


 後ろに引くのと前に出るタイミングを、声すら掛けずに完璧合わせて。


 一切動かずに剣を構えるカーズの姿を、覆い隠していた前衛の壁が―――割れる。


「約束、守れよ!」


 リーガルの声に、応えている余裕はなかった。

 カーズは、全霊を込めて虎の鎧と共に突撃する。


 見ているのは、ただ一点。

 宿主が収まっている、妖魔の胸元。


 極限の集中に、音が消える。

 視界から、色も消える。


 ―――必ず、貫く。


 必殺の意思を込めた刺突を放つ前に、自分の横に何かの気配を感じたが、カーズは目を向けなかった。




「―――《虎徹(コテツ)》」




 カーズの宣言と共に、虎の咆哮と白灼の刃が生まれ。

 妖魔の心臓を、正確に刺し貫く。


 そして。


炸裂(バースト)


 鎧の声と共に妖魔の体内で炸裂した熱が、宿主の肉体ごと、妖魔までもを灼き尽くした。

 

※※※


装殻解除(シェルオーバー)


 装殻の音声と共に、しゅるしゅると身に纏っていた鎧が指輪に収まり、沈黙した。

 もう、2度と声に応えることはないのだろう指輪。


 その指輪を相棒と呼んだ男に目を向けようとして、カーズは極度の目眩と疲労を覚えて膝をついた。


「なん……?」

「装殻を……初戦であれだけ扱ったんだ。しばらく動けん、ぞ……」


 かすれた声は、横から聞こえた。

 目元を抑えながら、なんとか倒れ込まずにそちらを見ると。


 そこに、腹に大穴を開けたブレイヴが横たわっていた。


「ブ……レイヴ?」

「ああ、伝え忘れて……いた。装殻には……僅かながら、自己修復、能力が、あってな……」


 ブレイヴの腹から、止めどなく血が流れている。


「その傷、は」

「蜘蛛の足が一本、再生し掛けてるのが、見えて、な……」


 ブレイヴは笑っていた。

 顔色が、青を通り越して白くなっている。


「お前が……妖魔を殺すために、集中し過ぎている、と、思った……。案の定、だった、な……」

「訛り野郎!」


 リーガルを先頭に第二部隊の連中が駆け寄ってきてブレイヴの腹を止血しようとするが、彼は首を横に振った。


「もう、無理、だろう……これだけの傷……元々、治すだけの体力も、残っちゃいない……」

「黙ってろ! テメェには給金半分、貸しがあんだよ! 取り戻すまで勝ち逃げは許さねぇぞ!」

「返してやるよ……もう俺には必要ない……」

「いらねぇよ、ボケが! 勝って取り返さなきゃ、何も面白くねぇだろうが!」

「我儘な奴だな……」


 苦笑するブレイヴの目から、徐々に光が失われていく。


「ブレイヴ……」

「お前まで、そんな顔をするのか……カーズ」


 ブレイヴは、カーズの指に嵌った指輪を見てから、目を閉じた。


「俺は……満足してる。〝虎〟が、お前と共に……殺す為じゃなく、守る為に……戦ったのが、見れたからな……」


 リーガルが、腹の止血する手を止める。

 明らかに、血の勢いが弱まり始めていた。


「お前を守った……俺と、〝虎〟の、命には……最後の最後に、価値が、あった……」


 そして、そのまま、ブレイヴは息を引き取り。

 リーガルが吼えて、カーズは天を仰いだ。


「ブレイヴ……」


 夜空に輝く星は、 街の発展と共に曇りに覆われて、数を減らしていく。


「お前の名も、俺は忘れない。……過ごした時間は短く、籍がなくとも」


 カーズは、その星々からブレイヴの満足そうな死に顔に目を戻して、彼に聞こえるように呟いた。


「お前は間違いなく、俺の仲間だった」

 


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本編小説はこちらです。(作:遥 彼方 様)
N9920dy『治安維持警備隊第二部隊~ナナガ国の嫌われ部隊の実情~』
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